上 下
161 / 201
番外編・取り違えと運命の人 小話集

160 約束の行方 ①

しおりを挟む
「今日、あっついねえ」
「うん……暑い……俺、ちょっと溶けそう……」

 今日は休日で、出かけるローテーションの日だ。でもすごく暑くて、ちょっと外に出るのをためらってしまう。

「髪がまとわりついて余計暑い気が……。ごめん、出るの遅くなるけど、結ってきていい?」
「もちろん。……そうだ、道具持ってきて、ここで結ってよ」
「え?」
「ジュリエッタが髪を結うところ、見てみたい」

 珍しい、というか、そんなこと言われたの初めてだ。普段リカルドは私の着替えやお化粧を眺めたりしない。たぶん舞台裏を覗かない配慮なんだと思う。
 髪を結うくらいだったら、そう恥ずかしくはないから、いいか。

「うん。わかった。道具持ってくる」

 自室から髪結い道具一式を持ってくると、部屋が涼しくなっていた。

「ごめん、暑くて、クーラー入れちゃった」

 去年のボーナスでリカルドは私の首飾りを買ってくれた。すごく嬉しかったし、とっても気に入っているけれど、この調子だと私のものばかり買ってしまうのではないか? という懸念があったので、今年は「絶対自分で使うものを買って!」と厳命したのだ。

 リカルドが選んだのは、最新鋭の魔導室内冷却装置クーラーだった。「俺、ほんとに暑いの苦手で」って言ってたけど、結局、私も一緒に使えるものを選んでくれたんだと思う。魔力を動力源にした機械は高いので、今までこの家にはなかったんだけど、「これからはもっといろいろ買おう」と言って、配線もしてくれた。リカルドは二人の生活が少しでも楽になるようにいつも考えてくれている。ほんとにありがたい。

「もっと早く入れてよかったのに」
「もう出る予定だったから、もったいないかなと思って」
「我慢しなくていいのに」

 クーラーがあるのはこの部屋だけ。そして、リカルドは自分一人の時は絶対にクーラーを使わない。この間ビアンカ達と会って帰りが遅くなった日、めちゃくちゃ暑かったのに使ってなくて、つい叱ってしまったくらいで。
 今もたぶん、自分が暑いからじゃなくて、私が暑い思いをしなくていいようにと考えて、こっちで髪を結うように言ってくれたんだ。リカルドはそういう人だ。

「我慢、しなくていい?」
「もちろん」
「その、しばらく、シャツ、脱いでてもいい?」
「え?」

 我慢しなくていい、という文脈で、シャツを脱ぐことの許可? と頭上で疑問符が舞う。

「やっぱだめ?」
「そうじゃなくて……脱ぐの、我慢してたの?」
「ええと、我慢っていうか、普段はちゃんと着てないとダメなのかと」

 ん? …………あ。

「もしかして、リカルドが来た日に、私が言ったから?」
「ええと、その……」

 リカルドがしまったという顔をする。
 初夜のお風呂上りにリカルドが上半身裸でうろついているのにどきどきしてしまい、つい、なんか着てください!と言ったのを思い出した。今も律儀に守っていたんだ。

「我慢禁止! シャツ脱いで、待ってる間水分取って!」
「は、はい!」

 リカルドは素直にシャツを脱ぎ、水を取りに台所の方に行った。
……あれ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...