【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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 少し遅れて、計画のために手紙をやり取りした紳士達も集まってくる。

「今日のクリスチナ様は何て美しいのでしょう!」

「どうか、一緒にダンスを!」

 今まで、クリスチナが人生で聞いたことがなかったような言葉が並ぶ。多くの人々からのお世話に、クリスチナは自信が回復してくるのを感じた。

「皆様のような素晴らしい方々に、お声掛け頂き嬉しく思います。是非、後ほど、ご一緒させて下さい」

 やっぱり美しくなった自分を殿下に見てもらおう!


 クリスチナが視線を泳がせると、近付いて来ていた、ヴィルヘルムと目が合う。

 不機嫌そうなしかめっ面のまま、ヴィルヘルムはエミリアを連れてやって来た。

「ひ、久しぶりだな。元気だったか?」

「はい。殿下もお元気そうで何よりでございます」

 クリスチナは鼓動がはやくなる胸を押さえながら、期待と不安の混じる眼差しをヴィルヘルムに向ける。

 綺麗だと仰って下さる? それとも醜い女だと思われる?


「今日は随分と華美な格好をしているんだな? 贅沢はしないんじゃなかったのか? それに随分と立派な方々と一緒にいるじゃないか?」

 「立派な」というのは、皮肉の言葉である。ヴィルヘルムはふんぞりかえって、男達を品定めするように見回す。

 どの男も大したことない男ばかりだ。不細工で貧乏そうな男や太ったオッサンばかりじゃないか。あの1番マシにみえる男は、先日、浮気がバレて婚約破棄されたクズ男じゃないか? それに、確か、あっちの男は借金がある遊び人。

 これなら、間違いなく私が選ばれるはずだ。


「ここにお集まりの皆様は、国を憂う素晴らしい方々で、本当に立派でいらっしゃいます。そんな皆様に敬意を表すため、ワタクシも恥ずかしくない装いをさせて頂きました」

 クリスチナは、自分の計画が上手くいっていることを喜んでいた。

 殿下は確かに『華美』と仰った! 初めて、容姿を褒めてもらえた! しかも、狙い通りに立派な男性達に嫉妬している!

 クリスチナは表情のコントロールをするのを忘れ、心からの笑顔を浮かべた。

 努力して良かった!


 だが、ヴィルヘルムは反対に不機嫌になった。

 どうして今日はこんなに綺麗なんだ!? 私と婚約している間は、ずっとお洒落しなかったのに! 何故、笑っている!? 作り笑顔ではない、本当の笑顔で! 私と婚約破棄して、他の男達に求婚されるのが、そんなに嬉しいのか!? フリードリヒとの結婚は議会で拒否したらしいから、本命は別の男か? 国を憂う素晴らしい方!? ふざけるな! どいつも、こいつも、労せず美味い汁を吸いたいような奴ばかりだ! こんな男達よりも、私が劣っている馬鹿だとクリスチナは思っているのか!?

 こんな奴ら...クリスチナのことを愛してなんかいないのに! 私が1番、クリスチナを愛しているのに! こんな男達と並んで求婚したら、私の愛までが、偽物のようになってしまう!

 だが、クリスチナが選ぶのは、迷惑をかける私ではなく、迷惑をかけない偽物なのだ。

「私の浮気を疑っていた癖に、やっぱり、お前が浮気をしたかったようだな」

 ヴィルヘルムは求婚者の輪から外れて庭に出てしまった。


 クリスチナは困惑した。

 何故、私が浮気? 確かに、自分に話しかけてくれる方を募集して、モテているように見せかける工作はしたが、社交界の皆様のいる前で、少し話したくらいでは浮気など成立するはずもない。むしろ、浮気しているのは殿下じゃないのだろうか? 今日もこうして、エミリア嬢をエスコートして、堂々と浮気されているのに...

 クリスチナが首を傾げているとエミリアが笑顔で近付いて来た。

「クリスチナ様、もう、お聞きになったと思いますが、先日、私が女王になりたい云々と言った話は、お芝居だったんです。ヴィル王子が、クリスチナ様にヤキモチ妬いて欲しいから私は頼まれた通りに発言しただけで、私と王子の間には何もなかったんですよ!」

「お芝居?」

「そうなんですよ! 私は王子の命令に従っただけ! それなのに、議会の方々ったら、風紀を乱したとか、議会を混乱させたとか、詐欺だとか言って、私に罰金を要求してきて、金貨100枚も払えっていうんですよ!? おかしくありません?」

 (城仕えの女中の月給が金貨10枚程度)

 周囲の人々はエミリアの言葉で、婚約破棄の宣言がクリスチナの言った通り、試練であったのだと、しきりに納得した。

「エミリア嬢、ご相談にのりますので、こちらへいらして下さい」

 クリスチナは周囲の目を気にして、エミリアを連れてテラスに移動した。
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