112 / 129
第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道
2.社畜と病室修羅場
しおりを挟む「元同僚の子から聞いたんですけど、宮本さん、最近仕事中もそわそわして落ち着いてなかったみたいですね。理瀬ちゃんと何かあったんですよね?」
「……」
「あったんですよね?」
篠田は気づいている。照子の逮捕に、思い当たるところがあるのだと。
俺は篠田に全てを伝えるかどうか、迷った。今話したら、篠田もこの騒動に巻き込んでしまう。遠方で落ち着いているつもりだったのだ、本当は。
しかし、俺はもう、理瀬との問題を一人で抱えきれるほど余裕がなかった。前田さんとは連絡がとれないままだし、理瀬と話すのも絶望的だ。今味方になってくれるのは、篠田しかいなかった。
「言ったらお前に迷惑がかかる……」
「今更何言ってるんですか。宮本さんには、仕事を教わった恩があるんですよ。私に協力できることなら、いくらでも付き合います」
受け入れてくれそうだったので、俺は全てを話した。照子を使って伏見を懐柔したこと、理瀬と何度かあったこと、古川の援交疑惑、盗撮の疑い、最後は古川に見つかり、理瀬と連絡がとれなくなったところで、照子が逮捕されたこと……
篠田は、最後まで真剣に聞いていた。冷静に話したら、ただの社畜の身の回りに起こるような事件だとは思えないのだが、篠田は信じてくれたようだ。
「つまり、理瀬ちゃんのお父さんが、宮本さんへ報復するために照子ちゃんを逮捕させた、という事ですか?」
「確証はないが……罰は受けてもらう、と言っていた。それ以外に、俺が被害を受けたことはない。まず間違いないと思う」
「理瀬ちゃんのお父さんの権力、すごいですね……」
もちろん確たる証拠はないのだが、一人の人間が警察まで動かしたとすれば、とても俺や篠田が太刀打ちできるような人物ではない。映画やドラマみたいな話だ。
「今聞いた感じだと、宮本さんが理瀬ちゃんのためにできる事は、もうなさそうですね」
「ああ……」
篠田は、以前もこれ以上深入りするな、と言っていた。俺の身を案じてのことだ。
その時は、理瀬をどうにかして助け出したいという気持ちが強かったし、前田さんという協力者がなんとかしてくれる気がしたから、篠田の忠告は断った。
しかし、俺は照子が逮捕された事で憔悴していた。今回は、即答できなかった。
「今、ここで手を引いたら、これ以上は向こうも追ってこないんじゃないですか。理瀬ちゃんのお父さんも、暇な人じゃないんですし」
そういう気持ちは俺にもあった。ここが引き際かもしれない。後の事は、古川の弱点を握った前田さんに任せて、俺は素知らぬふりをしながら待つ。もっとも、それでは理瀬が古川の処遇に振り回されて、かなり苦労するかもしれないが……もともと利口な子なので、困難な状況でも上手く立ち回るだろう、とは思っていた。
「前も言いましたけど……私、宮本さんのこと、やっぱり心配です。れ、恋愛感情とか、そういうの抜きにしても、よくしてくれた先輩なので」
「すまん……」
「謝ってほしいわけじゃないですけど……」
一瞬、脳がやられたせいか、俺は歯切れの悪い回答しかできず、会話が詰まりがちだった。篠田はそれを感じ取ってくれて、苛立つような様子はないが、やはり少し歯がゆい気持ちはあるらしく、何度も首をひねっていた。
無言の時間が続いているうちに、病室のドアがノックされた。
「どうぞ」
俺が返事をすると、篠田が入室してきた時と同じように、ゆっくりとドアを開け、女性がこちらを覗いていた。
伏見だった。
「お邪魔します、伏見ですお見舞いに……えっ、誰ですかこの人」
「それはこっちのセリフですけど?」
顔を合わせた瞬間、篠田と伏見の間に火花が散った。
修羅場というやつだ。この二人が出くわす機会があるとは思っていなかったので、俺は何も言えなかった。
「私は、宮本さんとお見合いをして彼女になったことのある伏見京子です」
「……は?」
篠田がマジギレっぽい顔で俺を睨む。
「いやいや。お見合いなんかしてないし、正式に付き合ったことはないよ」
「ええっ、宮本さん、あの時の事は全部、嘘だったんですか」
「……は?」
やはり怒っている篠田。伏見の存在はさっき篠田に説明したし、伏見にも篠田という少し前に付き合っていた女性がいることは、以前の交流で話している。初対面だが、お互いの存在は知っているはず。だからこそ、いざ会った時にどのような反応をするかは、あらかじめ決まっていたのかもしれない。
「伏見さんは古川の部下で、たしかに古川から紹介されたけど、正式な交際関係になった事はない」
「でも、もう少しで私を抱いてくれるところでしたよね?」
伏見の演技力はすごい。思ってもいないことを、本当の事のように言える。
篠田が真に受けて、今にも伏見に飛びかかりそうな顔をしている。
「いや、俺は一切応じてないから。照子とはお楽しみだったようだが」
「……あっ、宮本さん、照子さんの事は言わないで」
仕方がないので照子の名前を出したら、伏見は素の顔に戻った。篠田はまだご機嫌ななめで、ぷりぷりしている。この二人、どうやら決定的に相性が悪いらしい。
「伏見さんは、何しに来たんだ」
「お見舞いですよ。邪魔しちゃったみたいですけど」
菓子折りを近くに置きながら、伏見が篠田の隣に座った。篠田は不服そうだったが、「ここしか座る場所ないんだから我慢してください」と言って強引に押しこんだ。
「あの、宮本さん、ちょっと二人で話がしたいんですけど、この人いつ帰るんですか?」
「は? 失礼じゃないの? あんたが帰るまでは帰らないわよ」
「だったら私は、泊まり込みで宮本さんの看病をしますね!」
「はあーーっ!?」
「病人の前で喧嘩はやめろ……」
いつまで経っても止まらない二人の間の喧嘩を、俺はうんざりしながら遮った。
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ
みずがめ
ライト文芸
俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。
そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。
渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。
桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。
俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。
……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。
これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる