【R18】取り違えと運命の人

後日譚・取り違えたその後の二人

125 ぶらり二人旅 ② （旅に出ようよ！・その２）

「そう。初めての旅行！」

　卸し先の洋品店の店主、エリザさんがにこにこと聞いてくださる。

「はい。今まで夫が忙しかったので、近場で日帰りしかしたことなかったんですけど、休暇を申請してくれたので、夫の故郷へ行くことになりました」
「今まで知らなかった面が見えるかもしれませんね」
「え？　もう結婚して一年以上経つのに？」

「普段と違う場所へ行くと、思わぬことに出くわしたりしますからね。私達は結婚した記念に初めての旅行をしましたけれど、乗る予定だった列車が事故で遅れて、初日は目的地に着かなかったんですよ」
「わあ、大変！」
「私よりもむしろ夫がしょんぼりしてしまって。それまでとっても冷静でいつもスマートにエスコートしてくれていたから、そんな表情を初めて見て、なんだか可愛くて」

　確かに、優しいけれどいつも冷静な紳士だったな、と亡くなったご主人を思い出した。あの方があわてたところを、私は見たことがない。よっぽどだったんだな。

「でも、几帳面な人だから『もしかして、自分の計画がうまくいかなかったことにがっかりしているだけかもしれない？』という疑惑が持ち上がったので」

　エリザさんがわざと嘆かわしげな表情を作るので、私は思わず笑ってしまう。

「彼に訊ねたの。『なにをそんなにしょげているの？』って」
「ご主人、なんて答えられたんですか？」
「『せっかく君との初めての旅行だから、素敵な思い出を作ってあげたかったのに、古い安宿しか取れなくて、申し訳なくて』ですって」

　エリザさんは笑顔に戻り、続けてくださる。

「お付き合いは私からの告白で始まったし、彼はあまりしゃべる方ではなかったし、結婚もなんとなく流れで、と感じていたから、私と一緒に過ごす時間をちゃんと大事に思ってくれていたことが、なんだかとても嬉しくて。その日の夕食は結局安いサンドイッチになってしまったけれど、それまで一緒に取った食事で一番おいしかったのを、今でも忘れないわ」
「ご主人、素敵な思い出を作るのに、ちゃんと成功したんですね！」

　しょんぼりしていたご主人が（想像つかないけど）気の毒でならなかったので、ちょっとほっとする。

「ええ！　彼は几帳面で基本的にミスはしないから、それからも新たな面が見えるのは、なにか予想外のハプニングがあった時で。そのたびに彼のことをもっと好きになっていって、お互いのことをきちんと話すように変わっていったと思うわ」

　想定外のことが起きた時にその人の新たな面が見えるって、確かにそうかもしれない。魔法球の取り違えがわかった時に、私も実感した。新たな面が見えて幻滅ってこともありうる訳だから、ほんとにリカルドでよかった。

「ジュリエッタも今度の旅行で素敵な思い出がたくさんできるといいですね！」
「はい！　楽しんできます！」

　エリザさんとお話しして、なんだかますます旅行が楽しみになった。