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200話「可愛い可愛い先輩の頼み事を断れる男は0人説①」
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関 幸:♂ 三年生。なんでも探偵部の部長。
閤 華:♀ 関の二つ上の先輩。実家の定食屋で働いている。
今本 健斗:♂ 三年生。元野球部のキャプテン。
福川 和貴:♂ 三年生。元野球部。
鶴森 健也:♂ 三年生。元野球部。
菊谷 秀吾:♂ 三年生。元野球部。
ーーーーー
お昼の12時を少し過ぎた頃、仕事を一通り終えた二人組のサラリーマンは、お昼ご飯を食べようとオフィスを出て町中を歩いている。全国展開する人気のファミレスを通り過ぎ、お洒落なレストランを過ぎ、学生に人気のラーメン屋を、準備中の居酒屋を過ぎーーーやってきたのは、綺麗とも広いとも言えない定食屋さん。二人は迷うことなく暖簾をくぐり中へと入ると「らっしゃーせーー!!」と独特で元気な挨拶が店内一杯に広がる。
男A「おぉ、今日はめちゃくちゃ元気いいな。」
男B「席、空いてる?」
今本「空いてますよ! 案内します! 二名様、ご来てーん!」
「「らっしゃーせーー!!」」
男A「君ら、野球部でしょ。」
今本「そうですそうです。よくわかりましたね。」
男A「俺も、野球部だったからさ。すぐわかるよ。」
男B「君、東咲のキャプテンだった子だよね? 試合、見てたよ。惜しかったね、ほんと。」
今本「あとちょっとだったんですけど、やられましたよ。あれは、抜けたと思ったんですけどね。」
男B「俺も俺も。絶対にいったと思ったよ。野球は、続けるの?」
今本「はい。大学でも、やるつもりです。そのために、今は金貯め中です。」
男A「そっかそっか。頑張ってね。」
男B「応援してる。」
今本「あざますっ!」
鶴森「お冷です!」
福川「おしぼりです!」
菊谷「ご注文は!?」
男A「俺は...いつも通り、焼肉定食で。」
男B「カツ丼と唐揚げの単品でよろしく。」
今本「注文入りまーすっ!」
鶴森「焼き定、いっちょぉぉ!」
福川「カツ丼、いっちょぉぉ!」
菊谷「唐揚げ単品、いっちょぉぉ!」
野球部員「「おねしゃーすっ!」」
閤「あいよぉー! 幸~。」
関「すぐやる。健斗ー!」
今本「あいあい! 一番テーブルのご注文、通りまーすっ!」
野球部員「「あいよー!!」」
閤の定食屋で、元気よく働く元野球部員たち。関は野球部員たちとは違い、厨房の中で閤と同じように忙しなく動き続けている。お昼過ぎということで店内はお客で賑わっており、手を休める暇もないが、関は疲れた表情はせず、むしろ楽しそうに料理を作り続けている。
今本「二番テーブルの方、お帰りでーすっ!」
鶴森「食器、洗ってくるわ!」
福川「おう! テーブルの片付け、任せろ!」
菊谷「幸ー! 俺、運ぶ! 一番だよなー?」
関「一番! よろしく!」
菊谷「あいよぉ!」
鶴森「厨房、入ります! 皿、洗います!」
閤「ごめん、ありがと~! めちゃ助かるわ!」
関「カツの飯、置いとくぞ。あと、焼き定もやっとく。」
閤「ん! ありがとさん!」
今本「こちら、レシートです! ありがとうございましたぁ! お客様、お帰りでーす!」
閤・関「ありがとうございましたぁぁ!」
野球部員「「あざまーすっ!!」
男A「いいねいいね、元気があって。」
男B「ちょいとうるさいくらいが、ちょうどいいわ。」
男A「今、親父さん腰いわせてるんだっけ?」
男B「そうそう。それで、急遽バイト雇ってるみたい。」
男A「腰は、マジでヤバいからなぁ~。俺も、昔一回やったからわかるわ。」
男B「親父さん、大丈夫なんかね?」
「いいないいなぁ! 今日は一段と元気があっていいなぁ! がーっはっはっはっ!」
男たち「ん?」
店の奥から、豪快な笑いと共にやってきた白タンクトップの男ーーー閤の父、英二は、カウンター席に座る馴染みの客に挨拶し終えると、ズカズカと厨房に入っていく。
閤「ちょっ、お父さん!? なにしてんの!?」
英二「なにって、仕事に決まってんだろ! いつまでもいつまでも休んでるわけにはいかねぇだろ! ここは、俺の店なんだからよ!」
閤「まだ完治してないでしょ! またやらかして悪化してもしらないよ!」
英二「心配すんな! これくらい、どーってことねぇわ!」
閤「ってか、母さんは!?」
英二「トイレ。だから、抜け出してきた! つーか、あんな元気な声聞いてたら、黙って静かに寝るなんてできねぇわ! 俺も動きたくて動きたくて、仕方ねぇわ! ありがとな、野球部! バイト代は、たーんと弾むからよぉ! もう一仕事、頼むぜぇ!」
野球部員「「はい!!」」
関「英二さん、動いて大丈夫なんですか...?」
英二「これくらい、どうってことねぇよ! お前さんも、ありがとな! 華と厨房回してくれてよ! でも、こっからは俺も加わるーーー」
「なにしてんだ、あんたは...!?」
背後から聞こえた恐ろしい声に、英二は慌てて振り返ろうとするが、背後に立っていた閤の母、昌子は英二が振り返るよりも早く首に腕を回し、躊躇うことなくガチガチにヘッドロックをきめる。
英二「あだだだだだ!? な、何をする!? 離せぇぇぇ!!」
昌子「よくもまぁ、懲りずに何度も何度も逃げ出すわね...! もしかして、こういうことされたいから逃げ出してる...? そういうこと...?」
英二「そんなわけあるかぁぁ! 俺は、働きたいだけでだだだだだだぁぁぁぁ!?」
昌子「しばらくは安静にしてろって言われてるでしょ...? もしかして、意味をわかってないの...? 安静の意味、わからないの...?」
英二「もう、十分に休んだだろうがぁぁぁ! これ以上休んだ方が、むしろ身体にーーー」
昌子「んなこと言って、動いて初期より症状悪化させたのは、どこのどいつだ!? あぁぁぁぁぁん!?!? てめぇが無茶して、身体壊したら、誰が面倒見ると思ってんだ!? 言ってみろ、ゴラァァァァ!!」
英二「すみませんすみませんすみませんんんんん!!」
昌子「誰が謝れって言った!? テメェが動けなくなったら、誰が、面倒、見るんだって聞いてんだよ!! さっさと言え!!」
英二「ま、昌子様と、可愛い娘の華でございますぅぅぅ!!」
昌子「それをわかった上で無茶しようってか...この、クソアホんだらぁぁぁぁ!!」
英二「あぁぁぁぁぁぁ!?!?」
宅配便の人「こんにちわー。シロネコ宅配便でーす。閤 昌子様宛てに、お荷物ですー。」
昌子「あら、ちょうど良いところに。ごめん、誰か荷物受け取って、部屋まで一緒に運んでくれる? 私、英二連れてくから手が塞がっちゃって!」
今本「あっ、俺行きますよー。」
昌子「ありがとね~。」
宅配便の人「ありがとうございました~。」
今本「お疲れ様でーす。」
昌子「こっちこっち。おら、さっさと行くぞ。」
英二「いだだだだだだ!? まずは、離して! 離してぇぇぇ!」
今本「これ、中身なんですか?」
昌子「荒縄よ。」
英二「荒縄ぁぁ!? 何する気だ、それで!?」
昌子「言わなくてもわかってんでしょうが、このドクズ。」
英二「ドクズは言い過ぎだろ、ドクズは!! ってか、普通に縄でいいじゃん! なんで荒なの!? 荒はダメでしょうが!!」
昌子「黙れぇ! 身体だけじゃなく、口も縛ってやろぉかぁぁ!? いいから、とっとと来い!!」
英二「ちくしょぉぉぉ!! 働かせろぉぉぉぉ!!」
関「...相変わらずだな。」
閤「はぁ...客がいる前で変なことしないでよ...ほんと...。」
客「がはははは! 英二ちゃんは、いつも通りだなぁ~! あれなら、元気になるのも、すぐだろ。」
閤「だといいんですけどね~。今日みたいに、無理して出てくるから、いつまた悪化するか怖くて怖くてヒヤヒヤしてますよ。」
客「昌子ちゃんも、大変だの~。華ちゃん、ご馳走さん。」
閤「いつもいつも、ありがとうございます。」
客「いやいや、礼を言うのはこっちだよ! いつも美味い飯を食わせてくれて、ありがとなぁ! おーい、野球部ども! お前ら、何時までだぁ?」
鶴森「今日は、15時までです!」
客「そーかそーか! んじゃ、ここに金置いとくから、終わったらこれで腹一杯食っとけ!」
福川「え!? マジですか!?」
菊谷「いいんですか!?」
閤「ちょっ、林さん! いいですって! ちゃんと賄い出してますから!」
客「いやいや、あんなデカいガキどもは、賄いだけじゃ足んねぇだろ? それに、この前の試合、頑張ってたからな! ジジイからのささやかなプレゼントだ! 腹一杯食って、この先も頑張れよ! 若造!」
閤「もぉ...ありがとうございます。ほら、あんたらも! お礼言いな! 一回じゃ足りないから、二回!」
野球部員「「あざまーすっ!あざまーすっ!!」」
客「がはははは! やっぱ若いもんは、元気が一番だな! 華ちゃん、また来るよ~。」
閤「ありがとうございました! またいつでもどうぞ~!」
男A「なんか、いいなぁ~。客と店員の、仲良さげなやりとりって。」
男B「わかるわかる。こういう店ならではの光景だよな。」
鶴森「お待たせしましたぁ! 焼肉定食でーす!!」
男A「はい、こっちこっち。」
鶴森「前、失礼しまーす!」
男A「ありがと。んじゃ、お先にいただきます。」
男B「どうぞどうぞ。」
菊谷「三名さま、ご来店でーーすっ!」
閤・関「いらっしゃいませぇ!」
応援ありがとうございます!
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