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番外編・取り違えと運命の人 小話集

165 秋は月 ②

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 月明かりに照らされてるからか、ジュリエッタがとても神秘的に見える。ジュリエッタの動きに呼応して、誕生祝いの髪飾りが、柔らかく、妖しく、光り方を変える。
 俺は、月、結構好きだけど、そんなにいい意味ばかりでもなかったよな。なんて、いろいろ思い出す。

「どうしたの?」

 俺がじっと見つめていることに気づいたのか、ジュリエッタが少し不思議そうに訊ねてきた。

「俺、神話とか伝説とか結構好きで、故郷の学校の先生にいろいろ本を借りて読んだんだけど。月は想像をかきたてるのか、いろんな話があったなあ、って思い出してた」
「ふうん?」
「うさぎが住んでるとか」
「ああ、それはよく言うよね」
「ヒキガエルって説もあるんだって」
「ええっ! なんでかしら。背中の模様かな?」
「あと、不安の象徴とか、人を狂わせるとか。光がちょっと神秘的だからかな」
「うん、そうね。確かに神秘的」

 俺の言葉にジュリエッタも頭上の月を見る。

「ジュリエッタ」
「なあに?」
「月が、綺麗ですね」

 とある国の文豪が「愛しています」をそんな風に訳したという逸話を思い出した。本には「この逸話は後世に作られたデマだ」と続けて記されていたけれど、俺にはその話が本当か嘘かなんてどうでもよくて。その奥ゆかしい表現がなんだかひどく印象に残った。

「ん? そうね、綺麗ね?」

 ジュリエッタには意味が全然伝わっていなくて、なんだかむしろほっとする。
 君を愛していると、直接言葉にする勇気は、俺にはまだないけれど。いつか、きちんと言葉にして伝えよう。そう決意する。

 膝枕から起き上がって続ける。

「さっきの、月は人を狂わせるって話だけどさ」
「うん?」
「だから、満月の夜に魔女が集会開いたり、人狼がオオカミに変身したりするんだって」
「へえ」
「男はみんなオオカミなんて言うけど」

 ジュリエッタの瞳を覗き込み、唇を奪う。背中をなでながらキスしているうちに俺も夢中になってしまって、思わず押し倒しにかかろうとしたその時。

「リカルド!」

 月明かりでもわかるくらい真っ赤になって、ジュリエッタが俺を押しのける。

「この流れでリカルドの意図はなんとなく察したけど、外では、嫌! 絶対! 外では嫌!!」
「ええと、じゃあ、家の中でなら、いい?」
「片づけ、ちゃんとするなら!」
「ほーい!」

 思うがままに動きすぎて、やり過ぎた時にちゃんと言ってもらえるのって、いいな。月明かりの下、片づけをしながら、そんなことを思った。
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