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第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道
8.社畜と焼肉
しおりを挟む某有名週刊誌には、古川がかつて未成年への援交に手を出していたことが、詳細に書かれていた。
決定的だったのは、二人の女子高生に挟まれ、半裸でベッドに寝ている古川の写真があったことだ。以前、前田さんに見せてもらったネガフィルムとは違う写真だった。おそらく前田さんが、過去の噂を頼りに探しだしたのだろう。
一方で、理瀬について直接の言及はなかった。一度結婚し、子供が一人いるが、離婚したことだけは書かれていた。
前田さんなりに、理瀬へ被害が及ばないよう配慮をしたのだろうが、俺としてはこの一文だけでも致命的だと思った。大昔の援交と違って、理瀬の存在は今リアルタイムの出来事であり、前田さんの記事を気にした誰かが古川のことを調査して、理瀬の存在にたどり着く可能性があった。
週刊誌が出回ったあと、夕方のテレビニュースでも古川のことが話題になった。
その週末、俺は慌てて伏見と篠田を集め、都内のカフェで緊急作戦会議を開いた。
「これ、宮本さんが前に話してた、前田さんっていう人の仕業ですよね?」
篠田はニュースを見て驚き、その日にLINEもしてきたが、今は落ち着いている。
「ああ。週刊誌が発売される前に、前田さんから電話があった。間違いない」
「古川さんのスパイじゃなかったんですね」
伏見は疲れ切っていた。古川のスキャンダルで省内が荒れ、その対応に追われているのだという。噂によれば、古川は週明けにも辞任するという。
「伏見。古川はどうなってる?」
「省内で、議員とか他の偉い人に詰められてます。家には帰ってないみたいです」
「そうか……」
「宮本さんは、理瀬ちゃんのことを心配してるんですよね」
「ああ。お偉いさんの地位に留まっているうちはいいが、全て失ったら、自棄になって理瀬へ何かしら当たるかもしれない。そもそもこの騒動を巻き起こしたのは、和枝さんと理瀬がきっかけということもある。理瀬や俺を恨んでもおかしくない」
「それは私も考えました。だから理瀬ちゃんは今、家を出てもらってホテルで暮らしてます」
「何?」
「私が古川次官に進言したんです。娘がスキャンダルに巻き込まれたらまずいでしょうって。古川さんは『ああ、そうだな』としか言いませんでした。おそらく理瀬ちゃんの事まで考えられていないんでしょうね」
「そうか。これであいつの本性がわかったよ。和枝さんは離れて仕事をしていても理瀬のことを心配していたが、古川にそういう気持ちはない。これであいつが理瀬の親にふさわしくないと、はっきりわかった」
「宮本さんほど理瀬ちゃんのことばっかり考えてる人は他にいないですけどね」
話題から遅れていた篠田がぼそり、と呟いた。
「私としては、これで一気に親権喪失手続きへ進んだ方がいいと思います。理瀬ちゃんに実際の被害があったかどうかはともかく、あれだけマイナスイメージがついた人を親に持つのは、メリットよりもリスクが大きいはずです」
さすがキャリア官僚、こんな時でも伏見は冷静だった。
「ただ……私、今本当に仕事が忙しいので……正直、理瀬ちゃんのホテルを手配するだけでも大分無理がありました。今日もこれから戻って仕事をする予定ですし」
「ああ、わかってる。あとは俺と篠田でなんとかする。古川の動きを間近で見られるのはお前だけだから、それだけで十分だ。手続きでどうしてもわからない事があったら、お前の知恵を借りるかもしれない」
「そうですね……一応これ、私が考えていた親権喪失までのシナリオと手続きです。データに残らないよう、紙だけ渡します」
その書類には、親権喪失の申立をするにあたって理瀬や俺たちがとるべき行動、手続きの内容が詳細に書かれていた。会社のマニュアルみたいに精密な文章だった。
「すまん……これだけあればもう大丈夫だと思う」
「問題は、理瀬ちゃんが親権喪失の手続きにのってくれるかどうかと、古川さんの親権喪失が完了した後、誰が理瀬ちゃんの面倒を見るか。この二つは解決していません」
「ああ……そこは理瀬と話し合うしかないな」
「まだ理瀬ちゃんとは会わない方がいいと思いますよ。本人も混乱してるみたいですから。電話でしか話してないですけど、すごく歯切れが悪かったです。私の言うとおり、ホテルへは行ってくれたみたいですが。じゃあ、私は時間がないので」
伏見は死んだような目でカフェを去り、俺と篠田が残った。
「で、どうするんですか、伏見さんが言ってた二つの問題は」
篠田が伏見製・親権喪失手続きマニュアルに目を通しながら、つまらなそうに言った。
「まだ解決できるとは思えないが……お前に頼みがある」
俺がそう言っても、篠田はマニュアルから目を離さなかった。どこか俺と話すことを拒否している雰囲気があった。
「どうせ断っても無駄な感じですよね?」
「いや。お前の同意がなければ成立しない」
「じゃあ、嫌です」
「……まあ、そう言うなよ。ここじゃ何だから、焼き肉でも行くか」
「焼き肉?」
「お前、肉好きなんだろ。肉だけの女子会とかよくやってただろ」
「宮本さん、私が覚えてほしくないことばっかり覚えてますね」
「奢りでいいぞ。店もお前が選んでいい。わざわざ栃木からここまで来てもらってる礼もあるからな」
「それは別に、私が好きでやってる事だからいいですけど」
ぶつぶつと文句を言う篠田を連れて、カフェの外に出た。篠田はすぐ近くにあった、有名な高級焼肉店を指差して「あそこじゃなきゃ嫌です」と言った。
俺は財布の中身を数え直し「おう、いいぞ」と頬を引きつらせながら答えた。
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