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本編・取り違えと運命の人

053 お誕生日おめでとう ⑨

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「お料理、びっくりするほどおいしかった……!」
「おいしかったね! さすが老舗。気に入ってくれた?」
「気に入るも気に入らないも、もちろんすごくよかった!」
「そっか。じゃあ、来年もここでお祝いしよう!」
「ええっ! いいの?」
「うん。ジュリエッタが気に入ってくれたなら、もちろん」

 こともなげにリカルドは言い、にこにこ笑う。

「ええと、そろそろ帰りの馬車呼んでもらおうか」

 リカルドがお店の人に頼もうとするので、あわてて止める。

「よかった! 帰りは馬車頼んでなかったんだね」
「うん。食べ終わる時間が読めなかったから」
「なら、歩いて帰りたい」

 リカルドが不思議そうな顔をする。

「え? 結構距離あるよ?」
「ごはんいっぱい食べたから腹ごなしにちょうどいいし、それに」
「それに?」
「……誕生日とか、なんか記念日に、手をつないで歩くの、憧れだったの」
「ジュリエッタ……」
「だから、私のわがまま、叶えてくれる?」
「全然わがままじゃないよ。もちろん喜んで」

 リカルドがにっこり微笑んで快諾してくれる。
 よかった。手をつないで歩くことに憧れてたのは確かに本当だけど、これ以上リカルドにお金かけさせたくない。

「じゃあ、お嬢さん、お手をどうぞ」

 支払いを終え、外に出てきたリカルドが手を差し出してくれる。私が手をちょこんと乗せると、そのままリカルドは私の手を握りこんで指を探り、恋人つなぎにした。

「ありゃ、エスコートっぽいのじゃないんだ」
「最初はエスコートっぽくしようかと思ったけど、恋人つなぎの誘惑に勝てなかった」
「あはは! うん。私も恋人つなぎがいい」

 指が絡まってるの、なんだか気持ちもくすぐったくなる。

「なんだかすごく幸せな気分。ほんとにありがとう、リカルド」

 リカルドの顔を見ながら微笑みかけると、また、リカルドの様子が変になる。

「うーん、おかしいな」
「? さっきから、どうしたの? なんかあった?」
「今日は、俺、ジュリエッタをお祝いする側のはずなのに、なんか、ことごとく、俺の方が喜ばされてる」

 様子変だったの、そこに困惑してたんだ! 思わず笑ってしまう。

「もう……! それ、最高の誕生日プレゼントだよ! リカルド」
「あれ? また?」

 ますます困惑の表情を深めるリカルドに、笑いが止まらなくなってしまった。

「ほんと嬉しい! ありがとうリカルド!」

 微妙な表情を浮かべるリカルドとゆっくり歩いて家に帰るのは、本当に楽しくて、とても嬉しかった。だって、いつもリカルドからもらってばかりなのに、私がリカルドを喜ばせられたんだもの。
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