黒い記憶の綻びたち

古鐘 蟲子

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04.飛蚊症のありえない進行

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 虫の話が続くが、これは直接的な虫の話ではない。

 ただ、少し不思議に思っているのでここに書き連ねておこうと思った。

 私は飛蚊症である。
 中学生頃、この飛蚊症という言葉を知って以来、この現象は飛蚊症という名前なのか、と腑に落ちた。

 要は、明るいところ──例えば空なんかがそうだ。あとは白い壁。それを見ると、物心ついたくらいの頃からカエルの卵のようなものが透明になって見えるのだ。視界を動かせばそれはついてくる。

 なんなら今、この文章を打つパソコンの画面でもそれが見えている。

 透明な丸いものと、そこからミミズのように伸びたヒモ状のもの。

 大人になってからこれを職場の先輩に説明すると、否定された。

 飛蚊症は、年寄りが見るものであってあなたのような若い子が見えるはずがない。

 しかしSNSなんかをやっていると、不思議なもので、子どもの頃から見えているという私のような人間は、結構な数いることがわかった。

 だからこの現象自体は非科学的なことなど一切ない。



 無いのだが。──問題はここからである。

 どのタイミングからだっただろう。確か、中学生の頃だったかと思う。

 カエルの卵しか見えていなかった視界に、新たな飛蚊症の症状が追加された。

 それが、蚊柱である。
 よく、田舎でユスリカという蚊が群れをなしてモヤのように飛んでいるところがあるだろう。あれだ。

 私の視界の中に、無数の蚊が、私の視界が動くと同時にというわけでもなく、縦横無尽に蚊柱のように飛ぶようになったのだ。

 だから何か私生活に影響が出る、ということもないのだが、飛蚊症が進行したようだった。

 飛蚊症がいきなり進行すると、網膜剥離となる場合が多いと調べてわかった。
 しかし蚊柱が見えるようになってからも、視力は良い方だし網膜剥離の症状は一切ない。

 そもそも、飛蚊症に蚊柱のような縦横無尽に動くタイプの症状は、調べても一切出てこないのである。


 あれは、飛蚊症の症状などではなく、もしかしたら普通の人の目には見えない何かなのではないか。
 最近、そう考えることがある。
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