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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むそんなこんなで始まった、仕事終わりの飲み会。
「さぁ、部長。お次はなにを飲みますか?」
部の中でも酒豪と名高い部長を相手に俺は、次の酒を訊ねていた。
言うまでもなく、俺は飲み会や宴会が苦手だ。それはそうだろう。俺が日常的に会話をする相手って、ゼロ太郎だけなんだぞ? つまり、俺はコミュ障というやつなのだ。……自称。
ならばなぜ、俺が進んで部長に酒を飲ませているのか。理由は、単純。
「それよりも、追着は飲んでるか? 飲んでないんじゃないか?」
「あははっ。確かに、こっちのグラスも空になっちゃいましたね。それでは、部長と同じものをいただきます」
こちらの部長は見ての通り、自分も飲みたがりの上に飲ませたがりなのだ。
誰かがストッパーにならないと、部長は目についた部下に『飲まないのか?』と言ってしまう。今の時代、これは【アルハラ】として疎まれてしまうのだ。
ということで、飲み会は苦手でも酒は不得意ではない俺が、進んでストッパーになっている。
ビールの後、日本酒にシフトチェンジ。間に梅酒を挟みつつ、店によっては物珍しいアルコールを注文。これが、部長のセットリストだ。
このセトリについていきつつ、他の職員が円満に飲み会を楽しめているか確認する。場に馴染めていなさそうな子がいる場合は率先して輪に入れるような空気と話題を振り、ヒートアップしすぎている子がいるのならば和やかに諫める。
これが、この俺──【係長】という役職を拝命している中間管理職の宿命。
ちなみに課長は、酒を飲むと泣き上戸になる。最近の話題は『娘の反抗期がつらい』だ。少し前までは『パパと結婚すると言ってくれて可愛い』だったのに、時の流れとは残酷なものである。
注文した日本酒が届き、部長はご機嫌。グラスに口を付けて「この日本酒、飲みやすいですね」と一言添えれば尚ご機嫌だ。
さて、部長からは一度離れても大丈夫だろう。次は、端の方で苦笑いを続けている子にさり気なくフォローを入れるとしようか。
中間管理職の宿命だなんだと言いつつ、なんだかんだと場の空気をまとめるのは好きでやっていることとは言え、あぁ~……。
──カワイが、恋しい~っ!
* * *
つつがなく、滞りなく。本日の飲み会は終了だ。
部長と課長をタクシーまで案内し、会計で領収書の発行を頼んでいると。背後から、月君がやって来た。
「センパイっていつも、率先してお酒を飲んでくれますよね」
月君の言葉を皮切りに、続々と後輩たちがやって来る。
「本当に助かりますっ! 部長、アルハラがほんっと~に酷いので!」
「課長の愚痴も、一度ならいいんですけど毎回同じ内容なので地味にきつくて……」
「今日の飲み会、うまく輪に入れなかったのを気にかけていただいて……! 本当にありがとうございましたっ!」
おっ、おぉ~っ。なんだか、面映ゆいぞ。
会計の女の子にお礼を伝えた後、俺は後輩たちをクルリと振り返った。
「苦手なものを無理して飲む必要なんてないよ。俺は酒が苦手じゃないから、困ったときは遠慮せずに頼って?」
「センパイ~っ!」
「それに、せっかくの飲み会だからね。全員が楽しい思いをして、おいしいものを食べて……素敵な記憶を共有できたらいいなって、俺は思ってるよ」
「「「追着係長~っ!」」」
さてと、そろそろタクシーに同乗して部長と課長を家まで送り届けなくては。
「それじゃあ、みんなも気を付けて帰ってね。今日は、お疲れ様」
「「「「お疲れ様でしたっ!」」」
お店の前で解散し、俺はタクシーに乗って部長と課長をそれぞれの自宅まで送り届ける。それから、最後の行き先として俺が暮らすマンションを指定した。
……さぁ、やっとの帰宅だ。俺はエレベーターに乗り、自分の部屋がある階で降り、それから玄関扉へと向かって……。
「──んあぁ~っ! たっだいまぁ~っ! ご主人様兼ダーリンのおかえりだぞぉ~うっ!」
張り詰めていた【理性】という名の糸が切れたので、俺は玄関先でバタリと倒れ込んだのだった。
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