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第六章

150話

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 ダンジョンが閉鎖された2日後。

 昨夜、ダンジョンが翌日の朝に再開されるという連絡を兵舎で聞いたエルヴィスと俺は、ヨラナとエマのいる奴隷商へやって来ていた。

「エルヴィス様、ドルテナ様、おはようございます」

 奴隷商の前で立っていた2人は、俺とエルヴィスの姿を見つけて笑顔で挨拶をした。

「おはよう。昨日はゆっくりと休めた?」
「え、えぇ。仕事はなく部屋で休む事ができました」

 若干返答に困りながら答えたヨラナが気になりはしたが、直ぐに奴隷商の男がやって来た。

「2人共若いのに朝はゆっくりだな」
「早くダンジョンに向かうと兵士でごった返しているでしょ?なんで時間を少しずらしてきたんですよ」

 実は2人共朝早く起きてはいたのだ。
 しかし、朝起きて食堂に行くと再開されたダンジョンに早く行きたい兵士達で食堂は満席。
 更に食堂の外まで列ができていた。
 その光景を見た俺達は兵舎での朝御飯を諦めて、特別区域にある食堂を目指した。
 しかしそこも満席で、結局並ぶ羽目になってしまった。
 このまま朝御飯を食べてダンジョンに向かっても、入口がとんでもないことになっていそうだという事になり、あえてダンジョンに向かう時間を遅くずらしていた。

「そうかそうか。てっきり寝坊したのかと思ったが、でもそれは正解だな。ここから見てもあの様子だからな」

 奴隷商達のいる位置からは直接ダンジョンの入口は見えないが、ダンジョンに入ろうとする兵士達で溢れかえっていて、その一部がここからでも見られるほどだ。

「そうなんですよね。もう少しゆっくりでも良かったんでしょうね」
「そうかもな。さてと、ヨラナとエマだったな。未使用期間を延長するから……明日の夜までだな。ダンジョン内だと時間がわからないから、深夜にならないうちに返してもらえれば延長料金は必要ない」
「ありがとうございます。ちょっと聞いてみるんですが、私達の後にこの2人の予約とか入ってますか?」
「いいや、予約なんて入ってないな。もしかして使用期間の延長か?2人を気に入ってくれたようでなによりだ。そういうのはコチラとしても大歓迎だよ。長く使ってくれるなら料金も割り引くし」

 昨日エルヴィスと相談して、この2人を暫く使おうという話になっていた。
 彼女達からヴォルトゥイア帝国内の状況をもう少し聞きたいと言うのと、彼女達の置かれている不遇があまりにも酷く、俺達がいる間くらいはその不遇から解放させてあげたいからだ。
 只単に自己満足以外の何物でもないが……。

 10日間ほど延長して契約し、ダンジョンの入口へと向かう。

「凄い人数ですね」
「そうだな……。なんでこんなに列になっているんだ?ダンジョンに入るのは一瞬なんだからこんなに混むはず内だろうに」

 俺達4人は特別区域を出て少し歩いたところで立ち止まっていた。
 というか、これ以上勧めないのだ。人が多すぎて。

「君らは聞いていないのか?」

 入口前の人の多さに戸惑っていると、近くにいた兵士が声を掛けてきた。

「聞いていないとは?」
「再開したダンジョンは理由は不明だが、全員1階から再スタートになっているらしいぞ。入る奴らが全員1階に移動してしまってな。そのせいで1階は人で溢れているらしい。だからダンジョン内で身動きが取れなくなるのを防ぐために入場規制しているそうだ」

 何と言うことだ。
 ここにいる兵士全員が1階に移動するのか。
 ダンジョン内は魔物ではなく兵士で溢れかえっていると。
 そんな状態で銃を使えば兵士達にも銃弾が当たる可能性が非常に高い。
 周りに人がいると言うことは戦力が集中していると言うことだ。
 これは兵士達にとって安全度が非常に高くなるが、俺にとっては流れ弾で兵士を殺してしまうリスクが高くなっている。

 武器が使いづらいな。
 かといって、ダミーとしてしか使用していない剣で戦うのは自殺行為。

「それと、さっき聞いたんだが、どうもダンジョン内の道が以前とは違うらしい。それもあって中々入ることができていないのも、この状態になっている原因の1つのようだな」
「え?道が変わったんですか?そんなこと今まであったんでしょうか」
「いや、ないな。新しい階層が増えることはあっても既存の階が影響を受けたとは聞いたことがない。注意した方がいいんだろうが、これだけの人数で進となると魔物が出てきても問題ないだろう。戦力がありすぎだからな」

 袋だたきに遭う魔物……。
 ちょっと哀れだな。



 それから30分くらい並んで、やっと入口が見えてきた。
 この事態の収拾のためか、入口の前では役人がいつもより多くいた。
 その役人の1人が兵士達に向かって大きな声で事情を説明していた。
 それによると、全員が1階からのスタートとなること。
 ダンジョン内の道が変わっていること。
 魔物の遭遇率が高くなっていること。
 そして、4階までの道が判明していると。

 もう4階まで到達しているのか。
 まぁ、これだけ戦力があれば魔物は恐れるに足らないと言うことか。

 入り口前で手続きをしてダンジョンに入る。
 手続きしていた役人が、俺達若い兵士(偽装だけど)が女ポーターを従えているのを見て何か言いたそうだったが、忙しすぎてその余裕はなかったようだ。
 いろいろと言われなくて済んだのはラッキーだった。

「これはまた……凄いな」

 1階に転移した俺達の目の前には、先に入った兵士達が列をなして進んでいた。

「皆さん2階へ向かっておられますので、列に続いてお進みください。次の方がいらっしゃいますのでお急ぎください」

 安全地帯となっている部屋の出口には普段はいない役人がいた。
 その役人が立ち止まっている俺達にさっさと進めと言ってきた。
 そうこうしているうちに次々と兵士達がやって来ている。

「わかりました。エルヴィスさん、行きましょう」
「ああ、行くか」
「ヨラナとエマも行くよ。あ、マリンよろしくね」
「はい」
「わかりました。マリンちゃん行こうね」

 マリンはエマが抱きかかえており、そのエマはマリンのふわふわの毛並みを堪能している。

 入口に入るための順番待ちをしている列に並び、ダンジョンへと入った。
 ダンジョン1階は洞窟エリアと言うのは変わっていなかった。
 1階から2階に続く道を兵士達が列をなして歩いており、俺達もそれに付いて行く。
 ヨラナ曰く、入口の役人の説明通り、以前のダンジョンと順路は変わっているとのことだった。

 ダンジョン1階で時々現れるのはゴブリンと言うのは変わっておらず、もともと大して強くもないゴブリンはこの人数の兵士にあっけなく殺されていた。
 俺達の後ろにも兵士が並んでいて、特に何か起こることもなく次々と階を進んで行き、呆気なく4階に続く部屋まで進めてしまった。

「もう4階に行けるのか。一度も戦闘がないというのもどうなんだろうか」
「エルヴィスさん、安全に進めることほどいい事はないですよ。さぁ、進みましょう」

 エマがマリンを撫でながら緊張感の全くない表情で言っている。
 ダンジョンだというのに拍子抜けしているエルヴィスを促して4階に移動する。

 4階に移動すると、この部屋にいる役人が5階までの道が判明しているので列に続いて行くようにと言っていた。
 俺達がダンジョンを歩いている間に5階までの道を見つけたのだろう。
 さすが人海戦術だ。

「なんと。もう5階まで行けるのか」
「そのようですね。さぁ行きますよ、エルヴィスさん」

 4階も洞窟エリアだった。
 以前は3階までが洞窟エリアだったと考えると、階層が増えているだけでなく、ダンジョン全体の内容が変わっている可能性がある。
 本来ならば十分注意して進むべき事態だが、兵士が沢山いるので危険度が極端に低いダンジョンとなってしまっている。

 兵士の列に続いて歩き、何もせず5階までやってきた。
 流石に6階までの道はまだ判明しておらず、多くの兵士がダンジョン内に散らばっていた。
 この5階も洞窟エリアになっていた。

「ここも洞窟エリアか」
「そうですね。前は3階までが洞窟エリアだったと考えるとかなり変わったとみるべきでしょうね」

 洞窟エリアを歩きながら話しているが、一向に緊張感という物がない。
 至る所に兵士がいる状況で緊張感を保てという方が無理というのもだ。
 所々でゴブリンと出くわした兵士達がフルボッコしている姿を見かける。
 それくらいこの洞窟エリアには兵士だらけなのだ。
 俺達が戦う余地がない。

 そんな状況で6階に繋がる場所が中々見つからないというようなことはなく、洞窟エリアを歩いて暫くした頃、遠くから6階に繋がる部屋を見つけたと伝言ゲームの要領で情報が伝わってきた。
 俺達も周りの兵士達に声を掛け、そちらに向かって移動した。

「なぁ、ドルテナ。私の思っているダンジョンとは些か違うのだが……」
「……これも経験と言うことで」
「どこが経験になるのだ……」

 エルヴィスの不満を受け流しながら、兵士達と列をなして6階に繋がる部屋に移動した。

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