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第六章 まだ願いごとが叶った頃
137 気配り下手と干天の慈雨 ①
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オフィーリアが沈んでいった水面は、こんな色だったのだろうか。
ピーターラビット号を初めて見た時、そう思った。
僕はゼミで漱石を研究していて、卒論は「こころ」で書く予定だ。本当は「草枕」と「行人」が好きなんだけど、好きであるがゆえに冷静に書ける気がしないので、先行研究の多い「こころ」にしたのだ。我ながらひどい決め方である。
父親を殺され、狂気を装ったハムレットに心ない言葉をぶつけられ、追い詰められていくオフィーリア。「草枕」では何度かオフィーリアが取り上げられる。シェイクスピアの描いた悲劇の恋人というだけではなく、彼女の最期を描いたジョン・エヴァレット・ミレーの絵に漂う神秘性込みでの描写。漱石は「行人」でもオフィーリアについてふれているから、このモティーフに並々ならぬ思い入れがあったのだろう。ロンドン留学中、神経衰弱に陥った漱石を救った絵である、とよく言われているし。
オフィーリアの絵を初めて見た時、まだ幼かった僕は何を描いたものなのか知らなかったけれども、神秘的な様子にどうしても目を離すことができなかった。
ハムレットへの想いを胸に、水面に沈むことを選択したオフィーリア。彼女は真実狂っていたのだろうか。完全に狂っていたのならば、むしろ、死は選ばなかったのではなかろうか。彼女に残された最後の正気が、美しい幕切れを選択させたのでは。つい、そんなことを考えてしまう。
若葉ちゃんから車の名前をどうするか訊ねられた時、正直少し困った。「オフィーリア号」と名づけるのは、さすがに縁起が悪すぎるだろう。
その時、思い出したのが、ビアトリクス・ポターだ。オフィーリアを描いたミレーと、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターには、交流があった。
ピーターラビットは結構ワルなうさぎだと思うけど、少なくともオフィーリアのように不吉なイメージはない。そして、車体とピーターの上着の色は似ていると言えなくもないから、一応の言い訳も成り立つ気がした。
苦しまぎれの判断だったけど、若葉ちゃんが非常に喜んでくれたので、結果オーライだと思っている。ピーターラビット号は、絵本さながら今日も元気だ。ヤスさんがきちんと整備をしてくださったのだなと実感する。ありがたい。
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オフィーリア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A2
オフィーリア (絵画)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A2_(%E7%B5%B5%E7%94%BB)
ジョン・エヴァレット・ミレー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%BC
ビアトリクス・ポター
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%82%BF%E3%83%BC
ピーターラビット号を初めて見た時、そう思った。
僕はゼミで漱石を研究していて、卒論は「こころ」で書く予定だ。本当は「草枕」と「行人」が好きなんだけど、好きであるがゆえに冷静に書ける気がしないので、先行研究の多い「こころ」にしたのだ。我ながらひどい決め方である。
父親を殺され、狂気を装ったハムレットに心ない言葉をぶつけられ、追い詰められていくオフィーリア。「草枕」では何度かオフィーリアが取り上げられる。シェイクスピアの描いた悲劇の恋人というだけではなく、彼女の最期を描いたジョン・エヴァレット・ミレーの絵に漂う神秘性込みでの描写。漱石は「行人」でもオフィーリアについてふれているから、このモティーフに並々ならぬ思い入れがあったのだろう。ロンドン留学中、神経衰弱に陥った漱石を救った絵である、とよく言われているし。
オフィーリアの絵を初めて見た時、まだ幼かった僕は何を描いたものなのか知らなかったけれども、神秘的な様子にどうしても目を離すことができなかった。
ハムレットへの想いを胸に、水面に沈むことを選択したオフィーリア。彼女は真実狂っていたのだろうか。完全に狂っていたのならば、むしろ、死は選ばなかったのではなかろうか。彼女に残された最後の正気が、美しい幕切れを選択させたのでは。つい、そんなことを考えてしまう。
若葉ちゃんから車の名前をどうするか訊ねられた時、正直少し困った。「オフィーリア号」と名づけるのは、さすがに縁起が悪すぎるだろう。
その時、思い出したのが、ビアトリクス・ポターだ。オフィーリアを描いたミレーと、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターには、交流があった。
ピーターラビットは結構ワルなうさぎだと思うけど、少なくともオフィーリアのように不吉なイメージはない。そして、車体とピーターの上着の色は似ていると言えなくもないから、一応の言い訳も成り立つ気がした。
苦しまぎれの判断だったけど、若葉ちゃんが非常に喜んでくれたので、結果オーライだと思っている。ピーターラビット号は、絵本さながら今日も元気だ。ヤスさんがきちんと整備をしてくださったのだなと実感する。ありがたい。
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オフィーリア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A2
オフィーリア (絵画)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A2_(%E7%B5%B5%E7%94%BB)
ジョン・エヴァレット・ミレー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%BC
ビアトリクス・ポター
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%82%BF%E3%83%BC
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