【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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 しばらくすると美活の効果が現れた。

 栄養が足りているので、食欲が減り、仕事時の甘味を自然とやめられた。代謝やお通じがよくなり、沢山食べているのに体重が減り、体が驚くほど軽くなる。肌荒れが治り、肌に潤いが出てきて、髪にも艶が出てきている。

 驚いたのは、視力や嗅覚が良くなったことだ。頭の回転も良くなり、いつもよりも短時間で仕事がこなせる。

 1番嬉しかったのは、綺麗になると、男女問わず、人と目が合うようになったことだ。皆が、ワタクシに笑顔を向けてくれるようになった。


 今日のクリスチナは、ドレスの仮縫い(体型にピッタリ合う仕立てドレスには必要な作業)をするために、何十分もハイヒールで直立させらていた。

 クリスチナは意識が朦朧とする中、ぼんやりと考えた。

 自分は今まで、レディである事をサボっていたのね。

 殿下には申し訳ない事をした。

 有力貴族の御子息達や他国の王子のパートナー達は、皆、しっかりと手入れされており、光り輝くような美しさだった。

 一方、ワタクシは手入れもされていなければ、素材も良くない粗悪品。

 美しい他の女性に目が行くのは仕方がない事だったに違いない。

 しかし...殿下は努力したワタクシを気に入って下さるだろうか? 多大なる予算と、多くの人々の力を借りた、この努力が無駄になったりしないだろうか?

 このプロジェクトにかけた予算と労力が有れば、きっと貧しい民の命や生活を救えたはず...その命を差し置いて、何の成果も得られなければ、ワタクシは悪政をひく悪女である。

 いや、大丈夫だ! 少し華やかな衣装を着て、軽くメイクしただけで、あんなに動揺されて、次回の公式行事のパートナー確認までされたのだ。たったあれだけのお洒落であそこまで効果が現れたのだから、これだけすればきっと、ワタクシに対する殿下の見方も変わるはず!

 生まれつき美人な、あの女性(エミリア嬢)には敵わないかもしれないが、ワタクシを正妃に据え、エミリア嬢を愛人とすることに同意してくれるかもしれない。

 悪女から国を守るため、民を守るため、女には女の戦い方がある。

 どうか、美の女神よ! 力を貸して下さい!

 どうか、少しくらいは、殿下がワタクシを女性として見てくれますように。



 仮縫いを終えたデザイナーがクリスチナに声をかける。

「お疲れ様です。では以降、ボディサイズに変化がないようにお気を付け下さい」

 すると、次の予定のために待機していたダイエットチームが猛抗議し始める。

「まだ、舞踏会までに2週間もあるのですよ!? これからまだまだサイズダウン出来るのに、痩せるなと仰りたいのですか!?」

 これに服飾チームが反論する。

「前日にボディサイズを採寸してドレスを縫い直せっていうのですか!? コレクションや舞台みたいに距離のある場所で着るドレスではないのですよ!? 近距離で見られるドレスであり、男性と密着して踊るドレスでもあるのです! 前日に慌てて縫う事など出来ません! 今から縫わなくては!」

「でしたら、サイズ調節出来る編み上げドレスにすれば良いでしょ!? 美しく見せる事が目的なのに、公女様が美しくなるのを阻むだなんて本末転倒だわ!」

「私達の作るドレスはプレタポルテ(既成服)じゃないのですよ!? 貴婦人の着るオートクチュール(完全仕立て服)なんです! 庶民や太ったオペラ歌手が着る編み上げドレスだなんて、公女様に着せられないわ!」

「ローブ・ア・ラ・フランセーズのように編み上げを背中部分にして、羽織りのローブで隠したら?」

「仮装する仮面舞踏会じゃないのよ!? 王家主催の公式的な舞踏会なの! 公女様に時代遅れの古典的なドレスを着ろっていうの!? それに、もう、仮縫いまで終わってるのよ!? 今からデザインを変更したら、間に合わないわ! 生地だって糸だって最高級品だし、材料の入手には時間がかかるの! 刺繍だってお針子の皆と頑張ったんだから!」

「こっちだって、私達ダイエットチームとシェイプアップチーム、マッサージチームで頑張ってるのよ! 召し上がる食事の栄養計算から、献立のスケジュール、食材だって手配してるの! 公女様の健康にも関わる事なんだからね! 大事なのは公女様自身が美しく健康でいられることでしょ!?」

 クリスチナは頭を抱えた。

 デザイナーチームが用意してくれたドレスは、アール・ヌーヴォースタイルのドレスで、柔らかいレース生地が体にピッタリしたデザインで作られている。一部の隙もない完璧なデザインであるが故に、編み上げ部分を取り付けてしまえばデザインのバランスは崩れてしまう。

 だが、殿下にワタクシ自身を美しいと思ってもらえなければ、この計画は意味をなさない。

 自分の経験や考えが足りなかった所為で、皆の努力が水の泡のように消えてしまう。それどころか、諍いが起きて、互いに憎しみ合う関係に...上に立つ者の責任は重大だと分かっていたのに、疲れていた事を理由に、努力を惜しんでしまった。こんな事になるなら、下手なお洒落をせずにいつものワタクシでいれば良かった? 

 反省しても、もう遅い。すでに問題は起きてしまっている。一体、どうすればいい!?

 頭がカッと熱くなって心臓がバクバクと音を立てている。

 クリスチナは目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。

 脳に酸素を送って考えるのだ!
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