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5章【そんなに好きにさせないで】

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 カナタは、ツカサのことは少しも理解できていなかった。

 脅されて、恐怖心を抱いて。
 それらが少しずつ解消されて、どこにでもいる恋人同士になった。

 その間もずっと、カナタはツカサを信じていなかったというのに。


「カナちゃん? どうかした?」


 ツカサは初めから、ずっと変わらない。

 ──ツカサはいつだって、カナタのことを認めてくれていたのだ。


「いえ、あの……っ。なん、だろう……オレ、その……っ?」


 指先が、小さく震え始めて。
 ジワリと、頬に熱が溜まる。
 目の奥が、妙に熱くなった気がした。

 ──嬉しい。

 ──幸せ。

 そんな、簡単で単調すぎる愚直な言葉が、カナタの胸にジワジワと広がっていく。

 幼稚な言葉が頭の中に群れを成して集まる中、カナタはようやく見つける。
 一際大きく、存在を主張する言葉を。

 ──ツカサのことが、好き。

 ──大好きだ、と。

 我ながら、単純すぎるとカナタは思う。

 ──ツカサの見た目が、今まで出会った誰よりも整っているから惹かれたのか。

 その問いに対して、カナタはハッキリと『ノー』を言える。
 カナタは決して、同性愛者というわけではないからだ。

 ──それならば、ツカサがカナタにとって、欲しい言葉をくれた最初の人だから好きになったのか。

 その問いに対しても、カナタはハッキリ『いいえ』と答えられるだろう。
 それが理由ならば、もっと早い段階で恋を自覚している。

 ならば、なにが理由なのか。
 なればこそ、どうしてそう思ったのかと。

 そんな問いに対する答えを、カナタはようやく。
 ……ようやく、見つけたのだ。

 ──ありのままのカナタを知って、ずっとそばにいてくれた。

 ──カナタの本質を見てくれたうえで、それでもなお『カナタはカナタだ』と言ってくれたのは、ツカサだけ。

 カナタは、自分に自信があったわけではない。
 むしろ自信なんて、皆無と同然なほど持ち合わせていなかった。

 だからこそ、カナタは【可愛いものを好む自分】と【その延長線で女装じみた真似までしてしまう自分】を、否定し続けていたのだ。
 カナタ自身が、カナタを好きになろうとしなかった。

 本人すらも否定し、嫌悪し、疎んだ【カナタ・カガミ】という男を、ツカサだけは別視点から捉えたのだ。


『人と違うことがダメなんじゃない。人と違う自分に胸を張れない自分が、一番ダメだよ』


 それだけではなく、ツカサは【カナタ・カガミを否定するカナタ・カガミ】すらも、抱擁してくれた。


『世界中がカナちゃんを否定したって、俺はカナちゃんの味方なのになぁ』


 受け止め、肯定し、そばにいるよう求めたのだ。

 不意に、ツカサがカナタのことを心配そうに見つめる。


「カナちゃん? 急に黙り込んで、どうしたの? 疲れちゃった?」


 芽生えて、咲き誇ったばかりの恋情。
 当然そんなことに気付いていないツカサは、カナタのことを至極心配そうに眺めた。

 そこでふと、カナタは考える。

 ──ツカサの顔は、こんなにも格好良かったか。

 ──ツカサの声は、こんなにも胸がときめくような音だったのか、と。
 



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