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おまけ
43 Present for You ①
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「航平くん。誕生日プレゼント、何がいい?」
愛佳ちゃんから直球で質問された。俺の誕生日は四月なので、もうすぐなのだ。
正直、俺は愛佳ちゃんがいてくれたら、それでいいんだけど。ただ、そういう回答を求めているのではないのだということは、もちろんわかる。
「なんでもいいの?」
「うん。航平くん、私のすること、なんでも喜んじゃうから。リクエストに応える」
思わず笑ってしまった。お互い同じように思っていたのか。愛佳ちゃん、俺のすること、なんでも喜んじゃう。
しばし考え、これは、というものを思いつく。
「その……気を悪くしないでほしいんだけど」
「なにその前置き」
「その……愛佳ちゃんは俺達の初めての夜をとても大切に思ってくれていて、それは非常にありがたいことで、決して否定したい訳ではないんだけど」
「ほんとに前置き長いね」
愛佳ちゃんが容赦なくツッコんでくれて、なんだか嬉しくなってしまう。きちんと付き合い始める前、微妙に敬語が崩れないのが気になっていたから。
「その……俺の意識がはっきりした状態で、お互い初めてのつもりで、俺が本当にしたかったことを、もう一度させてほしくて」
「え?」
愛佳ちゃんは目をぱちくりさせる。
「その! 俺の記憶が断片的にしか残っていないことが! 非常に悔やまれるので!」
嘘は吐いてない。あの時、意識がもっとはっきりしていたらとは、何度も思った。
愛佳ちゃんが大切に思ってくれている出来事を、ひどいものだと言いたい訳じゃない。やり直したいというのとも、少し違う気がする。たぶん、あの始まりじゃなければ、愛佳ちゃんとは付き合っていないし。
今、俺は、毎回、今の俺ができうる限り全力で、愛佳ちゃんを愛でている。けれど、なんとなくもやもやが晴れない。用意したプレゼントをまだ渡せていないような気分なのだ。愛佳ちゃんには受け取る権利があるのに。俺が一方的にあの時のことを想定して抱くのではこれまでと変わらない。お互い初めての気持ちでもう一度したいのだ。
ひどく馬鹿げた発想だと思う。独りよがりな自己満足に過ぎないとも思う。けれど、これがすっきりしないと、たぶん俺は先に進めない。
「いいよ、もちろん。航平くんが本当はどんな風にしたかったのか、興味あるし」
愛佳ちゃんはさらりと受け入れてくれた。優しい。
*
誕生日は俺の家で祝ってもらうことにした。ちょうど土曜だったので、前の日から愛佳ちゃんに泊まり込んでもらった。日付が変わってすぐ、「お誕生日おめでとう」と言ってもらえて、すごく嬉しかった。
揚げたてのコロッケを食べたいと熱烈にリクエストしたので、愛佳ちゃんは午後から下ごしらえに励んでくれた。「今日は航平くんの誕生日だから」と手伝わせてもらえなかったけれど、やっぱりコロッケにはものすごくたくさんの工程がある。
まずお米を研いで、炊飯器の準備をしておく。炊けるまで時間がかかるし、最初にやっておかないと忘れるから、だって。なるほど。
じゃがいもをそのままゆでて、皮を剥がして、つぶして。卵をゆでて。その間に玉ねぎの皮を剥いて、みじん切りにして。ゆで卵を冷やして。玉ねぎと合いびき肉を一緒に炒めて、軽く塩胡椒を振って。卵の殻を剥いて、みじん切りにして。全部じゃがいもに混ぜて、しばらく冷まして。
タネが冷めるのを待つ間に、付け合わせのキャベツの準備をする。洗って、千切りにして、もう一度洗って、ドレッシングがおいしく絡むようにザルにあける。愛佳ちゃんは栄養と彩りを考え、大葉と人参の千切りも追加してくれた。
冷めたタネを成形して、小麦粉をつけて、卵にくぐらせて、パン粉をまぶす。揚げられるようになるまで、本当に一苦労だ。
もちろん揚げるのも大変。熱そうだし、油がはねるし、パンクしないようにするための火加減も難しい。揚げた後、油を吸わせられるように、新聞紙の上にキッチンペーパーを乗せたお菓子の紙箱をあらかじめ準備してくれていた。紙箱なのは「そのまま捨てられるから」だそう。生活の知恵。
今度からは絶対一緒に作ると心に誓った。ハンドブレンダーとサラダスピナーも買おう。
愛佳ちゃんから直球で質問された。俺の誕生日は四月なので、もうすぐなのだ。
正直、俺は愛佳ちゃんがいてくれたら、それでいいんだけど。ただ、そういう回答を求めているのではないのだということは、もちろんわかる。
「なんでもいいの?」
「うん。航平くん、私のすること、なんでも喜んじゃうから。リクエストに応える」
思わず笑ってしまった。お互い同じように思っていたのか。愛佳ちゃん、俺のすること、なんでも喜んじゃう。
しばし考え、これは、というものを思いつく。
「その……気を悪くしないでほしいんだけど」
「なにその前置き」
「その……愛佳ちゃんは俺達の初めての夜をとても大切に思ってくれていて、それは非常にありがたいことで、決して否定したい訳ではないんだけど」
「ほんとに前置き長いね」
愛佳ちゃんが容赦なくツッコんでくれて、なんだか嬉しくなってしまう。きちんと付き合い始める前、微妙に敬語が崩れないのが気になっていたから。
「その……俺の意識がはっきりした状態で、お互い初めてのつもりで、俺が本当にしたかったことを、もう一度させてほしくて」
「え?」
愛佳ちゃんは目をぱちくりさせる。
「その! 俺の記憶が断片的にしか残っていないことが! 非常に悔やまれるので!」
嘘は吐いてない。あの時、意識がもっとはっきりしていたらとは、何度も思った。
愛佳ちゃんが大切に思ってくれている出来事を、ひどいものだと言いたい訳じゃない。やり直したいというのとも、少し違う気がする。たぶん、あの始まりじゃなければ、愛佳ちゃんとは付き合っていないし。
今、俺は、毎回、今の俺ができうる限り全力で、愛佳ちゃんを愛でている。けれど、なんとなくもやもやが晴れない。用意したプレゼントをまだ渡せていないような気分なのだ。愛佳ちゃんには受け取る権利があるのに。俺が一方的にあの時のことを想定して抱くのではこれまでと変わらない。お互い初めての気持ちでもう一度したいのだ。
ひどく馬鹿げた発想だと思う。独りよがりな自己満足に過ぎないとも思う。けれど、これがすっきりしないと、たぶん俺は先に進めない。
「いいよ、もちろん。航平くんが本当はどんな風にしたかったのか、興味あるし」
愛佳ちゃんはさらりと受け入れてくれた。優しい。
*
誕生日は俺の家で祝ってもらうことにした。ちょうど土曜だったので、前の日から愛佳ちゃんに泊まり込んでもらった。日付が変わってすぐ、「お誕生日おめでとう」と言ってもらえて、すごく嬉しかった。
揚げたてのコロッケを食べたいと熱烈にリクエストしたので、愛佳ちゃんは午後から下ごしらえに励んでくれた。「今日は航平くんの誕生日だから」と手伝わせてもらえなかったけれど、やっぱりコロッケにはものすごくたくさんの工程がある。
まずお米を研いで、炊飯器の準備をしておく。炊けるまで時間がかかるし、最初にやっておかないと忘れるから、だって。なるほど。
じゃがいもをそのままゆでて、皮を剥がして、つぶして。卵をゆでて。その間に玉ねぎの皮を剥いて、みじん切りにして。ゆで卵を冷やして。玉ねぎと合いびき肉を一緒に炒めて、軽く塩胡椒を振って。卵の殻を剥いて、みじん切りにして。全部じゃがいもに混ぜて、しばらく冷まして。
タネが冷めるのを待つ間に、付け合わせのキャベツの準備をする。洗って、千切りにして、もう一度洗って、ドレッシングがおいしく絡むようにザルにあける。愛佳ちゃんは栄養と彩りを考え、大葉と人参の千切りも追加してくれた。
冷めたタネを成形して、小麦粉をつけて、卵にくぐらせて、パン粉をまぶす。揚げられるようになるまで、本当に一苦労だ。
もちろん揚げるのも大変。熱そうだし、油がはねるし、パンクしないようにするための火加減も難しい。揚げた後、油を吸わせられるように、新聞紙の上にキッチンペーパーを乗せたお菓子の紙箱をあらかじめ準備してくれていた。紙箱なのは「そのまま捨てられるから」だそう。生活の知恵。
今度からは絶対一緒に作ると心に誓った。ハンドブレンダーとサラダスピナーも買おう。
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