父が腐男子で困ってます!

あさみ

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生徒会副会長

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了は定期的に生徒会の集まりに参加していたが、まだ慣れずにいた。
放課後、少し緊張しながら生徒会室のドアを開ける。

部屋には隼人がいた。見知った顔があるだけで安心する。
相変わらずの涼やかな美貌だ。

「やぁ、今日もまわりの男子を惑わす魔性の受けとして、一日を過ごしてきたのかな?」 
「突っ込みどころしかない発言はやめてもらえます!? どうしてあなたはそんな美形なのに変態なんですか!?」
隼人は入口にいた了の前までやってくると、顔を寄せる。
綺麗な顔にドキリとする。

「何故、俺が美形なのに変態なのか? それはただの美形では面白くないからだ。美形なのにちょっと変。だからこそ人に強い印象を与える事が出来るんだ」
「自分で美形って認めてるし、だいたい美形なだけで人の印象には残りますよ」
隼人は髪をかき上げて格好つけて見せる。
「顔だけでは意味がないんだよ。大事なのは内面じゃないか」
「その内面は違う意味だと思いますよ」
いや、でもこれだけ変人なのを理解して好きになるというのは、ある意味本物の好きではあるのか?

了が考えているとドアが開いた。
「あ……」
振り返ると副会長の相馬ミツルと目があった。
露骨に嫌そうな顔をされてしまった。
彼が定位置に向かうのを見て、了も椅子に腰を下ろした。


気まずかった。
隼人に対して緊張するような事はないが、副会長のミツルに対しては未だに緊張してしまう。
ミツルは寡黙で普段からあまり多くを語らない。
真面目そうだがどこか影があるように見える。
というか、この人俺の事嫌いだよな?
そう思っていると隼人が立ち上がった。

「ちょっと用があるから出てくる」
「へ?」
ドアに向かう隼人を、了はすがるような目で見る。
「ちょ、どこに行くんですか?」
「ん、ちょっとな」
「いや、だから、どこに? それって今でないとダメなんですか!?」
俺を置いていかないで下さい!
この人と二人きりは厳しいです!
そう言いたかったが堪えた。
隼人は目を細めて笑う。

「せっかくだからミツルと交友を深めると良い。交友を深めて、それがいつしか恋へと、ふ、ふふふ……」
「用なんかないんじゃないですか!? ただBL展開妄想したいだけじゃないですか!?」
「そういうワケでごゆっくり。あ、他のメンバーは遅れるそうだから」
「それも仕組んでるんじゃないですか!?」
つっこむ了を無視して、隼人は手を振りながら出ていった。


隼人がいなくなると部屋が静寂に包まれた。
了はミツルにどう接すれば良いのか分からなかった。
何を話して良いのかもわからない。
チラリと見たら目が合った。
ビクリとした。

「尾崎リョウ」
名前を呼ばれて緊張した。
「は、はい……」
鋭い目でミツルは睨んでいる。
「お前は会長とどういう関係だ?」
「え?」
どう答えて良いか悩んだ。宗親と隼人の関係から説明するべきなのか、それとも。
「ハヤトは仕事の出来る男だ」
了の返事を待たずにミツルは話し出した。
「ハヤトは生徒会長になる前から、問題のある人間を正しい方向に導いていた。生徒会長にはなるべくしてなったような人間だ。彼に救われた人間はたくさんいる」
「そう……なんですね」
隼人がしていた行動のいくつかを了も知っていた。
ミツルはそんな隼人を尊敬しているんだなと分かった。

「それでだ。あんなに出来た男が、何故、BLにハマった?」
「え?」
「ビーエルだよBL。俺はまったく知らなかったから、あいつが騒ぎ出してから調べた。そして衝撃を受けた。何故、あいつがBLなんかにハマったのか、俺には理解できなかった。でもそれは良いんだ。あいつがそういうのが好きなら別に止めはしない。あいつが楽しそうならそれで良い」
意外だった。ミツルがこんなに言葉を発するとは思わなかった。
普段はもっと寡黙で静かだ。
けれど目力が強いので存在感は誰よりもあった。

「それでだ」
ミツルが立ち上がって机に手をついた。そのまま了の顔を覗きこむ。
「なんで隼人の『推し』がお前で、BL妄想はお前オンリーなんだ?」
鋭い目で睨みながら聞かれた。

いや、でもそれって俺に聞く事? 本人に聞いてくれよ。
そう思いながら言葉を探していると、ミツルは更に了に顔をよせた。
「顔か? お前の顔が好みなのか? だからハヤトはお前を好きになったのか?」
了はのけぞってミツルから離れた。

「違いますよ! あの人は俺の事を好きなんじゃないです! 推しっていうのは恋愛対象とはちょっと違うんですよ! それに俺でBL妄想するのも、俺の父親の影響ってだけですから!」
了は必死に説明した。
生徒会にいる位だから、ミツルは真面目な性格で、BLとか腐女子とか腐男子とかそういう言葉を知らなかったのだろう。
だからいろいろ誤解している。

「あの人の言ってる受けとか攻めとかって、あくまで自分以外と俺の妄想なんで、あの人が俺の事を好きって事ではないです」
他に誰もいない時は自分でBL展開を作り出すが、それは黙っておく事にした。

ミツルは了の説明を理解したのか、椅子に座りなおした。
「……そうか、ハヤトはお前の事を好きなわけではないんだな」
顎をつまんで呟く様子を見て思った。
これはもしかして、ミツルは隼人の事を好きなのではないかと。

「あの……相馬さんは、その……小清水さんとは親友なんですか?」
好きなんですかとは聞けなかった。
ミツルは無表情で了を見て呟いた。
「俺が親友? まさか、そんなおこがましい事思ってないよ」
「え?」
「ただあいつは俺の恩人だからな、その恩を返さないといけない。だからあいつの力になれるようにこうやって生徒会に入っているし、何かあれば守るつもりでいる」
後半、ミツルは了にというより、自分に誓うかのように話していた。

ミツルは最初から、一歩下がって隼人を支えているイメージだった。
寡黙な所も含めて、ミズキに近い雰囲気がある。
だがミズキとは周りに与える印象が違った。
同じ寡黙でも、ミズキは落ち着いて大人びているという感じだが、ミツルは鋭くて怖いという印象を与える。
烏のように黒い髪がそう思わせるのだろうか。

「やぁ、二人の仲は深まったかな?」
ドアを開けて隼人が戻ってきた。手に袋を持っている。
「俺からの差し入れだよ。購買でお菓子買ってきたから食べると良い」
「ありがとうございます」
了がお礼を言うと隼人はニヤリと笑った。

「さぁ、俺の目の前でポッキーゲームをしてくれ。もちろん唇がつく所までだ!」
「しませんよ!」
了は全力で突っ込んだ。





その日、了は移動教室の為に廊下を歩いていた。
隣にはミズキと響がいる。

「お、あれって生徒会の副会長さんじゃね?」
窓を見て響が言った。
覗いてみるとグラウンドに体操服姿のミツルが見えた。どうやら次の授業は体育らしい。
「あの人、運動出来るのかな? 生徒会って運動より勉強が得意そう」
了が言うとミズキが呟いた。
「いや、あの筋肉を見るに、多分、彼は運動神経良いよ」
「え?」
了は思わず窓にしがみついた。
半袖の体操服から二の腕が見える。ここからは筋肉はあまりよく見えなかった。
他の生徒が友人同士ではしゃいだりしている中、ミツルは一人で佇んでいた。

じっと見ていたせいか、ミツルがこちらに気付いた。
「あ……」
了は戸惑いながらもお辞儀をした。
けれどミツルは無反応だった。心なしまたも睨まれたような気がしていた。

「今、リョウに気付かなかったのかな?」
響が呟く横でミズキが首を振った。
「いや、こっちを見てたよ。俺、視力は2.0あるから間違いないよ」
「じゃ、わざと無視したのか。うわ、リョウちん、生徒会大丈夫? いじめられてない?」
響が冗談っぽく言った。
「いや、イジメられてはないけど、でもまぁ、俺はまだあんまり信用されてないっぽい。小清水さんの紹介だから仕方なくって感じじゃないのかな……」
「おお、彼はあの生徒会長サマのシンパなわけね」
響は納得したように言った。

一人、グラウンドに立つミツルを見ながら考えた。
これから生徒会で過ごしていく間に仲良くなれるだろうか。
せめて睨まれないようになりたい。

カシャ。
聞えた音に振り返ると、響が携帯を構えていた。どうやらミツルの写真を撮ったらしい。
「隠し撮り? え、なんで?」
了が聞くと響は頭をかいた。
「いや、ちょっと気になる事があってさ。言っておくけど悪用はしないよ? あと念のためにいうけど、俺がBLな意味で彼を好きとかもないからな」
「あ、そうなんだ。最近そういう展開多いから、てっきり、ヒビキもかと思ったよ」
冗談交じりに了が言うと響は苦笑した。
「いや、でもそういう発想になるリョウこそBL脳になってきてるんじゃないか?」
「マジか?」
了は本気で自分が毒されてきているのではないかと心配になった。





了が家に帰ると、リビングに隼人がいた。
「え、なんでいるんですか?」
夏休み中、隼人は毎日のように家に来ていたが、新学期になってからはあまり来ていなかった。

「なんでって? もちろん君に会いに来たに決まっているだろう」
両手を広げて見せる隼人の横を通り過ぎる。
「あー、はいはい、あなたのBLごっこにはもう付き合いませんよ」
そう。無視して普通に接すれば良いんだ。
了は隼人の対抗策を見つけていた。
けれど通りすぎた後に後ろから抱きつかれた。
いわゆるバックハグというヤツだった。

「はは、この俺をスルー出来ると思ったのか?」
「もうこれ完全に犯罪じゃないですか!? 夜道の痴漢と同じですよ!? タスケテ、チカンデス!」
了がわざとらしく叫ぶと、書斎から宗親が飛び出してきた。

「何をやってるんだ!?」
宗親の手にはカメラがあった。

「こんな素敵なシーンを見逃す所だった! やるなら最初から呼んでくれ! あ、ハヤト君、もっとぎゅって抱きしめて!」
「こうですか?」
「ノリノリなのやめてもらえます!?」
この二人が一緒だとまともに会話が出来ないなと思った。


宗親が書斎に戻った後で、了は改めて隼人とリビングのソファで向かい合っていた。
「それで今日は何の用だったんですか?」
了が聞くと隼人は真顔で答えた。
「ああ、だから君に会いに来たんだよ」
「だから冗談は……」
言いかけて気付いた。隼人はふざけているわけではないようだった。

「生徒会のメンバーになってどうかと思ってさ。他のメンバーには馴染めたのか、何か困ってないか、一応聞いておきたかったからね」
「……」
普段と違い、真面目な隼人にどう接して良いか、少し悩んでしまった。

「えっと、まだ慣れてはいないですけど、みなさん優しそうで問題ないです」
ミツルに嫌われているような気がする、とは言えなかった。
そんな気がするだけで、何かされたわけでもない。
それにもしかすると、ミツルは隼人を好きで、了の事を恋のライバルだと思っているのかもしれない。
そう思うと余計に隼人には言えなかった。

「あの、小清水さんは相馬さんの事、どう思ってるんですか?」
隼人は手にティーカップを持ったまま動きを止めた。
「ミツルの事? もちろん信頼しているよ。優秀な生徒会副会長だ。いわゆる腹心の部下ってヤツかな?」
「えっと……個人的には、どうですか?」
「個人的?」
「そうです。友達じゃないんですか?」
了が聞くと隼人は微笑んだ。
「ああ、そういう意味か。もちろん友達だよ。親友と言っても良いかな」




隼人が帰った後、了は隼人とミツルの事を考えていた。
ミツルはおこがましいなんて言っていたが、隼人はミツルを親友だと言っていた。
喜ばしい事だ。
いや、そうか?
ミツルが隼人の事を好きだったなら、友達や親友というのは少し悲しい言葉かもしれない。

了はリビングのソファに寝転んだ。
「俺が悩んだって仕方ないよな。もし相馬さんが小清水さんの事を好きでも俺には関係ない話だ……」
口にしながら考えた。
関係ないのか? 本当に? 
もしかしたら、先ほどのようなノリの絡みも、ミツルには不快なものかもしれない。
そうしたら恨まれるのは自分ではないのか?
「勘弁して下さい」
了は呟いていた。
  


翌日。
教室に行くと珍しく響の姿があった。
響は基本的に遅刻ギリギリ登校だ。こんなに早い時間にいるのは珍しい。
逆に奏は早く登校して教室に遊びに来ている事が多い。
今日もミズキと響の横にいる。

「おはよ、早いな」
了に言われて響が頷く。
「まぁ、ちょっと話があってさ」
「話?」
響が頷く。
了は鞄を置くと響達がいる席に向かった。
いつも明るい響の顔が曇って見えた。

「どうかしたのか?」
了が聞くと響は頭をかいた。
「いや、うん、たいした事じゃないけど、一応言っておこうと思って」
「え、なに?」
了はドキリとした。何か良くない事を言われるのだろうか。
身構えていると響は手を振った。
「いや、そんな重苦しい話じゃないよ。でもちょっと気になったから裏を取ってみたんだよ」
「裏?」
なんだその警察とか記者が言いそうなセリフは。
そう思っていると響は携帯を取り出した。

「昨日撮った画像」
見せられたのは相馬ミツルの写真だった。
「俺、あの人の噂を聞いた事があったんだよ。でもただの噂かもしれないから、昨日は言わなかった」
「噂ってなに?」
緊張した。何か良くない話なんだろうか。

「あの人、中学時代有名な不良だったらしい」
「え?」
意外すぎる言葉だった。
真面目な生徒会副会長が不良だった。そんな事があるんだろうか。
混乱する了に響は言う。

「俺の友達にあの人と同じ地域出身のヤツがいて、昨日画像送って確認したんだ。中学では喧嘩上等の一匹狼的存在だったらしいよ。喧嘩じゃ負けなしで、周りはみんなは怯えてたって話」
「マジですか?」
つい敬語になっていた。

「でも更生したって事だよな? 今、生徒会にいるし」
奏が呟いた。
「そう、だよな……」
言いながら了は思った。
不良から更生した。
それってもしかしてもしかしなくても、いつものように隼人の力ではないだろうか。
いつも隼人は誰かを救っている。
それにミツルも隼人を恩人だと言っていた。
ミツルを不良から更生させたのは隼人で間違いないだろうと思った。

「一匹狼の不良か。格好良いな」
奏が呟いた。意外だった。
「え、そうなの? カナデは不良に憧れる系?」
了が聞くと奏は微笑んだ。
「いや、不良っていうか、一匹狼が格好良いなって思ってさ。俺も人間嫌いだったから一人が多かったし、つるむの嫌いだからなんか気持ちわかるなって思って」
「そうだ、カナデも一匹狼だったな」
響がしみじみ呟いた。
「俺は不良じゃないし、ケンカもした事ないけどね」
「でもこの髪は不良っぽくないか?」
奏の金に近い茶髪をミズキが突っ込んだが、響が否定する。
「いやいや、イマドキ髪色は関係ないよ」
友人達が盛り上がっている横で了は考えた。

「なー、もしもだけどさ、生徒会長サマを崇拝しているあの人が、俺にセクハラBLごっこを仕掛ける小清水さんを見たらどうなると思う?」
友人達は黙り込んだ。

「……それはやっぱり良くは思わないのでは?」
「殴られるかもな」
「というか、もしかして副会長は尊敬ではなく、恋愛的意味で会長の事好きとか?」
「え、それは間違いなく恨まれるんじゃ?」
「血の雨が降るな」

「ちょっとみんな怖い事言うのやめてくれる!?」
了は頭を抱えた。そんな了の肩に奏が触れる。

「大丈夫、何かあったら俺が必ずリョウを守るから」
正面から真剣な瞳でミズキも言う。
「俺もリョウを守るよ」
「俺は面白そうだから動画撮るよ」
「ヒビキは俺の心配してないよな!?」
了は響に突っ込んだ。





週に一度の生徒会の集まりに、了は緊張しつつ参加した。
前回までは場慣れと人馴れしていない事で緊張していたが、今回は違う。

今後は隼人がふざけてBLごっこをしないようにしないといけない。
了と奏やミズキで妄想してくれるなら良いが、隼人自身が絡んできたら大問題だ。
そんな事になったらミツルに殴られるかもしれない。
了は何事も起きない事を祈りながらいつもの席に座った。

隼人は全員が揃ったのを確認すると立ち上がって話し出した。
「恒例の他校への文化祭見学だが、今年の日程が決まった」
「文化祭の見学?」
呟いた貴一と、首を傾げる了にむかって隼人が説明をする。

「新人の二人は今回初めてだな。毎年他校の文化祭の見学に行ってるんだ。メンバーは毎回いろいろ変わるんだが、生徒会メンバーや文化祭実行委員のメンバー数人で行く事が多いな。他の学校がどんな事をやっているか、見学して参考にするんだ」
「へー、そうなんですね。楽しそう」
貴一がはしゃいだ声で言った。
「今年は新人二人には参加してもらうからな。日程は空けておいてもらうぞ」
「え?」
了が呟くと隼人がこちらを見る。
「なに他人事みたいな顔してるんだよ」
「スミマセン」
すぐに謝ったがミツルに睨まれた。
内心ビクリとする。
やはり元不良の視線は威力が違う。視線だけで人を殺せそうな勢いだ。

「会長、私も見学に行きたいです。久しぶりにH高校の王子にお会いしたいです」
語尾にハートマークが見えそうな言い方で、女性副会長の夏帆が言った。
「ああ、ナツホ君は彼のファンだったな」
「そうなんです。ラブなんです」
夏帆は両手を組んで嬉しそうに頷いた。そんな彼女をミーハーだと叱る事もなく隼人も頷く。

「俺も彼に会うのは楽しみだ。俺の理想に近い、素晴らしい生徒会長だからな」

他校の王子。それはいったい何者なんだろう。
副会長の夏帆だけではなく、あの隼人まで憧れる人物。
王子というあだ名のようだし、よっぽどの容姿端麗、品行方正、絵に描いたような人物なんだろうか。
ちょっと気になった。

他校の王子に気を取られている間に、打ち合わせは終わっていた。
「お疲れ様でした」
貴一と夏帆が早々と帰っていった。
了が帰る準備をしていると隼人が近づいてきた。

「君は、ちゃんと話を聞いていたのかな? 途中から上の空だっただろう?」
「すみません、ちょっと他校の文化祭が気になって……」
王子とはなんぞ? と思っていたのだが、ミーハーだと思われそうなので黙っていた。
隼人は了の肩に手を乗せると顔を寄せる。

「そうか、そんなに俺との文化祭デートが楽しみだったか」
「思ってないですよ! てか、俺と小清水さんで一緒に行くんですか?」
「みんなで行くが、校内を回るのは二人きりが良いだろう。文化祭で親密になるというのはBL漫画あるあるだ!」
「やっぱりそういう目的ですよね!?」
突っ込んでいて気付いた。
部屋に残ってきたミツルが鋭い視線で了を見ていた。
背筋が寒くなった。
普段だったら隼人はキイチ×リョウで妄想をするんだろうが、今ここに貴一はいない。
隼人は自分でBLごっこをする気だと了は悟った。
これではミツルに恨まれてしまう。

「ちょっと小清水さん離れて下さい!」
了は隼人の手を払いのけた。勢いでパシっという音が出た。

「お前、今、会長を殴ったな!」
ミツルが机を飛び越えてやってきた。黒ヒョウのような俊敏な動きだった。
了に掴みかかろうとするミツルの手を、隼人が掴んだ。

「ミツル、落ち着いて、どうどう」
今にもガルルルと唸りだしそうだったミツルが大人しくなった。

この人は猛獣使いですか!?
了は目の前の隼人を見つめた。

「ん? そんなに見つめてどうした? 俺のキスが欲しいのか? 仕方ない。与えてやろう」
顎を持ち上げられた。横でまたミツルが唸る。

「あなたのその行動はわざとなんですかね!?」
了が突っ込むと隼人は笑った。

「ああ、君は本当にからかいがいがあるね。文化祭見学が本当に楽しみだ」
上機嫌の隼人の後ろに、暗殺者のような顔のミツルが見えた。

了は文化祭見学から逃げ出したかった。
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