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番外編・取り違えと運命の人 小話集
156 ぼくのいもうと
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「フラヴィオ、お前に弟か妹ができるぞ!」
おとうさんがとてもうれしそうに言う。いつもにこにこしてるけど、本気でうれしそうなところはめったに見ないから、ぼくもつられてうれしくなった。
「ほんと? いつうまれるの?」
「夏に。七月の終わりか、八月の初め頃になりそうだ」
「とってもうれしいな!」
「可愛がってやってくれよ」
「もちろん!」
けっきょく、ぼくのかぞくがふえたのは七月のおわり。とってもかわいい女の子だった。
「Fの次だからGか……」
しんせきどうしのえんかいの席で、こどもが生まれたらアルファベット順に名づけようか、なんてじょうだんでだれかが言いだして、さいしょに生まれたいとこがAのアレッサンドロと名づけられてしまったので、ほかのしんせきもひけなくなってしまったらしい。だから、ぼくのいとこたちは名前で生まれ順がわかる。まあ、べんりではあるけれど。
おとうさんとおかあさんは名づけなんかどうでもいいみたいだ。ぼくが生まれた時はFの順番だったから、「髪が黄色いからフラヴィオ」とあっさり決めたんだそう。それを聞いた時、ぼくは「じぶんのこどもが生まれたら、ぜったいいろいろ考えて、すてきな意味のある名前をつけてあげよう」と決めた。
「七月生まれだし、ジューリアにするか」
いもうともあまり考えられずに名前を決められてしまいそうになっている。
ジューリア。わるい名前じゃない。けっしてわるい名前じゃないけど、このとってもかわいい女の子に、その名前はちょっとそっけなさすぎる気がした。
「おとうさん!」
「ん? なんだい、フラヴィオ」
「このこの名前、どうしてもジューリアじゃなきゃ、だめ?」
「別にそういう訳じゃないけど。どうした? なんか嫌なのか?」
「もうすこしだけ、かわいい名前がいい」
「でもGで始まる名前って他に……」
「……ジュリエッタは?」
「ジュリエッタ(可愛いジューリアちゃん)、か」
「うん……」
「わかった。ジュリエッタにしよう。いいよな?」
「別にかまわないわ。名前なんてなんでも」
そんなわけで、いもうとの名前はジュリエッタに決まった。かわいい名前になってよかった。
娘のヘレナが生まれて、両親がなにも考えていない、と思っていたのは、大きな間違いだったと悟った。
「俺、『名前なんてなんでもいい』なんて、愛情がないんだとばっかり思ってて悲しかったけど、全然違ったわ」
「元気で、幸せであってくれるなら、呼び名なんかなんでもかまわない。きっと、そういう意味よね」
両親は、こと愛情表現にかけてはちょっと不器用だ。稼いで食わせることにばかり力を入れていると、幼い頃は少しさびしく思うこともあった。だが、大人になってみると、それがとても重要で、大きな愛情であったのだと気づく。生活の基盤がぐらついているのに、気持ちを保つことは容易ではない。そこを見ないふりをしてごまかしていくのは、むしろ愛情ではなくエゴなのだと。
件のジュリエッタも両親の愛情表現の下手さがばっちり遺伝して、このままじゃろくでもない男にヤラレかねないと思っていた。相手がリカルドで本当によかった。
「フラヴィオ、ほんとにジュリエッタさんのことが可愛くて仕方ないのね」
そう言ってギネヴラが微笑むので、なんだかむっとする。
「は? そりゃ、妹だから、他人よりは思い入れあるけど、別に」
「フラヴィオ、いろいろそつなくこなすのに、愛情表現にかけてはほんと不器用」
どうも、血は争えないらしい。
-------------------------
「え、私の名前、ほんとはジューリアだったの? そっちの方がよかった。キャラ的にも合ってる気がするし」
「お、俺は! ジュリエッタがいい! 可愛いし!」
「綴り長いから、名前書くの、地味に面倒」
「」
「あ、あ! お、俺はジュリエッタの方が好きですから! フラヴィオさん!」
おとうさんがとてもうれしそうに言う。いつもにこにこしてるけど、本気でうれしそうなところはめったに見ないから、ぼくもつられてうれしくなった。
「ほんと? いつうまれるの?」
「夏に。七月の終わりか、八月の初め頃になりそうだ」
「とってもうれしいな!」
「可愛がってやってくれよ」
「もちろん!」
けっきょく、ぼくのかぞくがふえたのは七月のおわり。とってもかわいい女の子だった。
「Fの次だからGか……」
しんせきどうしのえんかいの席で、こどもが生まれたらアルファベット順に名づけようか、なんてじょうだんでだれかが言いだして、さいしょに生まれたいとこがAのアレッサンドロと名づけられてしまったので、ほかのしんせきもひけなくなってしまったらしい。だから、ぼくのいとこたちは名前で生まれ順がわかる。まあ、べんりではあるけれど。
おとうさんとおかあさんは名づけなんかどうでもいいみたいだ。ぼくが生まれた時はFの順番だったから、「髪が黄色いからフラヴィオ」とあっさり決めたんだそう。それを聞いた時、ぼくは「じぶんのこどもが生まれたら、ぜったいいろいろ考えて、すてきな意味のある名前をつけてあげよう」と決めた。
「七月生まれだし、ジューリアにするか」
いもうともあまり考えられずに名前を決められてしまいそうになっている。
ジューリア。わるい名前じゃない。けっしてわるい名前じゃないけど、このとってもかわいい女の子に、その名前はちょっとそっけなさすぎる気がした。
「おとうさん!」
「ん? なんだい、フラヴィオ」
「このこの名前、どうしてもジューリアじゃなきゃ、だめ?」
「別にそういう訳じゃないけど。どうした? なんか嫌なのか?」
「もうすこしだけ、かわいい名前がいい」
「でもGで始まる名前って他に……」
「……ジュリエッタは?」
「ジュリエッタ(可愛いジューリアちゃん)、か」
「うん……」
「わかった。ジュリエッタにしよう。いいよな?」
「別にかまわないわ。名前なんてなんでも」
そんなわけで、いもうとの名前はジュリエッタに決まった。かわいい名前になってよかった。
娘のヘレナが生まれて、両親がなにも考えていない、と思っていたのは、大きな間違いだったと悟った。
「俺、『名前なんてなんでもいい』なんて、愛情がないんだとばっかり思ってて悲しかったけど、全然違ったわ」
「元気で、幸せであってくれるなら、呼び名なんかなんでもかまわない。きっと、そういう意味よね」
両親は、こと愛情表現にかけてはちょっと不器用だ。稼いで食わせることにばかり力を入れていると、幼い頃は少しさびしく思うこともあった。だが、大人になってみると、それがとても重要で、大きな愛情であったのだと気づく。生活の基盤がぐらついているのに、気持ちを保つことは容易ではない。そこを見ないふりをしてごまかしていくのは、むしろ愛情ではなくエゴなのだと。
件のジュリエッタも両親の愛情表現の下手さがばっちり遺伝して、このままじゃろくでもない男にヤラレかねないと思っていた。相手がリカルドで本当によかった。
「フラヴィオ、ほんとにジュリエッタさんのことが可愛くて仕方ないのね」
そう言ってギネヴラが微笑むので、なんだかむっとする。
「は? そりゃ、妹だから、他人よりは思い入れあるけど、別に」
「フラヴィオ、いろいろそつなくこなすのに、愛情表現にかけてはほんと不器用」
どうも、血は争えないらしい。
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「え、私の名前、ほんとはジューリアだったの? そっちの方がよかった。キャラ的にも合ってる気がするし」
「お、俺は! ジュリエッタがいい! 可愛いし!」
「綴り長いから、名前書くの、地味に面倒」
「」
「あ、あ! お、俺はジュリエッタの方が好きですから! フラヴィオさん!」
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