154 / 212
6章【未熟な社畜は悩みました】
16
しおりを挟む分かってはいたつもりだったけど、どうやら分かっていなかったらしい。
自分が今、どれだけ贅沢な状況にいるのかと。俺は、しっかりと理解できていなかったようだ。
好きな子が『おかえり』と言ってくれて、好きな子が俺を労わってくれる。好きな子が俺のために料理を作ってくれて、家事をしてくれて……。
「はい、ヒト。食器と飲み物だよ」
「わ~いっ!」
好きな子が食事のために使う食器を用意してくれて、飲み物まで運んでくれている。
「ホントは今日、デザートを作って待っていようかなって思ってた。だけど材料が足りなくて諦めた」
「そうだったんだね。じゃあ、アイスを買ってきて正解だったかも?」
「うん、嬉しい。だから、明日はボクがデザートを用意するね。腕によりをかけておいしいデザートを作るよ」
「本当っ? わ~いっ、カワイの手作りデザートだぁ~っ!」
好きな子が、食後のデザートまで作ってくれて……。
……って!
「──もっと俺も頑張れよッ! 頑張れよッ、俺ぇッ!」
「──わっ。ビックリしたっ」
尽くされっぷりに気付き、俺は愕然と絶望と悲嘆が同時に襲い掛かって来たような衝撃を受けた。
俺は椅子に座ったまま、両手で頭を掻きむしり始める。勿論カワイは俺の心情も頭の中も分からないので、正面でただオロオロとしていた。そんな姿も、可愛い。
いやしかし、これはかなり危ないのでは? 俺は今さらすぎる気付きに、ひたすら驚愕する。
俺がカワイを好きになる理由は、両手両足の指の数でも足りないくらい沢山あるのだが、その逆はどうだろう? 俺はチラリと、カワイを見る。
「ヒト? どうしたの?」
綺麗な瞳に、可愛い顔。言動もいちいち可愛くて、しかもいい子。
対する俺は、どこにでもいる平凡な青年。特徴的な部分と言えば【悪魔と人間のハーフ】って部分だけど、それがプラスな意味を持つアピールポイントになるとは言えない。と言うか、むしろマイナス寄りな気がする。
ついでに言えば、家事はできないし家では迷惑ばかりかけているし……。平日は帰りがいつも遅くて、家族孝行なんてひとつもできていない。
「ごめんッ! 社畜でごめんッ! 駄目な男でごめんーッ!」
「ゼロタロー、どうしよう。ヒトが変」
[主様が変なのはいつものことですよ]
「それは──……それは、そう」
「フォローしないんかい!」
なんと言うことだ。これでは、カワイと両想いになるなんて【描くことすら烏滸がましい夢のまた夢】というやつではないか!
いやでも、だからと言ってなにができるっ? 今の俺にできることなんて、そんなもの──。……枝豆のミニピザ、おいしそうだなぁ。
……駄目だ、空腹で頭が回っていないぞ。ここは先ず、健康的な青年らしくご飯を食べよう。
頭上からゼロ太郎が[健康的な食事の時間ではありませんがね]と苦言を呈していたけど、まぁそれはそれ。そもそも俺、難しく色々ゴチャゴチャ考えるのに向いてないんだよね。うんうん、仕方ない仕方ない。
と言うことで、ほんのりと湯気を立てている料理をパクリ。
「ん~っ! おいしすぎて、ほっぺが落ちちゃいそうだよ~っ」
「えっ。……えっ?」
「ひゃわい?」
あれ、なぜだろう。カワイが突然椅子から降りて、わざわざ俺に近付いて、俺のほっぺを両手でもにっと持ち上げたぞ。……えっ、なぜ?
まさか、本当に俺のほっぺが落ちると思ったのかな? くぅっ、可愛いじゃないか! またしても惚れ直しをしてしまったぞっ!
料理がおいしくて、優しくて、可愛い。俺はカワイの料理とカワイの魅力をしっかりと噛み締めた。
13
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる