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9章【未熟な社畜と未熟な悪魔は不慣れでした】
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しおりを挟むそんなこんなで、めでたくカワイとの交際がスタート。これが恋愛小説なら、ゴールテープを切り終えたってところかな!
とは言っても、これは現実。俺とカワイの生活は終わったりしないし、これからも全然続いていく。
ついでに言うのなら……俺の生活だって、不思議なことになにも変わらないのだ。
「もう、無理だ。元気が、出ない。会社、行かない……」
今日の俺も、朝から駄目さが炸裂。ベッドにうつ伏せで倒れ、ボソボソと弱音を吐いている。
カワイと交際を始めて、嬉し恥ずかしストロベリーな毎日。これは事実だ、否定しない。なんなら惚気たいくらいだ。
だけど、それはそれ。現実は現実だし、仕事は仕事。いくらカワイが可愛くても、ゼロ太郎が有能でも、これはこれなのだ。
「おっかしいなぁ~。昨日も働いたし、なんなら一昨日も働いたぞぉ~? それなのに、なんで今日も会社に行かないといけないんだぁ~?」
[本日が水曜日だからですね]
「そういうことを訊いているんじゃないよ!」
[最適解だと思いますが]
まったくもう。ゼロ太郎にはもう少し主様心というものを理解していただきたいものだよ。
ゼロ太郎の答えは正論だけど、そういうことじゃなくてさぁ~? ベッドに突っ伏したまま、俺はウダウダと時間を浪費する。
そんな中、寝室に一人の天使がやって来た。
「おはよう、ヒト。今日も起き上がるのつらい?」
「おはよぉ~。ゼロ太郎にいじめられて心がつらいんだぁ~」
「そっか。良かった、いつも通りだね」
「その返しはおかしいと思うなぁ~?」
天使系悪魔、カワイだ。俺の特別な相手──つまり、彼氏とも言う。
今日もカワイはエプロン姿で俺を起こしに来てくれた。いつもの朝と同じように、朝食かお弁当か……とにかく、いい匂いを纏いながら。
「よしよし。今日も頑張って起きようね、ヒト」
ぽふ、ぽふ。不思議な色を纏ったカワイの指が、俺の頭をソフトタッチに撫でてくれる。……う、嬉しい。心なしか、寝癖の跳ね具合を指で楽しんでいる気もするけど、嬉しいったら嬉しいぞ。
カワイは俺の寝癖──違う。頭を撫でながら、優しい声で俺に訊ねた。
「元気出た?」
「まだちょっと足りない。もっと撫でて?」
「よしよし。……元気出た?」
「もうちょっと。カワイがギュッとしてくれたら全快するかも」
「ぎゅっ。……元気出た?」
「あとは、俺のほっぺにチューをしてくれたら──」
[──主様?]
「──ヒエッ!」
冬の朝もビックリな、ゼロ太郎の冷たい声。俺はカワイを抱き締め返しつつ、ガバッと起き上がる。
俺と抱き合う形になったカワイは、一瞬だけ目を丸くした。俺の動きが機敏すぎて、予想外だったのだろう。
しかしすぐに、カワイは現状に順応した。
「元気になったね。良かった」
柔らかなエンジェルスマイルを浮かべて、あろうことか起き上がった俺の頭を撫でてくれたのだ。
まさか、起きるだけでご褒美のナデナデがもらえるなんて。……う、嬉しい。ヤッパリ寝癖を撫でられている気もするけど、嬉しいったら嬉しいぞ。俺はカワイに頭を撫でられながら、心の中で『幸せぇえ~っ』と叫んだ。
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