黒い記憶の綻びたち

古鐘 蟲子

文字の大きさ
上 下
13 / 28

12.パラレルワールド

しおりを挟む
 タイトルにパラレルワールドとあるが、前回の話から続いている部分のある話だ。

 そして今朝、たまたまタイムリーなことに、この話題がTwitter(あくまで私はTwitterといつまでも言い張る)のTLに流れてきた。

 偶然か必然かは知らないけれども、タイムリーだなぁと思いながらいいねもRTもせず流した。


 パラレルワールドというのはそもそも少しタイトルのチョイスを誤ったかもしれない。

 厳密には、マンデラエフェクトという方が正しい。

 マンデラエフェクトというワード、読者の皆様はご存知だろうか。


 元ネタとしては、南アフリカのネルソン・マンデラという人が、大統領などいろいろな役職をやってきた偉い人だったわけだが、国家反逆罪という罪で終身刑にされ投獄されてしまう。(Wikipediaより掻い摘んで情報を引用)

 その人の訃報が2013年に流れるが、「あれ?マンデラさんもっと前に亡くなってなかったっけ?」という記憶を持つ人が多く出た。

 記憶と現実の不一致。これをネルソン・マンデラから名前をとり、マンデラエフェクトと呼ぶのだそうだ。


 日本でよく聞くのは、黄色い国民的人気ねずみキャラクターのデザインの不一致。

 かくいう私も、小学生の頃よくこのキャラクターを自由帳に書いていたのでデザインは覚えているはずなのだが、実際の現在のデザインと比較してみると模様が違う箇所があったりする。

 おかしいのだ。確かに私は小学生のとき、本物を見ながら描き方を覚えたはずなのだから。



 と、このようなことから始まり、私のマンデラエフェクトに関するエピソードはたくさんある。

 中でも、一番びっくりしたのは、有名俳優の訃報を三回ニュースで観たこと。

 三回というのは、ワンシーズンにということではない。


 有名俳優、名前を出すとご迷惑になりかねないので控えるが、富良野を舞台にした名作の主演であった方だ。

 その方の最初の訃報を聞いたのは、私が中学生の頃。
 まだ父が亡くなる少し前かと思うので、一年生の頃だったと思う。

 その頃、友人たちの間で何故か面白くて、ずっとその俳優さんの真似をするのが流行っていた。流行っていたその時期に訃報を聞いたものだから、みんな不謹慎かもということで真似をしなくなったのだ。


 だから私の記憶では、中学生の頃にこの方は亡くなっている認識だった。


 しかし、二十歳前後の頃にまたその方の訃報を聞くことになる。

「〇月〇日、〇〇さんが〇〇(病名)で亡くなっていたことが今日、わかりました」

 ニュースで、中学生の頃に亡くなっていたはずのその方の訃報が流れている。

 正直ビックリした。しかし中学生の頃のあれは、もしかしたら思い違いだったのかもしれない。

 そうしたら辻褄が合うわけだし、きっとそうだ。
 私はそう自分に言い聞かせた。

 この当時、接客業をしていたのだが、職場でこの方の話題が出たことを覚えている。



 話はまだ続く。

 二回目は何となく、自分の記憶違いなんだろうなと、そう自分に思い込ませて終わったけれど、三回目があった。


 2021年。今の家庭を持って、今の夫と暮らし、子どもたちと何気なくテレビを観ていたときだった。

「〇月〇日、都内の〇〇で、〇〇(俳優さん)さんが〇〇(病名)によりこの世を去りました。〇〇歳でした」


 同じ方の名前、出ている画像も同じ方である。

 私は思わず

「また亡くなったの!?」

 とその場でわりかし大きめの声で言ってしまった。

 二度目までなら、まあ思い違いかなで済んでいた話が、三度目ともなるともうわけがわからない。

 何を疑って、何を信じればいいのかわからない。

 二度目と三度目の間くらいに、あるアニメを視聴していた。

 タイムマシンで未来を変えようと奮闘する、秋葉原が舞台のあのアニメだ。

 私はふと、あのアニメを思い出した。

 世界線というものがあると、その作品では言っていた。
 いや、現実と幻想の境界が認識出来ていないわけでは決してないと思いたいけれど。

 世界線というのは、無限に続く枝分かれした大樹のようなもの。

 私たちはふとした何かのタイミングで、知らないうちにどこか別の世界線に移動してしまっているのではないか。


 そのタイミングとは、例えば前話で語った、父が亡くなる三日前の、あの濃霧のような──。

 そこまで考えて、怖くなった。

 私はもしかして、あの濃霧のとき、見えない何かに止められていたのではないか?

 信じられないくらい濃い霧、そしてタイミング良く外れた自転車のチェーン。

 あのまま家にいたら、元の世界線のまま過ごせたのではないだろうか。

 父もしくは先祖か何かが、見えない力で行く手を阻んだのでは?

 それでもと力技で走って病院に向かってしまったから、世界線を移動してしまったのではないかと──そこまで考えて、どうでもよくなった。


 私は今恐らく、パラレルワールドのようなところにいるのだろうと思う。

 二十歳くらいからここ数年までの間でもう一度恐らく世界線の移動をしている。


 思い当たるのは、新潟でひたすら雪が降る夜中、歩いて職場からスーパーまで行った夜くらいか。



 実は、私のマンデラエフェクトは代表例としてこの俳優さんの訃報を挙げてはいるが、他にも細々したエピソードがたくさんある。

 訃報を聞いたはずの方が今も芸能人として生きておられるケースもある。


 だから、細々したエピソードに関しては割愛させて頂くとして。

 マンデラエフェクトというこの現象、何故か私はよくぶち当たってしまうのである。

 今回はそういうお話だった。
しおりを挟む

処理中です...