Rewrite

nana

文字の大きさ
上 下
2 / 13

しおりを挟む
「こうして稽古をするのは本当に久しぶりね」
木剣を手に私はそう言う・・・何気に、私は彼の名前を呼ぶのを避ける
彼が私の名前を呼ばないように
でも彼は
「アリシア」
平気で私を呼び捨てにする
7つも年上の姉である私を

彼は王の器をもって生まれてきた
その瞳は王の目で、すべての物を従える
私は昔から彼に逆らえない、ただその瞳から目を逸らすことで躱してきた
彼も、私を姉として尊重してくれていた
でもいつからか、私を名前で呼ぶようになった
私は一度だけ注意しようとした
でも彼はじっと私と見つめただけで、私はそれ以上何も言えなかった
たしか彼が11歳、私が18歳の時だったと思う
その時にはもう彼は私の背を追い越していた
それからずっと呼び捨てにされている
・・・老いることのない私より、もう彼の方が年上に見える
知らない人が私たちを見れば、誰も私たちを姉と弟だとは思わないだろう

「・・・アーネスト、なに?」
呼ばれて仕方なく私も彼の名前を呼ぶ
「考え直す気はないか?」
「・・・ないわ」
「・・・ずっと、俺のそばにいるとあなたは言った」
「ええ言ったわ」
「なぜ、約束を破る?」
私の気持ちを何も知らないで弟が言う
あなたといると苦しい、とても
そう言ってやろうか
「・・・子供の頃の約束よ、アーネスト」
「・・・」
私は目を逸らし続ける
もし今、彼を見るように言われたら、目を見て話せと言われたら・・・
「アリシア」
「・・・最後ぐらい、姉上、そう呼んでくれてもいいのではないかしら?」
「・・・」
憎まれ口の一つも叩いてくれたら、どんなに気が楽になるだろう
「俺の護衛騎士になってくれ、アリシア」
「またその話?もう断ったはずよ」
「なってくれアリシア、ずっと俺のそばにいてくれ、なあ・・・頼む、行かないでくれ」
泣きそうな声
思わず、彼の目を見る
泣いてないけれど、震えている
「行かないでくれ、アリシア、ずっと俺のそばにいてくれ、お願いだ、アリシア」
私は目を逸らす、再び
「甘ったれたことを言わないでよアーネスト、あなたは王になる人なのよ」
姉らしいことを今の私は言えているだろうか
「さあ、最後の稽古を始めましょう」
「・・・」
「構えなさい」
私は構え、剣先を見つめる、その先に彼がいる
世界で一番大切な人が

アーネスト
あなたのそばにいたい
そんなの私が一番望んでいる
でも、もうあきらめないといけない
あなたのそばにはもう、いられない

弟はまだ、構えない
「構えなさい、アーネスト、最後の稽古よ」
「・・・」
スッと、弟が構える
最後に稽古をしたときは、もう数年前になる
構えを見た瞬間、この人は強くなった、そう私は思った

どうか、まだ、私の方が強いままでありますように
この人の姉として、このままこの人の前から、消えていけますように

私はそう願いを込め、魔力を高めた、どんどん剣が軽くなり、そして私は剣先の向こうを見た

世界で一番好きな人の目を、見据えた

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

のりたまの気まぐれSS集

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:16

王となった弟とその奴隷となった姉の話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:274

婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く

恋愛 / 完結 24h.ポイント:944pt お気に入り:298

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,036pt お気に入り:297

暴力婚約者は婚約破棄の後に豹変しました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,695pt お気に入り:974

処理中です...