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第六章 まだ願いごとが叶った頃

138 気配り下手と干天の慈雨 ②

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 ピーターラビット号を購入した後も、僕は塾のバイトを続けている。新しいバイトを見つけるのが面倒だというのもなくはないけど、やりがいを感じ始めたことの方が大きい。

 中二だった眼鏡男子片岡くんは中三になり、相変わらず僕がメインで担当している。

「渋沢先生」
「何?」
「……学校の課題でわからないところを訊ねてもいいですか?」
「いいよ、もちろん」

 割とゆるい感じの塾なので、塾の課題以外の相談にも乗っていいことになっている。
 やはり数学が鬼門のようだ。課題の問題集とノートを見せてもらったけれど、基本的な考え方の理解で既に躓いているように感じられた。

「これは教科書見てやり直した方がいいよ。学校の教科書出してくれる?」

 片岡くんが見せてくれた教科書を見て、なんとなく納得した。これは、教科書がわかりづらい。これまでの関わりで、片岡くんが苦手とすることの傾向もある程度見えてきたから、頭に入りにくいだろうなと思った。
 生徒は教科書を選べない。説明も、順番通りに話されないと駄目なタイプもいれば、結論を先に聞いて説明される方がいいタイプもいれば、少しずつ繰り返して納得しつつ進んでいくのを好むタイプもいる。担当する先生との相性が悪かった場合、どんどんわからなくなるのでは。特に数学は積み重ねだし。

「片岡くんの学校の数学の先生、どんな感じ?」
「……早口で、説明が一回しかないので……」
「なるほど」
「あ、その、ベテランの先生で、わかりやすいって言ってる奴も、いっぱいいるし……」

 先生のフォローをするあたり、片岡くんは「いい子」なんだなと思う。「いい子」は大抵の場合、割を食うのだ。
 指定されたページ数を見て気になったので、もう少し訊ねてみる。

「課題、多くない?」
「……数学は場数だって、たくさん解くことを重視しておられる先生なので……」

 性格的に質問なんか全然できてなさそうだし、これは、わからないものを大量にやらされて、全然質につながっていないパターンのような気がする。

「ちょっと待ってて」

 控室に戻り、数学の教科書をざっと眺める。この塾はちょうど校区の境目にあるので、数種類教科書が常備されているのだ。塾の教材も今ひとつ合っていない気がしていたから、一般の教科書に戻ってみた。
 片岡くんに合いそうな教科書を見繕ってきて渡す。

「他の出版社の教科書なんだけど、今日はこれで勉強してみようか」
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