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尋深からは相変わらず返信もなく、既読スルーされたままだ。
彼女は時間にルーズな人間ではなかった。サークルの集合時間に連絡もなく遅れてくるようなこともなかったし、二人で本屋で待ち合わせをした時にも、彼女は五分前に着いていた。
こちらは三十分前には着いていたから知っている。自分ばかりが張り切っているようでばつが悪かったので、自分もついさっき着いたような風を装った。
実は彼女とはほんの一時期だけ付き合っていた。その初デートが本屋での待ち合わせだったのだ。あの合宿の夜から一年も後のことだ。
そう。告白すればよかったと心底後悔したあの夜から、更に一年の時間が過ぎていた。もしも時間を巻き戻せるとしたら、あの日の本屋か。あの合宿の夜か。それとも雨のテニスコートか——。いや。そんな、今のこの人生に後悔が有るかのような考えは失礼だ。家族をはじめ、今の自分を作ってくれた人達に、そして自分自身にも——。
合宿を境に、どういうわけか帰り道で一緒になることが増えていた。それは意識的にそうしたわけではなかった。散々画策しても効果がなかったのに、姑息な手段を諦めた途端に一緒に帰る機会が増えたのだった。正門を出て信号待ちをしていると、たまたま彼女が後ろから追いついて来たり、コンビニの前を通ったら彼女がちょうど店の中から出て来たり。
あの夜はサークルの仲間たち数人で晩御飯を食べた帰り道だった。
彼女と二人になったところで、意を決して告白をした。正確にはそれ以前に意は決していたのだ。この次、帰りが一緒になったら告白しようと。
心臓が口から一緒に出たかと思うほどの告白の言葉に、驚きを隠さなかった彼女だったが、すぐに表情を崩して承諾してくれた。
何らかの核が融合だか分裂だかしたかのような、その笑顔だけで一生生きていけそうなエネルギーの放出だった。
キスはおろか手を繋いだことすらない。たった二か月ほどの付き合い。それを付き合ったと言えるのかどうか。
それなりに酸いも甘いも噛み分けてきた今となっては、もし他人がそんなことを言ってきたら即座に否定してしまうかもしれない。
でも、自分のこととなると話は違う。
確かに告白をし、承諾をもらい、何度かはデートらしきことをして、そして振られたのだ。
付き合っていた——それ以外に、この間の二人の関係を表現する言葉があるだろうか。
そんなふうに強弁してみたところで、実は自信はない。救いは肯定してくれる人もいない代わりに、否定する人間もいないという程度のことか。
いや——。全人類に否定されても構わない。唯一最大の気掛かりは、たった一人、彼女本人に否定されてしまうことだ。
果たして、自分は彼女に元カレの一人としてカウントされているのだろうか。
「どうしたの、溜め息なんか吐いちゃって」
頭上斜めうしろからの声に驚いて振り返って、更に驚いた。
尋深が立っていたからだ。
昼間と同じスーツ姿だが、あの時に比べて明らかに化粧が濃く、髪も下ろしている。それでもやはり同じ歳月を重ねたことを疑ってしまうほど、卑怯なまでに破壊力のある笑顔だ。それはまるで十五光年先の笑顔を見せられているかのごとく——。
とはいえ、もう学生時代とは違う。三十分で来ると言っておきながら、到着したのは一時間後の今なのだ。しかもその間に連絡の一つも寄越さない。笑顔一つで許されるのは学生だけだ。社会人は甘くない。
だが、彼女はそんな思いなどお構いなしだ。勝手に隣の席の鞄を手に取ると、こちらに押し付けるようにして、そこに座った。
「おい」
「なに?」
「何か言うことあるだろう」
「あ。お疲れ様」
「じゃなくて」
「何よ?」
「三十分で来るって言ったじゃないか」
「言った、かな?」
わざとらしく人差し指を顎に当てて、惚けた顔で斜め上を見ている。軽く尖らせた唇の色が昼間会ったときよりも随分と濃い。
スマホには動かぬ証拠が残っているというのに、全く意に介していないような、あるいは(笑)という文字が見えるような、実にあざとくて憎らしい、でも憎めない表情だった。
「なんで一時間もかかったんだよ」
「だって、もともと三十分で来れる場所じゃなかったんだもん。こっちは土地勘もないし、無理だよ」
文字表記できない呻き声を上げた自覚があった。この感情をどういう言葉で表せばいいのかと悶絶する。
「じゃあ、なんで三十分で来るなんて言うんだ?」
「だって。一時間かかるなんて言ったら、待っててくれないかもしれないじゃない。ぎり三十分ってとこかなって思ってさ」
今度は小さく舌を出している。
抵抗する手段がないことを悟った。完全に白旗だった。
お互いもうアラフォーだぞ。
同じだけ年齢を重ねているはずなのに。
もう花の女子大生でもないくせに。
一時間くらい待つに決まっているじゃないか。これまでに過ぎた時間に比べれば、一時間なんて——。
そんなことは言葉には出来ない。
人生は言葉に出来なかった思いの積み重ねだ。そんなものばかりが枯葉のように散り積もっている。積もった枯葉を見ないように踏み固めては、また積もり。そんなものが層を成している。
「いらっしゃいませ。各務さん、随分とお待ちかねでしたよ」
女将が余計なことを言いながら、彼女におしぼりを手渡した。
「そうなんですかぁ。昔から素直じゃないんですよね、彼」
「あら。男なんてみんなそんなものよ。プライドばっかり高くって。でも、そんなところも可愛かったりするんですけどね」
「可愛いって言うんでしょうか。この人は昔からだらしないんです。一緒に観た映画のラブシーンくらいで耳まで真っ赤にしてドギマギしちゃって。映画の後は急に無口になっちゃったりして」
「なっ、」
いくら隣の席だったとはいえ、暗い映画館の中で耳の色まで分かるはずもない。明らかに捏造だ。抗議したいのはやまやまだったが、この女性二人が相手では返り討ちに遭うのは目に見えている。そう思って言葉を探すのを放棄した。
楽しそうな尋深がメニューも見ずに奥播磨純米吟醸無濾過生と鰆の西京焼きを注文すると、女将がすまなそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。西京焼きは各務さんのが最後だったの」
「えーーーっ!」
「あ。そういえば、ラスイチって言われたような気がするな」
「騙したなあ」
泣きそうな顔で睨みつけてくる。
「人聞きの悪いことを言うなよ。騙してなんかないじゃないか」
もちろん泣いてなどいない。なのに、ぐすんとか言っている。十五年経っても彼女の得意技らしい。
「あん、泣かないで。ごめんなさいね。塩焼きになっちゃうけど鯵ならいいのがあるんだけど、どうかしら」
わがままを言っている子どもと、それをあやす保育士さんのようだ。子どもの方はたちまち目を輝かせて、保育士さんの提案を受け入れた。
「すみませんね」
何故かつい女将に謝ってしまった。案の定「何であなたが謝るのよ」と文句を言われた。
女将はそれを横目に、嬉しそうに奥へと引っ込んだ。
尋深はどこからか取り出したゴムを口に咥え、後ろ手で髪を束ね始めた。
そのうなじを見ているだけで酒が何杯か飲めそうだ。
そんな思いを汲んでくれたのか、女将がすぐに日本酒を注ぎに来てくれた。
尋深の前にも同じ卵型のグラスが置かれ、そこに同じ奥播磨が注がれる。
同時にグラスを持って、ほんの少しだけ視線を絡め、やはりほんの少しだけグラスを触れ合わせた。
「お疲れ様」
「お久しぶり」
思えば二人だけで酒で乾杯をするのは、これが初めてかもしれない。
小さな感慨と共にグラスに口をつけたとき、彼女の方は口に運びかけたグラスを何故かまた置いた。身体の向きを変えて、こちらから見えないようにバッグから何かを取り出したようだ。
「ごめん、うっかりしてた。ちょっとリップが濃かったんだった。あの後ちょっと気合のいる商談があってさ」
どうやらティッシュで軽くリップを落としたらしい。もちろんそんな仕草は学生時代には見覚えがない。
彼女はあらためてグラスを手に取って口をつけた。
「美味しい。やっぱ無濾過だね。やっぱ生だね」
「日本酒なんて飲むんだな」
「飲むよお。日本酒だって、芋だって麦だって。そっちこそ昔はすぐに酔っ払って、二次会は必ず寝てたくせに」
APTの飲み会は三次会までが定番だった。二次会はいつも酔って寝ていて記憶がなく、三次会でなんとか復活するのがお決まりのようになっていた。
「そんなこと、よく覚えてるな」
「だって、わたしの元ストーカー君だもの」
口にものが入っていたら吹き出していただろう。人聞きの悪いことを言うなと否定もできない。それは事実だからだ。
あの夏合宿の、更に次の夏が終わり、短い秋が深まりつつあった頃。端的に言えば、振られた後ということだ。
ストーカーになる——。
そう決心をして、ストーカーになった。
巷に溢れるストーカーの中には、自分がストーカーであることを自覚していない、あるいは自覚していながらも認めようとしない輩も多いように聞くが、そんな無自覚無責任なストーカーたちとは一緒にされたくない。自称意識高い系のストーカーだった。
付き合っていた短期間の間に何回も送って帰ったことがあったので、彼女の自宅マンションは知っていた。一人っ子で両親と三人で暮らしだと聞いていたけれど、家族にはお目にかかる機会もないまま振られてしまった。
大学の時間割を把握するのは容易かった。一コマ目の講義が多いことには閉口したけれど、自分が受ける講義のためにはできない早起きも、彼女をストーキングするためなら苦にはならなかった。
家を出るであろう時間に目星をつけて、マンションの出入り口が見通せる場所に潜んだ。そこをA地点と呼んでいた。彼女が利用している自転車置き場とは反対側で、こちらからは出入りが確認出来るが向こうからは見られにくい。絶妙な場所だった。彼女が自転車置き場へ向かったのを確認したところでB地点へと先回りをする。そこからは必要十分な距離を置いて後を追うだけだ。
結局のところ行き先は大学なのだから、大学で待っていてもいいようなものだ。頭では分かっていても、そう出来ないところがストーカーたる所以なのだと、何故か悦に入っている自分がいたことを憶えている。馬鹿な話だ。
兎にも角にも少しでも長く彼女の姿を視界に入れておきたい。
どんな些細な情報でもいい。彼女のことを知っておきたい。
誰よりも早く知りたい。
誰よりも詳しくありたい。
今日はどんな服を着ているのか。
通学途中はどの道を通って、どの信号に引っ掛かったか。
お昼にどの学食で、誰と何を食べたか。
学校帰りには何処に寄り道をしたか。あるいはしなかったか。
どの店で何を買ったか。
どんな雑誌を立ち読みして、何の映画を観たか。
どんなふうに笑い、何に腹を立てたか。
彼女が受けている講義にも潜入した。なるべく目立たない大きな講義室の隅の席を確保して、同じ講義を受けた。ぼうっと彼女の後頭部を眺めてばかりいたわではない。後頭部も相当に魅力的ではあったけれど、それと同じくらい彼女が受けている講義の内容にも興味を引かれた。
もちろん知的好奇心ばかりではなく、同じ空間にいればいくらかは同じ空気を吸えるだろうという、正統かつ変態的なストーカーらしい欲求があったのも確かだ。
盗撮にも手を染めた。
実のところ生身の彼女以外にはさほど興味はなかったのだが、どうしても顔を見たくなることはある。すでに携帯電話に保存されている写真もあるにはあったが、最新画像が欲しくなるのもストーカーの常だ、多分——。自分にそう言い訳をしていた。
振られたあともAPTは辞めてはいなかったので、サークル仲間という関係性には変わりはなかったし、着替えやヌードを撮ろうというのではないのだから、こっそり盗撮なんかせずに堂々と撮らせてもらうことも可能だったかもしれない。それでも、やはり振られた立場としては頼みにくい。断られでもしたら、ショックでストーカー行為がエスカレートしてしまうのではないかという理性的な観測もあった。
本格的なカメラ機材の導入を考えたこともあったけれど、持ち運びのしにくさや経済面での問題から実現はしなかった。
一方で、どうしても出席しなければいけない自分の講義にはきちんと出席していた。このあたりの理性の保ちようが、そんじょそこらの犯罪的ストーカーとは一線を画すと自負するところでもあった。
ただ、どこまでなら犯罪ではなく、どこからが犯罪なのかは理解してはいなかった。マンションの前で隠れて待っていたり、通学路を数メートル離れて追走することは犯罪なのだろうか。知りたくもなかったから、調べもしなかった。
ストーカーと化して数日で、付き合っていた頃よりも格段に彼女の行動について詳しくなっていた。自分は彼女のほんの一面しか知らなかったのだと思い知らされた。
友達と談笑している時の楽しそうな彼女の表情は、何度でも再生して見たくなるほどの愛おしさと同時に、自分にはもう以前と同じ笑顔が向けられることはない現実への葛藤を呼び起こした。
「名刺、頂戴」
その声に我に返って隣を見ると、尋深が無遠慮に右手を差し出していた。
言われるままポケットから名刺入れを取り出し、一枚を渡した。
「へえ。次長さんなんだ。なんか、偉そうで笑っちゃう」
「うるさい」
少しだけ仕事の話をした。業界は違えども、社会人の愚痴など似たりよったりだ。話が合う部分あり、合わない部分あり。十五年の時間を経てそんな会話ができるようになったことに感慨のようなものはあっても、本音ではさほど興味はなかった。仕事の話がしたい相手ではないということだろうか。
ではプライベートの話はと言えば、それには少しだけ勇気のようなものが必要だった。結婚したという葉書も届いていたし、子どもが生まれたあとの年賀状には親子三人での写真が載っていたので、うちの娘と同学年だということも知っていた。プライベートに関する情報はそれが全てと言ってよかった。それで十分だと思っていた。
「そうだ。日坂くんってお笑い芸人になってたでしょ」
APTに誘ってくれて、尋深との縁を結んでくれた日坂幸人。彼は卒業後に一旦は就職した会社を辞め、友人とコンビを組んでお笑い芸人になった。それなりに売れっ子にもなっていたのだが、何年か前、相方の不祥事をきっかけに引退してしまっていた。
「よく下宿で一緒に安い酒を呑んだよ。安い酒はほんとに頭が痛くなるんだ」
「どうせエッチな話ばっかりしてたんでしょ」
「ばっかりではないよ」
「どうだか」
「女の子の話をよくしてたのは確かだけどね」
それぞれ想いを寄せる相手がいた。ただし、その相手に対する行動には雲泥の差があった。
「やっぱり。ま、女子も集まれば同じようなものだけど。そうそう、日坂くんって柴田さんのことが大好きだったでしょ」
「何で知ってるんだよ」
「知らない人なんかいなかったよ」
「まあ、そうか」
こちらがなかなか告白できずにうじうじしている間に、日坂の方は相手が先輩であることも意に介さず、果敢に攻めまくって何度も玉砕をしていた。断られても断られても、また告白を繰り返したのだ。
実は最後には想いが実り、気持ちを受け入れてもらったのだが、それでもハッピーエンドにはならなかった。
柴田奈央は大学卒業を間近に控えたある日、姿を消した。そうだ。中学三年の春、突然いなくなった時と同じように。
既に卒論も終わって卒業の要件は満たしていたので、大学は卒業したことになっているらしいとは聞いたが、日坂を含め、事情や行方を知る人は誰もいなかった。
「柴田さんってどうしたんだろうな」
「日坂くんだって何も知らなかったんだから、よっぽどのことだよね」
柴田奈央が姿を消してからの日坂の落ち込みようは酷かった。どんな言葉をかけていいのかも分からなかった。
「でも、日坂くんは偉かったよ。振られても振られても、くじけずに柴田さん一筋を貫き通してさ。誰かさんとは大違いだよね」
急に飛んできた言葉の槍が心臓にぐさりと刺さった気がして、横目で彼女を見た。
彼女は真っ直ぐ前を向いたまま、グラスに口を付けて満足そうに微笑んだ。
「日坂くん、芸能界をやめて今はどうしてるのか、知ってるの?」
「いや。相方の不祥事はかなり大変そうだったから、連絡するのも躊躇っちゃって。もう随分長い間、連絡も取っていないよ」
日坂たちのコンビは、相方が薬物容疑で逮捕された挙句に自殺するという最悪の形で幕を引いていた。
「あの二人のコント、面白くてわたし好きだったなあ」
視線を感じてカウンタの中に目を向けた。すると女将が珍しく自分の方から目を逸らしたように見えた。調理中だったので、偶々その流れで目元に視線を落としただけだとは思うけれど。
そこからしばらくは学生時代の友人たちの近況について、お互いが知っている情報を交換し合うなど、当たり障りのない話題でそれなりに盛り上がった。
風向きの変化を感じたのは、彼女の三杯目の日本酒が半分ほど減った頃だった。
彼女は時間にルーズな人間ではなかった。サークルの集合時間に連絡もなく遅れてくるようなこともなかったし、二人で本屋で待ち合わせをした時にも、彼女は五分前に着いていた。
こちらは三十分前には着いていたから知っている。自分ばかりが張り切っているようでばつが悪かったので、自分もついさっき着いたような風を装った。
実は彼女とはほんの一時期だけ付き合っていた。その初デートが本屋での待ち合わせだったのだ。あの合宿の夜から一年も後のことだ。
そう。告白すればよかったと心底後悔したあの夜から、更に一年の時間が過ぎていた。もしも時間を巻き戻せるとしたら、あの日の本屋か。あの合宿の夜か。それとも雨のテニスコートか——。いや。そんな、今のこの人生に後悔が有るかのような考えは失礼だ。家族をはじめ、今の自分を作ってくれた人達に、そして自分自身にも——。
合宿を境に、どういうわけか帰り道で一緒になることが増えていた。それは意識的にそうしたわけではなかった。散々画策しても効果がなかったのに、姑息な手段を諦めた途端に一緒に帰る機会が増えたのだった。正門を出て信号待ちをしていると、たまたま彼女が後ろから追いついて来たり、コンビニの前を通ったら彼女がちょうど店の中から出て来たり。
あの夜はサークルの仲間たち数人で晩御飯を食べた帰り道だった。
彼女と二人になったところで、意を決して告白をした。正確にはそれ以前に意は決していたのだ。この次、帰りが一緒になったら告白しようと。
心臓が口から一緒に出たかと思うほどの告白の言葉に、驚きを隠さなかった彼女だったが、すぐに表情を崩して承諾してくれた。
何らかの核が融合だか分裂だかしたかのような、その笑顔だけで一生生きていけそうなエネルギーの放出だった。
キスはおろか手を繋いだことすらない。たった二か月ほどの付き合い。それを付き合ったと言えるのかどうか。
それなりに酸いも甘いも噛み分けてきた今となっては、もし他人がそんなことを言ってきたら即座に否定してしまうかもしれない。
でも、自分のこととなると話は違う。
確かに告白をし、承諾をもらい、何度かはデートらしきことをして、そして振られたのだ。
付き合っていた——それ以外に、この間の二人の関係を表現する言葉があるだろうか。
そんなふうに強弁してみたところで、実は自信はない。救いは肯定してくれる人もいない代わりに、否定する人間もいないという程度のことか。
いや——。全人類に否定されても構わない。唯一最大の気掛かりは、たった一人、彼女本人に否定されてしまうことだ。
果たして、自分は彼女に元カレの一人としてカウントされているのだろうか。
「どうしたの、溜め息なんか吐いちゃって」
頭上斜めうしろからの声に驚いて振り返って、更に驚いた。
尋深が立っていたからだ。
昼間と同じスーツ姿だが、あの時に比べて明らかに化粧が濃く、髪も下ろしている。それでもやはり同じ歳月を重ねたことを疑ってしまうほど、卑怯なまでに破壊力のある笑顔だ。それはまるで十五光年先の笑顔を見せられているかのごとく——。
とはいえ、もう学生時代とは違う。三十分で来ると言っておきながら、到着したのは一時間後の今なのだ。しかもその間に連絡の一つも寄越さない。笑顔一つで許されるのは学生だけだ。社会人は甘くない。
だが、彼女はそんな思いなどお構いなしだ。勝手に隣の席の鞄を手に取ると、こちらに押し付けるようにして、そこに座った。
「おい」
「なに?」
「何か言うことあるだろう」
「あ。お疲れ様」
「じゃなくて」
「何よ?」
「三十分で来るって言ったじゃないか」
「言った、かな?」
わざとらしく人差し指を顎に当てて、惚けた顔で斜め上を見ている。軽く尖らせた唇の色が昼間会ったときよりも随分と濃い。
スマホには動かぬ証拠が残っているというのに、全く意に介していないような、あるいは(笑)という文字が見えるような、実にあざとくて憎らしい、でも憎めない表情だった。
「なんで一時間もかかったんだよ」
「だって、もともと三十分で来れる場所じゃなかったんだもん。こっちは土地勘もないし、無理だよ」
文字表記できない呻き声を上げた自覚があった。この感情をどういう言葉で表せばいいのかと悶絶する。
「じゃあ、なんで三十分で来るなんて言うんだ?」
「だって。一時間かかるなんて言ったら、待っててくれないかもしれないじゃない。ぎり三十分ってとこかなって思ってさ」
今度は小さく舌を出している。
抵抗する手段がないことを悟った。完全に白旗だった。
お互いもうアラフォーだぞ。
同じだけ年齢を重ねているはずなのに。
もう花の女子大生でもないくせに。
一時間くらい待つに決まっているじゃないか。これまでに過ぎた時間に比べれば、一時間なんて——。
そんなことは言葉には出来ない。
人生は言葉に出来なかった思いの積み重ねだ。そんなものばかりが枯葉のように散り積もっている。積もった枯葉を見ないように踏み固めては、また積もり。そんなものが層を成している。
「いらっしゃいませ。各務さん、随分とお待ちかねでしたよ」
女将が余計なことを言いながら、彼女におしぼりを手渡した。
「そうなんですかぁ。昔から素直じゃないんですよね、彼」
「あら。男なんてみんなそんなものよ。プライドばっかり高くって。でも、そんなところも可愛かったりするんですけどね」
「可愛いって言うんでしょうか。この人は昔からだらしないんです。一緒に観た映画のラブシーンくらいで耳まで真っ赤にしてドギマギしちゃって。映画の後は急に無口になっちゃったりして」
「なっ、」
いくら隣の席だったとはいえ、暗い映画館の中で耳の色まで分かるはずもない。明らかに捏造だ。抗議したいのはやまやまだったが、この女性二人が相手では返り討ちに遭うのは目に見えている。そう思って言葉を探すのを放棄した。
楽しそうな尋深がメニューも見ずに奥播磨純米吟醸無濾過生と鰆の西京焼きを注文すると、女将がすまなそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。西京焼きは各務さんのが最後だったの」
「えーーーっ!」
「あ。そういえば、ラスイチって言われたような気がするな」
「騙したなあ」
泣きそうな顔で睨みつけてくる。
「人聞きの悪いことを言うなよ。騙してなんかないじゃないか」
もちろん泣いてなどいない。なのに、ぐすんとか言っている。十五年経っても彼女の得意技らしい。
「あん、泣かないで。ごめんなさいね。塩焼きになっちゃうけど鯵ならいいのがあるんだけど、どうかしら」
わがままを言っている子どもと、それをあやす保育士さんのようだ。子どもの方はたちまち目を輝かせて、保育士さんの提案を受け入れた。
「すみませんね」
何故かつい女将に謝ってしまった。案の定「何であなたが謝るのよ」と文句を言われた。
女将はそれを横目に、嬉しそうに奥へと引っ込んだ。
尋深はどこからか取り出したゴムを口に咥え、後ろ手で髪を束ね始めた。
そのうなじを見ているだけで酒が何杯か飲めそうだ。
そんな思いを汲んでくれたのか、女将がすぐに日本酒を注ぎに来てくれた。
尋深の前にも同じ卵型のグラスが置かれ、そこに同じ奥播磨が注がれる。
同時にグラスを持って、ほんの少しだけ視線を絡め、やはりほんの少しだけグラスを触れ合わせた。
「お疲れ様」
「お久しぶり」
思えば二人だけで酒で乾杯をするのは、これが初めてかもしれない。
小さな感慨と共にグラスに口をつけたとき、彼女の方は口に運びかけたグラスを何故かまた置いた。身体の向きを変えて、こちらから見えないようにバッグから何かを取り出したようだ。
「ごめん、うっかりしてた。ちょっとリップが濃かったんだった。あの後ちょっと気合のいる商談があってさ」
どうやらティッシュで軽くリップを落としたらしい。もちろんそんな仕草は学生時代には見覚えがない。
彼女はあらためてグラスを手に取って口をつけた。
「美味しい。やっぱ無濾過だね。やっぱ生だね」
「日本酒なんて飲むんだな」
「飲むよお。日本酒だって、芋だって麦だって。そっちこそ昔はすぐに酔っ払って、二次会は必ず寝てたくせに」
APTの飲み会は三次会までが定番だった。二次会はいつも酔って寝ていて記憶がなく、三次会でなんとか復活するのがお決まりのようになっていた。
「そんなこと、よく覚えてるな」
「だって、わたしの元ストーカー君だもの」
口にものが入っていたら吹き出していただろう。人聞きの悪いことを言うなと否定もできない。それは事実だからだ。
あの夏合宿の、更に次の夏が終わり、短い秋が深まりつつあった頃。端的に言えば、振られた後ということだ。
ストーカーになる——。
そう決心をして、ストーカーになった。
巷に溢れるストーカーの中には、自分がストーカーであることを自覚していない、あるいは自覚していながらも認めようとしない輩も多いように聞くが、そんな無自覚無責任なストーカーたちとは一緒にされたくない。自称意識高い系のストーカーだった。
付き合っていた短期間の間に何回も送って帰ったことがあったので、彼女の自宅マンションは知っていた。一人っ子で両親と三人で暮らしだと聞いていたけれど、家族にはお目にかかる機会もないまま振られてしまった。
大学の時間割を把握するのは容易かった。一コマ目の講義が多いことには閉口したけれど、自分が受ける講義のためにはできない早起きも、彼女をストーキングするためなら苦にはならなかった。
家を出るであろう時間に目星をつけて、マンションの出入り口が見通せる場所に潜んだ。そこをA地点と呼んでいた。彼女が利用している自転車置き場とは反対側で、こちらからは出入りが確認出来るが向こうからは見られにくい。絶妙な場所だった。彼女が自転車置き場へ向かったのを確認したところでB地点へと先回りをする。そこからは必要十分な距離を置いて後を追うだけだ。
結局のところ行き先は大学なのだから、大学で待っていてもいいようなものだ。頭では分かっていても、そう出来ないところがストーカーたる所以なのだと、何故か悦に入っている自分がいたことを憶えている。馬鹿な話だ。
兎にも角にも少しでも長く彼女の姿を視界に入れておきたい。
どんな些細な情報でもいい。彼女のことを知っておきたい。
誰よりも早く知りたい。
誰よりも詳しくありたい。
今日はどんな服を着ているのか。
通学途中はどの道を通って、どの信号に引っ掛かったか。
お昼にどの学食で、誰と何を食べたか。
学校帰りには何処に寄り道をしたか。あるいはしなかったか。
どの店で何を買ったか。
どんな雑誌を立ち読みして、何の映画を観たか。
どんなふうに笑い、何に腹を立てたか。
彼女が受けている講義にも潜入した。なるべく目立たない大きな講義室の隅の席を確保して、同じ講義を受けた。ぼうっと彼女の後頭部を眺めてばかりいたわではない。後頭部も相当に魅力的ではあったけれど、それと同じくらい彼女が受けている講義の内容にも興味を引かれた。
もちろん知的好奇心ばかりではなく、同じ空間にいればいくらかは同じ空気を吸えるだろうという、正統かつ変態的なストーカーらしい欲求があったのも確かだ。
盗撮にも手を染めた。
実のところ生身の彼女以外にはさほど興味はなかったのだが、どうしても顔を見たくなることはある。すでに携帯電話に保存されている写真もあるにはあったが、最新画像が欲しくなるのもストーカーの常だ、多分——。自分にそう言い訳をしていた。
振られたあともAPTは辞めてはいなかったので、サークル仲間という関係性には変わりはなかったし、着替えやヌードを撮ろうというのではないのだから、こっそり盗撮なんかせずに堂々と撮らせてもらうことも可能だったかもしれない。それでも、やはり振られた立場としては頼みにくい。断られでもしたら、ショックでストーカー行為がエスカレートしてしまうのではないかという理性的な観測もあった。
本格的なカメラ機材の導入を考えたこともあったけれど、持ち運びのしにくさや経済面での問題から実現はしなかった。
一方で、どうしても出席しなければいけない自分の講義にはきちんと出席していた。このあたりの理性の保ちようが、そんじょそこらの犯罪的ストーカーとは一線を画すと自負するところでもあった。
ただ、どこまでなら犯罪ではなく、どこからが犯罪なのかは理解してはいなかった。マンションの前で隠れて待っていたり、通学路を数メートル離れて追走することは犯罪なのだろうか。知りたくもなかったから、調べもしなかった。
ストーカーと化して数日で、付き合っていた頃よりも格段に彼女の行動について詳しくなっていた。自分は彼女のほんの一面しか知らなかったのだと思い知らされた。
友達と談笑している時の楽しそうな彼女の表情は、何度でも再生して見たくなるほどの愛おしさと同時に、自分にはもう以前と同じ笑顔が向けられることはない現実への葛藤を呼び起こした。
「名刺、頂戴」
その声に我に返って隣を見ると、尋深が無遠慮に右手を差し出していた。
言われるままポケットから名刺入れを取り出し、一枚を渡した。
「へえ。次長さんなんだ。なんか、偉そうで笑っちゃう」
「うるさい」
少しだけ仕事の話をした。業界は違えども、社会人の愚痴など似たりよったりだ。話が合う部分あり、合わない部分あり。十五年の時間を経てそんな会話ができるようになったことに感慨のようなものはあっても、本音ではさほど興味はなかった。仕事の話がしたい相手ではないということだろうか。
ではプライベートの話はと言えば、それには少しだけ勇気のようなものが必要だった。結婚したという葉書も届いていたし、子どもが生まれたあとの年賀状には親子三人での写真が載っていたので、うちの娘と同学年だということも知っていた。プライベートに関する情報はそれが全てと言ってよかった。それで十分だと思っていた。
「そうだ。日坂くんってお笑い芸人になってたでしょ」
APTに誘ってくれて、尋深との縁を結んでくれた日坂幸人。彼は卒業後に一旦は就職した会社を辞め、友人とコンビを組んでお笑い芸人になった。それなりに売れっ子にもなっていたのだが、何年か前、相方の不祥事をきっかけに引退してしまっていた。
「よく下宿で一緒に安い酒を呑んだよ。安い酒はほんとに頭が痛くなるんだ」
「どうせエッチな話ばっかりしてたんでしょ」
「ばっかりではないよ」
「どうだか」
「女の子の話をよくしてたのは確かだけどね」
それぞれ想いを寄せる相手がいた。ただし、その相手に対する行動には雲泥の差があった。
「やっぱり。ま、女子も集まれば同じようなものだけど。そうそう、日坂くんって柴田さんのことが大好きだったでしょ」
「何で知ってるんだよ」
「知らない人なんかいなかったよ」
「まあ、そうか」
こちらがなかなか告白できずにうじうじしている間に、日坂の方は相手が先輩であることも意に介さず、果敢に攻めまくって何度も玉砕をしていた。断られても断られても、また告白を繰り返したのだ。
実は最後には想いが実り、気持ちを受け入れてもらったのだが、それでもハッピーエンドにはならなかった。
柴田奈央は大学卒業を間近に控えたある日、姿を消した。そうだ。中学三年の春、突然いなくなった時と同じように。
既に卒論も終わって卒業の要件は満たしていたので、大学は卒業したことになっているらしいとは聞いたが、日坂を含め、事情や行方を知る人は誰もいなかった。
「柴田さんってどうしたんだろうな」
「日坂くんだって何も知らなかったんだから、よっぽどのことだよね」
柴田奈央が姿を消してからの日坂の落ち込みようは酷かった。どんな言葉をかけていいのかも分からなかった。
「でも、日坂くんは偉かったよ。振られても振られても、くじけずに柴田さん一筋を貫き通してさ。誰かさんとは大違いだよね」
急に飛んできた言葉の槍が心臓にぐさりと刺さった気がして、横目で彼女を見た。
彼女は真っ直ぐ前を向いたまま、グラスに口を付けて満足そうに微笑んだ。
「日坂くん、芸能界をやめて今はどうしてるのか、知ってるの?」
「いや。相方の不祥事はかなり大変そうだったから、連絡するのも躊躇っちゃって。もう随分長い間、連絡も取っていないよ」
日坂たちのコンビは、相方が薬物容疑で逮捕された挙句に自殺するという最悪の形で幕を引いていた。
「あの二人のコント、面白くてわたし好きだったなあ」
視線を感じてカウンタの中に目を向けた。すると女将が珍しく自分の方から目を逸らしたように見えた。調理中だったので、偶々その流れで目元に視線を落としただけだとは思うけれど。
そこからしばらくは学生時代の友人たちの近況について、お互いが知っている情報を交換し合うなど、当たり障りのない話題でそれなりに盛り上がった。
風向きの変化を感じたのは、彼女の三杯目の日本酒が半分ほど減った頃だった。
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何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
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この物語はフィクションです。
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