未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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5章【未熟な社畜は自覚しました】

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 キャッチボールを続けながら、俺は身の上話を始めた。
 これ以上、カワイに隠し事をしていたくない。身勝手だけど、そう思ったからだ。


「父親は刹那主義の酷い悪魔だったみたいでさ。人間の女性との間に子供を作ろうって思った理由は【悪魔の子を人間が宿せるのか】って気になっただけなんだって。それで、産まれた俺を見て満足して、どこかに消えた。だから俺は、魔界のことも悪魔のこともなにも知らない」
「うん、そうみたいだね。ヒトは悪魔のことも魔界のことも、全然知らない」

「あははっ、ハッキリ言うね? ……だけど、俺の血には悪魔が混ざっている。だから俺は、なにを極めたってトップにはなれない。人間の血も混ざっているから、魔界でだってそれは同じ」
「だから、野球を辞めたの?」

「うん、そうだよ。ちょっと、子供っぽい理由かな? ……だけどね、子供の頃はそれくらいショックだったんだよ。俺の運動神経がいいのも、周りより要領がいいのも、全部【悪魔の血が混ざっているから】だって。そう考えると、なんだかね」
「そう、なんだね」


 テンポよくボールを送り合っていると、カワイが突然動きを止めた。


「……カワイ? どうしたの?」


 グローブで包んだボールを、ジッと見つめている。いきなりどうしたのか、俺にはカワイの考えが読めなかった。

 俺が訝しんでいると、カワイはなにもなかったかのように顔を上げる。それから、閉じていた口を開いた。


「──ボク、野球なんてできないよ」


 言葉と同時に、ボールが投げられる。さっきまでと同じく、ヒョロヒョロの球だ。俺は難なく、カワイが投げたボールをキャッチする。


「それはそうだよ。だってカワイは、野球の練習なんてしてないでしょう?」
「うん、してない。だから、ボクは野球が上手じゃない」


 ボールを投げ返すと、カワイは不慣れそうな動きのままキャッチしてくれた。
 それがまた、投げ返されて──。


「──だから、ヒトが野球を上手にできたのは【悪魔だから】じゃないよ。ヒトが【努力をしたから】だよ」
「──っ!」


 グローブに触れた優しい球を、思わず、落としそうになってしまった。


「ヒトは一生懸命で、ステキな男。人間だからとか、悪魔だからとかじゃない。ヒトはヒトだから、すごくすごい男なんだよ」
「え、っ。そ、れは……。……あ、ははっ。カワイ? いきなり、どうしたの? さすがの俺でも、ちょっと照れちゃう──」

「──ヒト、茶化さないで。ボクを見て、ボクの声を聴いて」
「──ッ」


 ボールを、投げられない。


「ヒトは違うの? ヒトはヒトを、そう思ってあげられないの?」


 カワイが真っ直ぐ、俺を見ているから。その目から視線を逸らせないから、俺は動けなかった。


「俺は……。……俺を、俺は……っ」


 グローブ越しに強く、ボールを握る。硬い感触が、手の平に伝わった。

 ……いつか。いつかあの人と──母親と分かり合える日がくるんじゃないかって。そうなりたくてがむしゃらだった頃も、俺にはあった。
 いつか、俺たちを捨てた父親が帰ってくるんじゃないかって。戻ってきて、家族としての時間を過ごせる日が来るって、信じていた頃だってあった。

 だけど俺は、ただの一度も──。


「──じゃあ、ヒトはボクを信じたらいい。そして、ボクが信じるヒトを信じてほしい」


 カワイの言葉に、ついに俺は。


「カワイ……」


 持っていたボールを、落としてしまった。




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