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本編・取り違えと運命の人
042 夏の嵐・おまけ(リカルドとフラヴィオ) ①
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リカルドの職場にて・1(ファーストコンタクト)
俺の勤める建築業者にその人が訪ねてきたのは、雨上りの午後のことだった。
俺は今、現場での作業と内勤の両方で働いている。俺の持っている資格が必要な時は主に内勤で、依頼人との打ち合わせに同席したりするのだ。資格を持っていると、現場で役立つし、就職にも有利だと教えてくれた、故郷の学校の先生にはとても感謝している。
その日も打ち合わせがあるのでたまたま内勤で、俺は自分の席で待機していた。
なんだろう、この色気。
事務所の奥で相談している男性に思わず目がいった。少し長めの黄色い髪と澄んだ翠玉の瞳がとても印象的だ。確かにハンサムなんだけど、つくりが整っただけの人なら、きっとたくさんいる。そういうのとは違う、目の離せなさ。眼光鋭くて、射抜くように相手を見つめているのに、時折ふっと視線を外すからだろうか。ただならぬ存在感があるのに、それとは裏腹に、いつ消えてしまうかわからないような危うさが見え隠れして……。何事にも動じないと思っていた事務員の奥様方が色めき立っているのを初めて見た。
「今度暖簾分けするから、この町で貸物件探してたんだが、なかなかいいのがなくて。いっそ古い建物を買い取って改造した方が、長い目で見たらよさそうだと」
不動産屋に相談したところ、紹介されたのがうちだったそうだ、と、事務員の奥様方が我先にと語る。皆様、食いつきすぎ。
「なるほど。確かに難しいかもしれませんが、うちにはエキスパートがいるので、おそらくなんとかなると思います。……リカルドさん! ちょっといいですか?」
同僚のマッテオから急に呼びかけられ、びっくりする。
「なに?」
「配置をちょっと複雑にしないといけないんですが、こういうの、可能ですか?」
マッテオがサラサラと紙に概略を描く。なるほど、ちょっと難しいけど……。
「ええと、窓から搬入して、あとはこうすればたぶん大丈夫だと」
「さすが、瞬殺」
「……リカルド?」
色男から名前を呼ばれ、思わず振り向く。艶めいたバリトンが妙に耳に残った。
「はい?」
「いや、知り合いの名前と同じだったから」
「え? ええと、まあ、よくある名前ですよね」
「……そうだよな。急に声を掛けて申し訳ない」
「いえ、大丈夫です」
打ち合わせが始まるから来てくれとボスから呼ばれ、彼とはそれきりになった。
俺の勤める建築業者にその人が訪ねてきたのは、雨上りの午後のことだった。
俺は今、現場での作業と内勤の両方で働いている。俺の持っている資格が必要な時は主に内勤で、依頼人との打ち合わせに同席したりするのだ。資格を持っていると、現場で役立つし、就職にも有利だと教えてくれた、故郷の学校の先生にはとても感謝している。
その日も打ち合わせがあるのでたまたま内勤で、俺は自分の席で待機していた。
なんだろう、この色気。
事務所の奥で相談している男性に思わず目がいった。少し長めの黄色い髪と澄んだ翠玉の瞳がとても印象的だ。確かにハンサムなんだけど、つくりが整っただけの人なら、きっとたくさんいる。そういうのとは違う、目の離せなさ。眼光鋭くて、射抜くように相手を見つめているのに、時折ふっと視線を外すからだろうか。ただならぬ存在感があるのに、それとは裏腹に、いつ消えてしまうかわからないような危うさが見え隠れして……。何事にも動じないと思っていた事務員の奥様方が色めき立っているのを初めて見た。
「今度暖簾分けするから、この町で貸物件探してたんだが、なかなかいいのがなくて。いっそ古い建物を買い取って改造した方が、長い目で見たらよさそうだと」
不動産屋に相談したところ、紹介されたのがうちだったそうだ、と、事務員の奥様方が我先にと語る。皆様、食いつきすぎ。
「なるほど。確かに難しいかもしれませんが、うちにはエキスパートがいるので、おそらくなんとかなると思います。……リカルドさん! ちょっといいですか?」
同僚のマッテオから急に呼びかけられ、びっくりする。
「なに?」
「配置をちょっと複雑にしないといけないんですが、こういうの、可能ですか?」
マッテオがサラサラと紙に概略を描く。なるほど、ちょっと難しいけど……。
「ええと、窓から搬入して、あとはこうすればたぶん大丈夫だと」
「さすが、瞬殺」
「……リカルド?」
色男から名前を呼ばれ、思わず振り向く。艶めいたバリトンが妙に耳に残った。
「はい?」
「いや、知り合いの名前と同じだったから」
「え? ええと、まあ、よくある名前ですよね」
「……そうだよな。急に声を掛けて申し訳ない」
「いえ、大丈夫です」
打ち合わせが始まるから来てくれとボスから呼ばれ、彼とはそれきりになった。
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