39 / 42
第六章 連れ去らわれて
39.フランシス様
しおりを挟む
自分の思い通りにならないと怒りだす。フランシス様は昔からそうだった。
我慢という言葉を知らず、少しでも気に入らないことがあると大騒ぎするのでウェルズリー家の使用人はみんなフランシス様に手を焼いていて、世話係を命じられた者は次々と辞めて行っていた。
そんなフランシス様の世話係として唯一俺だけが数年にわたってお世話をし続けることができた。俺の場合は父親がウェルズリー家で執事長をしている手前、簡単に仕事を辞められなかったのだ。
俺だって最初はフランシス様のお世話係は嫌だった。けれど、わがままで手に負えないはずのフランシス様がどういうわけか俺に懐いてくれたので、次第に嫌な気持ちが和らいで行った。
俺がドグマ様の屋敷へ引き抜かれることが決まったとき、フランシス様に挨拶せずに伯爵家の屋敷を出てきたのは、フランシス様が唯一心を開いた俺のことを手放したくないと大暴れすると思ったからだ。
けれど、実際に挨拶せずに出てきたら出てきたで、後から不安になった。俺が黙って屋敷を出ることをフランシス様が許してくれるはずはないのだから。
二度も手紙が来たときは、やっぱりなとため息が出た。フランシス様にきちんと話をしてから出て来ればよかったと後悔していたのだが、まさかこんなふうに拉致監禁されることになるとは……。
フランシス様は俺をどうする気だろうか。縛られた両手を背後でグッと左右に引っ張っても、やっぱりびくともしない。
この状況で殴られたり、刃物で刺されたりしたら、俺は何の抵抗もできない。
フランシス様が俺の前まで歩み寄った。手が伸びる。叩かれるのか!?
息を呑んだけれど、フランシス様の手は俺のあごを掴んで、目を見つめられた。
「ローレンス、僕のことなんて、もうどうでもいいって言いたいのか!?」
フランシス様は青く美しい目に涙を溜めながらそう言った。
どうやら黙って出て行ったことを復讐しようとか、思っている感じではない。
寂しさのあまり、ただ俺に会いたかったのだろう。
この様子だと新しい世話係ともうまくいかなかったに違いない。少し気の毒に思えてきた。
「今でも私はフランシス様のことが大事です。長年お仕えして築き上げた絆は永遠のものだと思っています」
フランシス様の表情がパアッと明るくなった。
「そうか、そうだと思ったんだ! きっとローレンスも同じ気持ちだと信じていたよ! この家は空気のいい森の中で静かに療養したいと言ってお父様に買ってもらったんだ。ローレンス、一緒にここで暮らそう!」
我慢という言葉を知らず、少しでも気に入らないことがあると大騒ぎするのでウェルズリー家の使用人はみんなフランシス様に手を焼いていて、世話係を命じられた者は次々と辞めて行っていた。
そんなフランシス様の世話係として唯一俺だけが数年にわたってお世話をし続けることができた。俺の場合は父親がウェルズリー家で執事長をしている手前、簡単に仕事を辞められなかったのだ。
俺だって最初はフランシス様のお世話係は嫌だった。けれど、わがままで手に負えないはずのフランシス様がどういうわけか俺に懐いてくれたので、次第に嫌な気持ちが和らいで行った。
俺がドグマ様の屋敷へ引き抜かれることが決まったとき、フランシス様に挨拶せずに伯爵家の屋敷を出てきたのは、フランシス様が唯一心を開いた俺のことを手放したくないと大暴れすると思ったからだ。
けれど、実際に挨拶せずに出てきたら出てきたで、後から不安になった。俺が黙って屋敷を出ることをフランシス様が許してくれるはずはないのだから。
二度も手紙が来たときは、やっぱりなとため息が出た。フランシス様にきちんと話をしてから出て来ればよかったと後悔していたのだが、まさかこんなふうに拉致監禁されることになるとは……。
フランシス様は俺をどうする気だろうか。縛られた両手を背後でグッと左右に引っ張っても、やっぱりびくともしない。
この状況で殴られたり、刃物で刺されたりしたら、俺は何の抵抗もできない。
フランシス様が俺の前まで歩み寄った。手が伸びる。叩かれるのか!?
息を呑んだけれど、フランシス様の手は俺のあごを掴んで、目を見つめられた。
「ローレンス、僕のことなんて、もうどうでもいいって言いたいのか!?」
フランシス様は青く美しい目に涙を溜めながらそう言った。
どうやら黙って出て行ったことを復讐しようとか、思っている感じではない。
寂しさのあまり、ただ俺に会いたかったのだろう。
この様子だと新しい世話係ともうまくいかなかったに違いない。少し気の毒に思えてきた。
「今でも私はフランシス様のことが大事です。長年お仕えして築き上げた絆は永遠のものだと思っています」
フランシス様の表情がパアッと明るくなった。
「そうか、そうだと思ったんだ! きっとローレンスも同じ気持ちだと信じていたよ! この家は空気のいい森の中で静かに療養したいと言ってお父様に買ってもらったんだ。ローレンス、一緒にここで暮らそう!」
73
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる