六音一揮

うてな

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3章 即興間奏

第34音 天資英邁

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【天資英邁】てんしえいまい
生まれつき才知が非常に優れている事。

=================

ルネア達はその占い師の家の前まで来た。
周りの風景に馴染んだ色をした家で、小さく質素。

「どうぞ?」

まめきちはそう言って扉を開けた。
中は真っ暗だった。

「児童園の園長室もこのくらい暗いですよね?」

ルネアが聞くと、まめきちは言う。

「私は単に明るいのが嫌いなだけだけど、こっちはただの演出さ。」

そう言って部屋の明かりのスイッチを入れた。
すると青いライトが点き、星のついたモビールから青い光が反射する。
光は天井や床に拡散し、ゆらゆらとうごめいた。
そのモビールは天井に多く飾っており、イルミネーションの様に輝いていた。
壁は全て青い布で覆われ、その壁には幾つか鳩時計が設置されている。

一同がその光景に感嘆の声を上げていると、奥の布がめくれた。
そこから出てきたのは、肌が見えない衣装を着た人間。
顔までも隠しており、服装はまるで占い師。

その時、鳩時計が鳴り出した。
扉が開き鳩が出ると思われたが、そこからは夜光星が出てくる。
夜光星の石は微かに光を放ちながらも、床にゴトっと落ちた。
みんなはその夜光星を見ていると、占い師は言う。

「わざわざ遠くからありがとう、【占い師】です。」

占い師は深々とお辞儀をするので、一同は挨拶をした。

挨拶を終えると占い師は自分が出てきた布をめくり、布の裏にあった扉をみんなに見せる。

「ここは占い室なので、こちらへ」

そう言われ、みんなは隣の部屋に移る事に。

こちらは普通の部屋で、カーテンが開けられ、昼の光がしっかり入っている。

「暑くねぇのか?そんなカッコして。」

テノが占い師に聞くと、占い師はクスッと笑った。

「暑いですよ。
でもどこかのヒートテックを着用したバリトン合唱団員くんより涼しいです。」

占い師はそう言ってアールの事を見ると、アールは反応して相手の顔を見る。
テノは笑っていたが、次に驚く。

「え!?なんで知ってんだテメェッ!」

アールは答えなど気にしておらず聞いた。

「今日は何の用で私達を?」

それにまめきちは笑うと言う。

「たまにはピクニックもいいだろう?みんなと仲良く出来たかな?」

一同はその理由にブーイングを放つと、ルネアは部屋の隅の机を見つめた。
その机の上には写真立てがあり、三人で撮られたものだった。
一人は占い師、もう一人は緑の長い髪を持つ女性、そして最後は橙色の髪を持つ男性だ。

「これは?仲の良いお友達ですか?」

占い師は微笑むと言う。

「ええ」

シナも一緒に見に行くと、笑顔になる。

「この女性、すっごく綺麗。」

それを聞いたまめきちは言った。

「みんな驚かないでくれ。
写真の女性はね、このサグズィを作った者なんだよ。」

『えぇーっ!?』

一同は驚いてしまうと、占い師は苦笑。
ルネアは思わず言った。

「サグズィを作った女性って…女神『ツィオーネ』の事ですよね!?
そんな女神と写真撮っちゃってる占い師さん何者!?」

占い師は答えようともしないので、ノノが呟く。

「サグズィで祀られる女神様の事じゃな。今はどこにいるんじゃ?」

それを聞かれた占い師は黙ってしまった。
まめきちはそれに答える。

「今はサグズィを捨てて消息を絶っている。
争いが嫌いな人間だったもので、争いの多いサグズィに居られなくなったんだと。」

「平和主義ですかぁ~」

ルネアが言うと、ラムも言った。

「神様でさえ居られなくなるほどの争いなんだ…!」

それに対し、まめきちは言う。

「神様って言うと語弊があるかもね。
サグズィは魔法の力で大地を浮かせているだけだからね、強大な魔法力を持った女性というわけだ。」

一同は納得すると、占い師は話を逸らせたいのか言った。

「ま、昔話はそこまでにして、みんなを占ってあげる!私の占いは必ず当たるよ。」

たまにはいいものだと思ったのか、みんなは占いを体験してみる事になった。



アールはみんなが占いをしている間、外に出ていた。
理由は単純で、おにぎりを食べたいから。
近くの切り株に座って、みんなが食べきれなかった残りのおにぎりをパクパク。

アールは言わずもがな食べる事が好きで、ダニエルの料理が一番のお気に入り。
ダニエルの料理は、彼の鋭い五感によって絶品に仕上げられる。
だからこそダニエルの料理が好きで、いつも残さず食べてしまうのがアールなのだ。

「おいし…」

アールは呟くと、黙ってもぐもぐ。
内心、この食べ物を独り占めできて嬉しいのだろう。
アールはおにぎりを食べながら考えた。

(それにしてもさっきの占い師…私がヒートテックを着てる事を言い当てた……まさかな。)

「アールくん?」

突然、背後から占い師の声が聞こえた。
アールは占い師の顔を見ると、占い師は笑う。

「美味しそうなおにぎりだね。私も一つ頂いていいかしら?」

アールは咄嗟にバッグを突き出すと、占い師はおにぎりを貰った。

「君は本当に不器用だね。」

その言葉にアールは眉を潜める。

「先程私について言い当てましたが、まめきちさんから私達の事を聞かされているのですか?
それに…みんなの占いは…」

占い師はふふっと笑うと言った。

「君が食べてる間に終わったよ。今は室内でティータイム。
それに言い当てたのは、別にまめきちから聞いた話じゃない。」

アールはその言葉に首を傾げると、占い師は言う。

「私はただの占い師ではない。
未来を見る能力を持った占い師。そう、誰かに似てない?」

アールは驚きを隠せず呟いた。

「…ルネア…?」

「そう!彼は未熟だけど、私はちゃんと自分の意志で見る事ができるよ。
だから本当は頑張っている君達にヒントを与えたい所だけど…大親友にダメって言われたんだ。」

「大親友…?まめきちさんですか?」

「彼は私の言う大親友の、親友。」

占い師はそう言うと、顔にかかった薄い布の下におにぎりをもっていって食べた。

「美味しい!」

「…そんな事を私に言ってどうする気ですか?」

「え?美味しい事?」

「違います…。」

アールは呆れると、占い師は笑う。

「タメでいいよ。
…私はまめきちに言われたんだ、もし明るい未来があると言うならば彼らにヒントを与えてくれってさ。」

アールがその言葉に反応すると、占い師は続けた。

「君は自分の正体を、真実を知っているかい?
あと、まめきちの正体とか。
なんで君を避ける真似ばかりするんだろうね、一体何が目的なんだろうね…とか。」

「それがヒントですか?」

「まあね。」

それをなんと、ルネアに聞かれていた。
ルネアは外の空気を吸いたくて外に出たのだが、偶然にも聞いていた。

占い師はアールに聞く。

「君が今一番知りたい事は?」

アールは黙り込むと、暫く考えてから言った。

「まめきちさんの目的。あの人は何を考えているかわからない。
あの人だけは、何を調べても答えにたどり着かない。
…もしあの人が私の邪魔をするようならば…」

占い師は笑う。

「大丈夫!君の作戦の邪魔はしないよ。
君がね、失敗した時にだけ作戦を決行するんだ彼は。」

「失敗?」

アールが聞くと、占い師は頷いた。

「トドメを刺したい奴がいるんだって、君の中に。」

「私の…?」

アールは自分の手を見つめると、首を傾げてしまう。

「モンスターの星の歴史でも調べたらどうかな?
そこに答えがあると思うよ!」

占い師はそう言うと、アールは占い師を見る。

(モンスター…魔物の歴史か…)

アールはペルドの事を想像していると、占い師は家に帰ってしまう。
アールは占い師を睨んだ。

(伊達にラムの友をやってきたわけではない…だからわかる。
あの占い師…女口調を頑張って使っているが男だ…。
一体なぜ性別を偽っているのだろう…。)



ルネアは占い師がやってくるので驚いていると、占い師はルネアとすれ違い様に言った。

「ドラゴンの種族は【契約】によって主を手に入れる。
…もっと調べてみて。」

ルネアはその言葉にボーっとすると考えた。

(契約…?アールさんにはまだ秘密があるって事かな…)

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

帰り道での話、ラムはみんなに言う。

「あの人、ルネアと同じ能力を持ってた。力もルネアより遥かに高い。」

「どういう事!?」

シナが聞くが、ラムはわからないのか首を横に振った。
リートは呟く。

「占い師さん…ルネアの先祖様なのかな?
でも、ルネアはプロノス家の王族でしょ?」

ルネアは心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。
言うか迷ったが、ルネアはやがて言う。

「あの、僕は養子なんですよ…。」

『養子!?』

みんなのハモリにルネアは圧倒されつつ頷く。

「それにあの占い師さんについて…僕ちょっと心当たりがあります。」

一同は黙って聞くと、ルネアは続けた。

「四百年前、親の先祖は未来を言い当てる占い屋に会ったのだと。
その時に、四百年後に現れる捨て子を拾うように言われたらしいんです。
そのお陰で、僕は拾われて王子をやっているわけらしいんですが…
小さい頃に聞かされた話です。僕の興味を惹くための嘘かなって最近は思っていたけど、もし違ったら…。」

その話に、一同はただならぬ理由があると感じた。





その日の夕方。
占い師は外で空を見上げながら呟いた。

「ツィオーネ…」

すると背後から、一人の男性の声が聞こえてきた。

「何だって?」

「うわっ!」

その声に占い師は驚くと、真後ろの男性に言った。

「やめてくれよ!」

そこには、橙色のショートヘアの男性がいた。
中世のパーティー服を身に纏っていた。

「スロクルはツィオーネ好きだもんね。」

ほんわかした笑顔で男性は言った。
それに対し、占い師は焦りつつも言った。

「ああ!本名言わないで!ツィオーネの事も!」

その男性はクスクス笑いながらこう言った。

「私の事も話しちゃうんだからいいじゃないか」

「仕方ない。このままだと事態は最悪な方向に。そんな事になれば、君もまた嫌な思いするよ。
…別に覚えてるんでしょ。」

その言葉に男性は黙り込んだ。
それから少し寂しそうに呟く。

「そうだね。同じ過ちは見たくないな」

そこに、まめきちが現れた。

「ならば早いうちにヤツを仕留めなければ」

しかし占い師はそれに敵対するように言った。

「待って!それはアールくんが可哀想。
僕はもう少し考えるべきだと思うよ!」

男性は苦笑いで二人を止めた。

「いやいや、ツィオーネとの約束を守ろう。
手伝いは必要最低限。
見守っていこうよ、ね?」

その言葉に、占い師は少し考えた。
それから言う。

「そう…だね」

しかしまめきちは鼻で笑った。

「私は君等と同等ではいないから、自由にしてもいいんだよね?」

それに対し、占い師は眉を潜めた。
男性は占い師の肩に手を乗せ、静かに「しーっ」と言うのだった。
占い師は溜息をつくと言った。

「帰る。」

そう言って男性の手を振りほどくと、さっさと立ち去る占い師。
男性は思わず苦笑。

「そんなに私が嫌いかぁ…」

既に夕方で、空が暗くなり始めていく中、
占い師スロクルは家に帰っていったのであった。



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