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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む俺の発言になぜか顔を赤らめた後、カワイはどこか誤魔化すようにテキパキと行動を始めた。
「ボク、そろそろ起きるね。ヒトは? まだ寝る?」
「あー、えっと。……うん。ごめん、もう少しだけ」
「ううん、いいよ。ヒトは寝るのも仕事。昨日はいつも以上に帰りが遅かったから、もう少し休んで」
「……ありがとう」
優しい。その優しさが、かえって胸をチクチクしてくる。
うぅっ、申し訳ない。カワイはなにも悪くないのに。寝室からカワイがいなくなった後、俺は仰向けになる。それから、腕で自らの目元を覆った。
どうにかカワイの無事を確保しつつ、自分の気持ちに折り合いのようなものを付けなくては。そんなご都合的な答えを探すために頭を回転させてみるも、今はまだ寝起きだからだろうか。全く考えがまとまらない。
だったら、仕事中に考えよう。俺の思考が最も冴え渡っている職場でなら、きっとなにか答えが見つかるはずだ。
そんな、どこか【問題の先延ばし感】を抱きつつ。俺はそっと、腕の下で瞳を閉じた。
* * *
──結局なにも解決策が見つけられないまま、熱心に仕事をこなしてしまったぁッ!
ぎこちない朝の時間を過ごし、俺は多少の駄々をこねつつ今日も出勤。そして、安定の残業。……通常通りに、サービスで。
それほどまでに多忙を詰め込んだ日中で、俺が求める【答え】なんてものを考える隙も暇も余裕も無かった。……という、言い訳。
分かっている、分かっているさ。俺は仕事を理由に、現実逃避をした愚か者。俺はヨロヨロと覚束ない足取りのまま、マンション内の通路を歩く。
どうしよう。どうしよう、本当に。カワイとの接し方に対する打開策も見つからなければ、帰る直前に見つけたデータ集計が数式をミスしている理由も見つからなかった。……いや、数式はあともう少し時間があれば解決するはずだ。自分を信じろ。
だけど、ことカワイに関しては自分を信じられない。なぜなら俺は今朝、眠るカワイの額にキスを──。
「──うぐぅッ!」
[──主様、いかがなさいましたか?]
襲い掛かる罪悪感に耐えきれず、俺は壁に体をドンッと体をぶつける。これもある意味【壁ドン】なのかなぁ、なんちゃって。
とにもかくにも、これはまずい。このままだと俺は、マジのマジでゼロ太郎に通報されてしまう。
などと悩みながら、恐る恐る帰宅。すると、すぐにカワイが姿を見せてくれた。
「おかえり、ヒト」
「う、うん。ただいま、カワイ」
平常心、平常心……。俺は努めて普段通りの自分を演じつつ、カワイに挨拶を返す。
カワイはスリッパをパタパタと鳴らしながら俺に近付き、俺を見上げた。
「昨日の夜、ヒトが『暑い』って言ってたから、今日は冷たいタンタンメンを作ったよ」
「担々麵かぁ。いいねいいねっ」
[豆乳をベースに、今回はトウモロコシを入れてみましたよ]
「なんっだそれ! おいしそうが過ぎる!」
褒められて嬉しいのか、カワイがさらに俺へと近付く。
うっ、うわぁ~っ! 今日も可愛い! カワイが可愛いぞ!
俺を見上げて、心なしか瞳を輝かせているカワイを見つめる。そうしていると、俺の頭の中には『カワイが可愛い!』という単語しか出てこなくなってしまった。
……前途多難がすぎる!
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