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ゲーム前
VS王妃
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「どういうことですか、王妃様!!」
「…」
アウレスの詰問に王妃はチラリとアウレスの方へ目を向けるが、それもほんの一瞬のことで、すぐに興味を失ったようにスッと視線を反らした。
「さぁ、私には何のことかさっぱり」
動揺することなく紡がれる言葉に揺らぎはない。
「そんな!」
アウレスの悲鳴に似た叫びに、切り捨てられた絶望が滲む。
「ご自分だけ逃れるおつもりか!?そんなこと、許されるとでも!?」
いつも綴じられているアウレスの細目がくわっと開き、輝きのない深淵の如く暗い瞳が周囲に晒される。
その異様さに周囲が固唾を飲む音が聞こえるような気がした。
「逃れるも何も、私は一切関わりのないこと。審議官、早く話を元に戻しなさい」
「…」
審議官は迷うように陛下に目を向ける。
その視線に軽く頷くと、陛下はルー様を見つめた。
隣のルー様を窺うと、どうしたの、というように私へ優しく首を傾げる。
いやいやいや、ルー様、その笑顔尊い。
尊いけど、今は私じゃないの。
あっち、ほら、あっち!
見えるでしょう?
あなたのお父様に意識を向けて。
ね、ほら。さぁ、早く。
そんなことを視線で訴えるけど、ルー様はどこ吹く風。
そんな私たちのやり取りを暫く見つめていた陛下は、意を決したように審議官へと視線を戻す。
「此度の件、神官長1人で行うには無理がある。神殿から持ち出した魂を気づかれずに保管するには、それなりの財力と魔道具が必要だ。
それに、ヴィルフェルムを孤独に貶め魔王の器にと画策していたならば、私の寵姫であるカルマが暗殺されたことも今回のことと関係深いことは必至」
「!」
陛下の口からカルマ様の名前が出た瞬間、これまで取り澄ましていた王妃の顔が憤怒に染まる。
おそらく、先程の陛下の言葉に含まれていた「寵姫であるカルマ」、その言葉に反応したのだろう。
寵姫であった、という過去形ではなく、寵姫であるカルマ。
それは、今現在、陛下の最愛は王妃ではなくカルマ様であるということを、この場にいる全員に知らしめたのと同じこと。
憤怒に燃える理由は、その屈辱ゆえか、それとも愛する者から愛が獲られないことへの悔しさか、今は亡きカルマ様への嫉妬か。
恐らく、その全てであろう。
「何を仰っていますの、陛下。
寵姫である、ですって?もうあの者は死者ですわ、陛下。
あなたの妻は私1人。つまり、あなたの寵姫は私ということです。
死者の名を出して皆を混乱させないで下さい」
淑女の笑みを無理矢理張り付けて、王妃が取り縋るように、陛下の腕に手を添える。
それを不自然に見えないように然り気無く、だけど明確に拒絶の意思を持って退ける陛下。
「今は亡くとも、あれが私が唯一愛する者だということは変わらない。
それ故、あなたを寵姫だと思ったことは一度もない」
「な!」
陛下の冷たい視線と言葉に、王妃が愕然と目を見開く。
うわぁ、好きな人にこんな公衆の面前でこっぴどく振られるって、絶対経験したくないわぁ。
陛下もなかなか酷なことをする、と皆が王妃に対して同情の視線を向けた。
結果として、それが王妃の仮面を壊す最後の一押しになったのだろう。
王妃の顔が般若のように恐ろしく歪んだ。
「死んでも私の邪魔をするというの…」
ギリっと歯を噛み締めると、ふいに王妃がこちらを見た。
その禍々しい視線に背筋が凍る。
強張った私を庇うように、ルー様がスッと私を背中に庇う。
「やっぱり、あなたもカルマとともに何がなんでも始末しておくべきだったわ。
忘れ形見がいる限り、陛下はカルマを思い出してしまうものね。
カルマが死んで暫くは、陛下もあなたを守ろうと躍起になっていたけれど、時が経つにつれてその保護も薄れていったから、あなたへの関心も失くなったのだと油断したのがいけなかった」
そう静かに語る王妃の髪がどんどん色を無くし白く変化して、重力に逆らうように広がっていく。
瞳も輝きのないほの暗い闇色となり、まさにアウレスと同じ色味へ変化していく様を茫然と見つめていたのは、恐らく一瞬のことであった。
そのあまりにも人とかけ離れた姿と禍々しい気配に、周囲の人は本能的に危機を感じ、叫び声と逃げようと駆け出す人々で一気に騒然となる。
「まさか、魔女に成り果てたというのか!」
恐らく予想外のできごとなのだろう、陛下の焦りを含んだ声が聞こえる。
ルー様の背後から様子を窺った私の目に飛び込んで来たのは、大量に魔力を含んだ闇の攻撃魔法を私たちに向かって放とうとしている王妃の姿だった。
本来、王妃は闇の属性など持っていなかった。
それなのに、何故闇の魔法を使えるのか。
そんな疑問が頭の隅で沸き上がるけれど、それよりも、私を背に庇い梃子でも動かなさそうなルー様に焦りが募る。
「っルー様!」
私の焦る声にも振り向かず、険しい目で王妃を見つめ返すルー様。
「その子がいると身動きが取れなくなると思っていたわ。
これは、全ての守護をも上回るものよ。
カルマの加護でさえも、ね」
「やめろ!」
ニタリと笑い、私たちに狙いを定める王妃を陛下が捕らえようとするが、王妃から放たれる魔力の風圧で近づけない。
「王妃様、何を!?ここまで仕上げた器を壊すおつもりですか!?」
そうふざけた理由で王妃を止めようとするのはもちろんアウレス。
こういう状況じゃなければ、黙らっしゃいと声を大にして叩き落としたものを。
カルマ様の加護が効かない。
つまり、それはルー様が死んでしまうかもしれないということ。
その事実に体が震える。
「死ね!!!」
その王妃の叫びとともに、放たれる禍々しい気配と威力を持った攻撃魔法。
私たちの周りには誰もいない。
つまり、ルー様を守れるのは私しかいない。
こうなったらやることは決まっている。
私はルー様の背後から駆け出した。
「アナ!?」
これまでに聞いたことがないほど焦ったルー様の声が私の名前を呼ぶ。
「ルー様は、私が護る!!」
ルー様の前に躍り出た私の眼前に、禍々しい攻撃魔法が迫っていた。
「…」
アウレスの詰問に王妃はチラリとアウレスの方へ目を向けるが、それもほんの一瞬のことで、すぐに興味を失ったようにスッと視線を反らした。
「さぁ、私には何のことかさっぱり」
動揺することなく紡がれる言葉に揺らぎはない。
「そんな!」
アウレスの悲鳴に似た叫びに、切り捨てられた絶望が滲む。
「ご自分だけ逃れるおつもりか!?そんなこと、許されるとでも!?」
いつも綴じられているアウレスの細目がくわっと開き、輝きのない深淵の如く暗い瞳が周囲に晒される。
その異様さに周囲が固唾を飲む音が聞こえるような気がした。
「逃れるも何も、私は一切関わりのないこと。審議官、早く話を元に戻しなさい」
「…」
審議官は迷うように陛下に目を向ける。
その視線に軽く頷くと、陛下はルー様を見つめた。
隣のルー様を窺うと、どうしたの、というように私へ優しく首を傾げる。
いやいやいや、ルー様、その笑顔尊い。
尊いけど、今は私じゃないの。
あっち、ほら、あっち!
見えるでしょう?
あなたのお父様に意識を向けて。
ね、ほら。さぁ、早く。
そんなことを視線で訴えるけど、ルー様はどこ吹く風。
そんな私たちのやり取りを暫く見つめていた陛下は、意を決したように審議官へと視線を戻す。
「此度の件、神官長1人で行うには無理がある。神殿から持ち出した魂を気づかれずに保管するには、それなりの財力と魔道具が必要だ。
それに、ヴィルフェルムを孤独に貶め魔王の器にと画策していたならば、私の寵姫であるカルマが暗殺されたことも今回のことと関係深いことは必至」
「!」
陛下の口からカルマ様の名前が出た瞬間、これまで取り澄ましていた王妃の顔が憤怒に染まる。
おそらく、先程の陛下の言葉に含まれていた「寵姫であるカルマ」、その言葉に反応したのだろう。
寵姫であった、という過去形ではなく、寵姫であるカルマ。
それは、今現在、陛下の最愛は王妃ではなくカルマ様であるということを、この場にいる全員に知らしめたのと同じこと。
憤怒に燃える理由は、その屈辱ゆえか、それとも愛する者から愛が獲られないことへの悔しさか、今は亡きカルマ様への嫉妬か。
恐らく、その全てであろう。
「何を仰っていますの、陛下。
寵姫である、ですって?もうあの者は死者ですわ、陛下。
あなたの妻は私1人。つまり、あなたの寵姫は私ということです。
死者の名を出して皆を混乱させないで下さい」
淑女の笑みを無理矢理張り付けて、王妃が取り縋るように、陛下の腕に手を添える。
それを不自然に見えないように然り気無く、だけど明確に拒絶の意思を持って退ける陛下。
「今は亡くとも、あれが私が唯一愛する者だということは変わらない。
それ故、あなたを寵姫だと思ったことは一度もない」
「な!」
陛下の冷たい視線と言葉に、王妃が愕然と目を見開く。
うわぁ、好きな人にこんな公衆の面前でこっぴどく振られるって、絶対経験したくないわぁ。
陛下もなかなか酷なことをする、と皆が王妃に対して同情の視線を向けた。
結果として、それが王妃の仮面を壊す最後の一押しになったのだろう。
王妃の顔が般若のように恐ろしく歪んだ。
「死んでも私の邪魔をするというの…」
ギリっと歯を噛み締めると、ふいに王妃がこちらを見た。
その禍々しい視線に背筋が凍る。
強張った私を庇うように、ルー様がスッと私を背中に庇う。
「やっぱり、あなたもカルマとともに何がなんでも始末しておくべきだったわ。
忘れ形見がいる限り、陛下はカルマを思い出してしまうものね。
カルマが死んで暫くは、陛下もあなたを守ろうと躍起になっていたけれど、時が経つにつれてその保護も薄れていったから、あなたへの関心も失くなったのだと油断したのがいけなかった」
そう静かに語る王妃の髪がどんどん色を無くし白く変化して、重力に逆らうように広がっていく。
瞳も輝きのないほの暗い闇色となり、まさにアウレスと同じ色味へ変化していく様を茫然と見つめていたのは、恐らく一瞬のことであった。
そのあまりにも人とかけ離れた姿と禍々しい気配に、周囲の人は本能的に危機を感じ、叫び声と逃げようと駆け出す人々で一気に騒然となる。
「まさか、魔女に成り果てたというのか!」
恐らく予想外のできごとなのだろう、陛下の焦りを含んだ声が聞こえる。
ルー様の背後から様子を窺った私の目に飛び込んで来たのは、大量に魔力を含んだ闇の攻撃魔法を私たちに向かって放とうとしている王妃の姿だった。
本来、王妃は闇の属性など持っていなかった。
それなのに、何故闇の魔法を使えるのか。
そんな疑問が頭の隅で沸き上がるけれど、それよりも、私を背に庇い梃子でも動かなさそうなルー様に焦りが募る。
「っルー様!」
私の焦る声にも振り向かず、険しい目で王妃を見つめ返すルー様。
「その子がいると身動きが取れなくなると思っていたわ。
これは、全ての守護をも上回るものよ。
カルマの加護でさえも、ね」
「やめろ!」
ニタリと笑い、私たちに狙いを定める王妃を陛下が捕らえようとするが、王妃から放たれる魔力の風圧で近づけない。
「王妃様、何を!?ここまで仕上げた器を壊すおつもりですか!?」
そうふざけた理由で王妃を止めようとするのはもちろんアウレス。
こういう状況じゃなければ、黙らっしゃいと声を大にして叩き落としたものを。
カルマ様の加護が効かない。
つまり、それはルー様が死んでしまうかもしれないということ。
その事実に体が震える。
「死ね!!!」
その王妃の叫びとともに、放たれる禍々しい気配と威力を持った攻撃魔法。
私たちの周りには誰もいない。
つまり、ルー様を守れるのは私しかいない。
こうなったらやることは決まっている。
私はルー様の背後から駆け出した。
「アナ!?」
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