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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む言われなくたって、そんなこと決まっているじゃないか。俺はずっと、カワイを信じている。俺が俺を信じられなくたって、俺はカワイを信じているのだ。
……なら、そのカワイが、俺を信じてくれているのなら? 転がったボールを追うこともできないまま、俺は頭の中から……心の奥底から、答えを追い求めた。
カワイが俺を、信じてくれている。俺がカワイを、信じているなら。
──俺も、自分を信じられるのだろうか?
「……ありがとう、カワイ。いきなり勝手に、身の上話を語り始めちゃったのに、こんなに真剣に話を聴いてくれて」
「うん、ヒトは勝手」
「いたたっ。カワイの言葉はゼロ太郎と同じくらい刺さるなぁ~」
ボールを拾って、俺はカワイに笑顔を向ける。
まだ俺は、答えられない。そう、カワイは分かってくれたのだろう。
「ヒトの母親は今、どこにいるの?」
俺が投げたボールを受け止めながら、カワイがそう訊ねたから。
もう隠すことなんてない。だから俺は、素直に答える。
「さぁ、どこにいるんだろうね。俺はあの人に嫌われていたし、それに、もう……」
投げられたボールを受け止めて、もう一度、投げ返す。
「俺を生んだ直後に、最愛の男がいなくなった。だから、俺の母親──……あの人は、俺を恨んでいる。そんな人が、俺に居場所を教えてくれるわけないよ」
「そうだったんだ」
「うん。だから俺は、あの人の居場所を知らない。あの人も俺の居場所を知らないし、そもそももう、あの人は俺のことなんか思い出したくもないんだよ」
「そっか。……寂しい、ね」
そうなのかもしれない。俺はずっと、寂しかったんだ。
「ヒトが【家族】を大切にするのは、そういう理由だったんだね。ボクとゼロタローを大事にしてくれるのは、ヒトが、その……」
俺が心の奥底にしまい込んでいた感情を、カワイは見抜く。
だけど、言葉の果てを続けない。優しいカワイに、言えるわけがないんだ。
──ヒトが、家族に愛されなかったから。だからヒトは、家族に固執しているんだね。……なんて。優しいカワイには、言えるわけがないのだ。
全てを察した俺は、笑って見せた。
「うん、そうだよ。俺は【家族】に強い憧れがあるんだ」
「……そ、っか」
ボールを握って、カワイは黙る。
それから、すぐに。
「じゃあ、もう一回言わせて。公園で変質者からボクを助けてくれたヒトに、ボクが伝えた言葉」
カワイは顔を上げて、そして──。
「──ボクは、ヒトがいてくれて良かった。ボクは、ヒトが生まれてきてくれて嬉しいよ」
──笑顔を、見せてくれた。
その笑顔を見て、言葉を受けて、俺は……。ようやく、この数日間ずっと燻っていた【なにか】の正体が分かった。
……そうか、そうなんだ。あの日の言葉をもう一度伝えられて、今度こそハッキリ分かった。これで分からないなんて、そんな男ではいたくないのだから。
俺は、カワイの見た目が好みドストライクとか、カワイが弟属性だからとか……そういうのを、関係なく。
俺に、その言葉を伝えてくれた相手。カワイが、俺にとって初めての相手だったから。
だらしないところとか、ダメダメなところとか。それだけじゃなく、俺の素性を知ってもなお、その言葉を伝えてくれた。カワイが、俺の欲しい言葉を優しく投げてくれたから……。
「──ありがとう、カワイ。俺も、カワイがいてくれて本当に良かった。……カワイに出会えて、本当に幸せだよ」
──カワイがカワイだから、好きになったんだ。
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