未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
159 / 322
6章【未熟な社畜は悩みました】

21

しおりを挟む



 俺の葛藤を知らないカワイは続けざまに今晩のメニューを語ってくれる。


「それとね、トウモロコシのシュウマイも作ったよ。ズッキーニでね、トウモロコシとか肉とかをクルクルッて巻いて作ったんだ」
「うわっ、すごすぎるっ! 器用だね!」

[そして、トウモロコシを使ったプリンがデザートとして用意してあります。カワイ君が最も食べてほしい一品かと]
「それ、カワイが最も食べたい一品の間違いなのでは? でも、俺も楽しみだよっ!」


 カワイが得意気なものだから、作り方を教えたゼロ太郎も得意気だ。なんだか、普段はクールな二人がこうしてテンションを上げているのは見ていて嬉しくなる。

 それにしても、トウモロコシの可能性って無限大なんだなぁ。ビックリ。尊敬と感謝が混ざり合い、俺は思わず頬を緩めてしまう。


「まだ見てないにしても、話だけでメチャメチャおいしそうだよ。本当にいつもありがとう、二人共」


 だから俺はいつものように、カワイの頭を撫でようとした。
 ……その、僅か直前。


「うん」


 俺を見上げて瞳を細めるカワイと、必然的に視線が重なって……。

 ──俺の手は、カワイの頭に触れる寸でのところで止まった。

 じっとりと、嫌な汗。手の平が汗ばみ、妙にしっとりとしてきた。
 今まで、どうして普通に触れたのだろう。今はこんなにも緊張して、怖いくらいドキドキして。……悲しいくらい、申し訳ない気持ちになるのに。

 俺は、カワイが好きだ。大好きだと叫びたい。そのくらい、カワイが好きだ。

 そんな下心を持ってカワイに触るなんて、どう考えても悪いことだろう。そんな罪悪感が、俺の手を止めたらしい。

 勿論、カワイは今こうして俺が抱いている葛藤も知らない。だからカワイは、小首を傾げた。


「……ヒト?」
「え、っ」


 名前を呼ばれて、俺はハッとする。我に返り、もう一度カワイを見つめた。
 そこで俺は、愕然としてしまう。


「どうかしたの?」


 カワイの、無垢な瞳。純粋に俺を慕い、家族愛のような感情を向けてくれていると伝わるそのあどけなさ。

 なにより、カワイは【追着陽斗】という男の素性を知った上で俺を信じてくれている、唯一の相手。

 すぐに俺は、手を引っ込める。それから、引っ込めた手で己の後頭部をわざとらしく掻いてみた。

 危なく俺は、カワイの信頼を穢すところだったのだ。そのやましさゆえに、俺はカワイに目を向けられなかった。


「あー、っと。……着替え。そう、着替え! 着替えなくちゃ!」


 苦し紛れにもほどがある言葉を吐き、通路を歩く。宣言通り【着替え】を目的にし、俺はリビングを高速で通過した後に扉をくぐった。

 扉を閉めて、閉ざされたその扉に背を預ける。追いかけてくれたカワイがなにを思っているのかを確認する勇気もないまま、俺は逃げてしまったのだ。


「駄目だろ、このままじゃ……!」


 カワイのために、カワイと距離を取ろう。これがきっと、俺たちにとってのベストなアンサーだ。

 カワイに触れるのを我慢して、カワイに安全で健やかな日常を過ごしてもらう。……そう、それが一番いいに決まってるんだ!

 朝から悩み続けていた問いに対する答えが、ようやく決まった。ならばあとは、気合いだけ。


「よしっ!」


 俺は両頬をバチッと手の平で叩いてから、かなり強引な手法で気持ちを切り替えた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...