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第2章 ショコラと愉快な仲間達

オン・ザ・ムンバ先輩

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「……」

(確かに魔王様だし、強いのかもしれない)

 ショコラは、なんとなくそれは理解できた。
 女神の力を持っているというらしいし……。

「今はあんなですけど……魔界中の女の子たちがラグナル様に夢中だったんですよ。お嫁さんにして欲しいって」

「!?」

 けれどこの言葉に、ショコラは仰天してしまった。

(ご主人様に夢中……?)

 でろーんと溶けたラグナルに、女の子たちがきゃあきゃあ言っている姿が頭に浮かんだ。ショコラの知っているラグナルとどうしてもイメージがかみ合わなくて、混乱する。

「ほ、本当ですか?」

 疑心暗鬼なショコラに、リリィは深く頷く。

「本当なんです。今はあんなですけど、昔は本当に凛々しくて、テキパキした人でした」

「テキパキ!?」

(ご主人様に似合わない言葉ナンバーワン……)

 テキパキしているラグナルなんて、もう誰それ状態だった。
 リリィは紅茶をすすって言った。

「でも忙しかったせいもあって、ラグナル様は誰とも結婚されませんでした」

「そ、そうだったんですか……」

「冷たいところもあって、昔の方が、今よりも怖かったですしね」

 ショコラは全然想像がつかなかった。

(強くて、テキパキしていて、冷たいご主人様……うーん、想像がつかない)

 ショコラがうんうん唸っていると、なぜかリリィに両手を取られた。

「すごくいいと思いませんか、ショコラさん」

「え?」

「旦那にするには、すごくいい人だと思いませんか? それなりに地位もあるし、まあまあかっこいいし、優しいし。結婚したら、めちゃくちゃ愛してくださると思います」

 ショコラはリリィがなにを言いたいのかよくわからなくて、うーん、と首をかしげた。

「ご主人様はいい人ですし、優しいし、ショコラも大好きです」

「!」

 リリィは目を輝かせた。

「それにリリィさんも、シュロさんも、ミルメルも、大好きです」

 えへ、とショコラが笑うと、なぜかリリィは少しだけ落胆してしまった。

「?」

「まあ、時間がたくさんありますからね。私もショコラさんが大好きですよ」

 そう言われると、ショコラのしっぽはぶんぶん揺れる。

「早く結婚してくだされば、私たちも安心なんですけどねぇ」

 そう言って、とほほ、とリリィは涙ぐんだのだった。

「まあ、私の息子たちも誰も結婚してませんけどね」

 ショコラは再び仰天した。

「えぇっ!? リリィさんって、お子さんがいらっしゃったんですか?」

「ふふ、そうですよ。もうみんな大きくて、それぞれ仕事をしています」

「ぜ、全然気づきませんでした……」

(だからわたしにも、子供に接するようにするのかも)

 ショコラは納得してしまった。
 魔族というのは、ラグナルがそうであるように、何百年も生きる。
 人間界で暮らし、魔族としての血が薄れているショコラは、見た目はそのままだが寿命は人間とそう変わらないだろう。
 長い年月を生きる彼らにとって、ショコラほどの年齢の娘など、赤子と等しいのかもしれない。

「シュロなんて、ひひひ孫がいますよ」

「ひえぇ」

(魔界の人はみんな、年上さんなんですね……)

 意外な情報をたくさん仕入れた午前なのだった。

 ◆

「ご主人様、どこに行っちゃったんでしょう」

 夕方。
 ショコラは不安げに館の中を行ったり来たりしていた。
 先ほどから、ラグナルの姿が見当たらないのである。
 今日はモンスターがいないか外に様子を見に行って帰ってきてから、何もしたくないと部屋でごろごろしていた。
 ショコラがここへ来るまでには、なぜか大したモンスターには出会わなかったが、本当にこのあたりはかなり危険らしいのだ。

 けれどショコラが少し目を離した隙に、ラグナルはどこかへいってしまった。

 どこかへ行くのはいいのだが、ラグナルの場合、歩くのがつかれたと言って、廊下で座り込んでいる時がある。

(どこかで力尽きていなければいいけど……)

「ご主人様ー!」

 ショコラが声を張り上げて叫ぶと、奥の廊下から、ブゥ~ンという音が聞こえてきた。それと同時に曲がり角を曲がってくるムンバ先輩。
 
 と、ラグナル。

「ムンバ先輩さんに乗ってる!?」

 ラグナルは膝を抱えてムンバ先輩に乗っていた。

(なぜそんなところに!?)

 そのままゆっくりとショコラの方に近づいてくる。

 ピコー。

「ご、ご主人様、なんでそんなところに……!」

「疲れて、廊下で座ってたら、これがきたからちょうどいいと思って」

 やっぱりどこかで座り込んでいたのだ。
 ショコラはあわあわしながら、ラグナルの手を取って立ち上がらせる。
 ピコー。
 ムンバ先輩はやっぱり丈夫だったらしく、何事もなかったかのように去っていく。

「む、ムンバ先輩さん、ありがとうございました!」

 ピコー。
 ムンバ先輩は気にするな、というように、再び館の奥の方へと消えていった。
 その姿があまりにも頼もしくて、だからみんな先輩と呼ぶんだ、とショコラは感動してしまった。

「ご主人様、どこに行かれていたんですか?」

「……図書室。すぐ戻ろうと思ったけど、疲れちゃった」

(疲れちゃったって、徒歩百歩くらいじゃないですかー!)

 ショコラはなにも言えなくなってしまう。
 そしてふと、昼間のリリィの話が蘇った。
 昔は凛々しくて、頼り甲斐のある人だったと言っていたけれど、今の姿を見ていると、全然そうは見えない。
 むしろムンバ先輩に乗っている姿は、頭がおか……いや、少し変な人といった具合だろう。
 本当にこの人は、女の子にきゃーきゃー言われて、しっかりした魔王だったのだろうか。
 ショコラがうーんと考えていると、ラグナルが振り返って、ショコラの手を引いた。

「ごはん」

 そういえば、もう窓の外は暗い。

「そ、そうですね。ごはんにしましょうか」

 二人は手をつないで廊下を歩く。
 ショコラはその手に視線を落とした。

(でも、ご主人様が優しくてあったかいのは確かです)

 ラグナルが昔、どんな人だったのかはわからない。
 けれど今、ショコラのご主人様は、ちょっと困ったところもあるけれど、優しくてあたたかい人だということには、変わりないのだと思った。

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