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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むあまり深く考えずに選んだ引っ越し先だったけど、今思うとかなり便利すぎる部屋な気がする。
人工知能が搭載されている部屋なので、音声通話なんて朝飯──いや、昼飯前。いや、昼飯は食べ終わったけども。
ゼロ太郎がいればスマホと部屋を繋ぐなんて、ちょちょいのちょいっ! 俺がゼロ太郎に通話を頼むとすぐに、スマホの画面には【音声通信中】と表示された。
「あっ、もしもし、カワイ? 陽斗だけど、俺の声聞こえてる?」
訊ねると、スマホから声が返ってくる。
『うん、聞こえる。でも、ヒトはどこ?』
「これは通話っていうとっても便利な文明の利器ってやつで~……詳細は後でゼロ太郎に訊いてみて?」
『分かった』
素直だ。きっと今頃、カワイは部屋の中をキョロキョロしながら俺を探してくれているに違いない。はぁっ、想像だけなのに癒される。カワイ、ありがとう。
『それで、どうしたの? 初めてツーワしてくれたけど、急用?』
確かに、カワイを保護して一週間経ったけど、通話したのは初めてだったっけ。カワイが戸惑うのも納得だ。
「えっとね、急用ってわけじゃないんだけどさ。今朝も言ったけど、今日は帰りが遅いからお夕飯とか気にしなくていいからね」
『うん、分かった。……それを言うために、わざわざ?』
「あー……。……うんっ! そうだよっ!」
本当は、職場で寿退社を望まれているかもしれないという悲しみを癒すために~……という下心があったんだけど。それは言わないでおこう。
カワイは俺に対して『ヒト、律儀だね』と感心してくれているし。いいとこ取りしよう。
『でも、ツーワ嬉しい。ヒトと離れていても、声が聞こえるから』
「じゃあ、これからは通話しながら仕事しようかな」
[容認いたしかねますね]
ちぇっ。ゼロ太郎は真面目だなぁ。
カワイはカワイでゼロ太郎の言い分に納得したらしく、特に残念がった様子も滲ませずに『仕事のジャマになるもんね』と言っている。物分かりが良すぎて、むしろちょっぴり寂しいぞ。
『とにかく、飲み会は了解。でも、飲み過ぎには注意してね。人間はアルコールを摂取しすぎると【二日酔い】って病気になるって聞いた』
「うん、ありがとう。気を付けるね」
正確には【病気】じゃないんだけど。カワイの心配は本物なので、ツッコミは入れない。後々、ゼロ太郎が訂正しておいてくれるだろうし。
「それじゃあ、そういうわけだから。通話、切るね」
『待って、ヒト。あとひとつだけ、言わせて』
えっ。そっ、それはもしかして、俺に対する『恋しい』とか『寂しい』とか、そういう類の可愛い気持ちを──。
『──カンパイするとき、グラスは少し下にぶつけるんだよ。傾けるの、忘れないでね』
「──あー、うん。気を付けマース」
出た。魔界で書籍化しているズレた【人間界の常識】だ。
カワイとの通話を終えた後、俺はテーブルに肘を載せた。それから、両手で頭を抱えて……。
「ゼロ太郎、どうしよう。あんなに活き活きと披露されちゃったら、俺も常識として受け入れざるを得ない気がしてきた」
[他人を傷つけるものではないので、それはそれで良いかもしれませんね]
ゼロ太郎と共に、ほんのりと決意を固めるしかなかった。
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