未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
257 / 322
8.5章【未熟な悪魔と甘い時間です(カワイ視点)】

5

しおりを挟む



 ヒトに喜んでもらえると、すごく嬉しい。ヒトに褒めてもらえるのも嬉しいけど、ボクはヤッパリ、ヒトが喜んでいるところを見るのが一番嬉しいみたい。

 ……だから、少し調子に乗っちゃったんだと思う。

 チーズケーキを焼くと、ヒトは喜んでくれた。ボクは大好きな甘い物を大好きなヒトと毎日共有できて、すごく浮かれちゃっていたと思う。

 毎日、すっごく幸せ。ヒトも同じ気持ちなんだって思っちゃうくらい、幸せいっぱいだった。

 それから、数日間。ボクは色々なチーズケーキの作り方をゼロタローに教わった。試行錯誤を繰り返して、毎日毎日チーズケーキを作り続けたんだ。

 それが、結果的に……。


「──あー、のね、カワイ。毎日チーズケーキを焼いてくれるのは、すっごく贅沢で本当に本当に嬉しいんだけど……さすがに申し訳ない、かな」


 ヒトの表情を曇らせちゃうなんて、気付かないまま。

 ガガンと、ショックを受けてしまう。まさか飽きちゃったのかな、なんて。そんな的外れなことを考えながら。


「毎日本当にすっごくおいしかったよ! 本当に、これからも毎日食べ続けたいくらいだよ!」


 だけどすぐに、ヒトはボクが抱いた不安を払拭してくれた。ヒトはこういうところで気遣い所以のウソを吐かない。だから、これは本心の本音。

 じゃあ、なにがいけなかったんだろう。ボクはヒトの気持ちになって、真剣に考える。

 ……ヒトは、優しい男。だからもしかして、ボクとゼロタローの手間を考えてくれている……の、かな。そんな予測を立てて、ボクはすぐにヒトの気遣いと心配を払拭しようとした。


「ボクのことは気にしなくて大丈夫だよ。作るの、楽しい」
「それはなにより、なんだけど……。あと、えーっとね……」


 どうやら、違ったみたい。それじゃあいったい、ヒトはなにを気にしているんだろう。

 材料費は、大丈夫。ボクがゼロタローに教わりながらパソコンでしている仕事の収入を使っているから、ヒトにメーワクはかかっていないはず。だけど考えてみると、ヒトはそれを知らないかも。

 ヒトが恐縮している理由に目星をつけて、再度ボクは口を開こうとする。
 だけどその前に、ヒトが【ホントの理由】を打ち明けてくれた。


「──太っちゃう、かな」
「──っ!」


 それは、困る。すごくすごく、困っちゃう。
 人間は太りすぎると、病気になる。ヒトは悪魔と人間の混血だけど、それでも【人間】であることに間違いはない。だから、太るとヒトの体が心配。

 確か、人間界で体重の話はとってもデリケート。だからヒトは、ボクに打ち明けられなかったんだ。

 こんな簡単なことにも気付けないなんて、ボクはヒトのつがい失格かもしれない。自分が悪いと分かっていながらも、ボクはシュンと落ち込んでしまった。


「ごめんね、ヒト。毎日ヒトに褒められて嬉しかったけど、ヒトの健康はすごく大切。だから、これからは控えるね……」
「あっ、や、落ち込まないでっ! 嫌だったわけじゃないからっ! ねっ?」


 ヒト、優しい。ダメなボクに、今も気を遣ってくれた。

 人間の体は、脆弱──じゃなくて、えっと。……そう、デリケート。繊細だから、気を付けなくちゃ。ボクはしっかりとそう認識して、決意を固めた。

 ……ちなみに、その後。


[ごめんなさい、カワイ君。分かってはいたのですが、お二人の幸せそうな顔を見てしまうと……私には、とても]


 ゼロタローにも気を遣わせてしまっていたのだと、ボクは気付いたのだった。

 ヒトもゼロタローも、すごく優しい。ボクは『ゼロタローに実体があったら抱き締めたい』って衝動に駆られながら、だけど縮こまって「気付けなくてごめんね」と謝った。

 教訓。甘い物は、甘くない。……なんだか、すごく深いことに気付けた気がする。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【本編完結】君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

処理中です...