【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

文字の大きさ
2 / 73

2

しおりを挟む
「ワタクシは1人の女である前に、殿下に仕える臣下でございます。殿下を正しい道に導くことこそがワタクシに課せられた使命でございます」

 世襲制で王子の地位にいる殿下と違って、ワタクシはワタクシの仕事をしなければ、むしろ婚約を破棄される正当な理由が出来てしまう。

「私は王子である前に人間だ! ずっと孤独だった...父上や母上は公務で忙しく、食事する時もいつも1人で...その癖、教育係が常に試験官の様に監視してきて、少しのミスも許されない! 学校のクラスメイト達は登下校で親が迎えに来るのに、私のところには召使いしか来ない! お祭りの日に家族で出かけて手を繋いで歩いたり、屋台でお菓子を買ったりしたこともないんだ!」

「それは...ワタクシも同じですが?」

 クリスチナも幼い頃から孤独に耐えて来たから、ヴィルヘルムの気持ちはよく分かっていた。

「お前はそれでもいいのかもしれないが私は違うんだ! もっと、自分らしく、人間らしく生きたい!」

「学校の送り迎えのお話は子供学校時代のお話でございますね? 殿下が幼き頃は家庭教師の方が王宮に通っておりましたし。この国では子供学校時代に親が送り迎えする世帯は僅(わず)か5%です。そうした家は、裕福で時間もある特別な家であるといっていいでしょう。その他の国民は大変貧しく、時間もないため、多くの親御さん達は自分で送り迎えすることが出来ません。それどころか、代理で送り迎えする人間も雇えません。そもそも、学校に通えないという貧しい家庭も存在しております。親がいない子供だっているのです。

お祭りでお菓子を買ってもらえる家庭も同様です。貧しい家庭は買えず、大貴族は毒殺の恐れがあるため屋台のお菓子は口に出来ません。

毎日の食事に関しても、庶民は朝食はパンをかじるだけ、もしくは朝食を取らない家庭が多く、家族で食事をしていない割合は半数を超えております。昼食も、親御さんは職場、子供は学校でお弁当を食べるため別。夜だけは家族と一緒に食事が出来るという場合が多いですが、殿下も夜は晩餐会などで王太子夫妻と食事されているので同じですよね? その他の臣下や外国の来賓客が一緒に食事されるので、むしろ、賑やか食卓と言えるでしょう。そして、食が豊かな分、民よりも恵まれていると思われます」

「いや! それは違う! 食が豊かでも、精神が貧しいのだ! 無関心な大人が大勢い過ぎるとかえって孤独が増すのだ。そんな生活が普通だと、恵まれていると、私もずっと思って生きてきた。だが、エミリアに出会って、そうじゃないんだと気が付いたんだ! エミリアは私に寄り添って一緒にいてくれる! 貧しくても一緒にご飯やお菓子を分けあって食べるという幸せを教えてくれたんだ!」

「この女性と食事を分けあった!? 毒見役の毒見は行ったのですか!?」

「エミリアが作ってくれたんだ! そんなものは必要ない!」

「その...エミリア嬢は、第一王子派の身元の確かな方なのですか? それともエミリア嬢自身が毒見役の資格をお持ちで?」

「エミリアはどの派閥にも属してはいない! 貴族ではなく平民だからな! 派閥は関係ない! もちろん、毒見役などではない!」

 ヴィルヘルムの言葉に、クリスチナは青くなった。悲鳴のような大きな声で叫ぶ。

「すぐに医者を呼んで! 殿下の健康の検査を!」

「必要ない!」

「必要です! 殿下! 平民の出身であるという事は、エミリア嬢は学校に特待生で入られた方ですね?」

「そうだ! エミリアは大変優秀で努力家なんだぞ!」

「でしたら、王家転覆、貴族没落を狙う革命派の工作員である可能性が考えられます。御身(おんみ)のために警戒して下さい!」

「何を馬鹿な事を言っているんだ! 私の健康状態は悪くなっていないし、エミリアが工作員なはずがない!」

「いいえ、毒は種類によって、ちょっとずつ長期間摂取することによって、効果を発揮するものもあるのです」

「変な言いがかりはやめて下さい! 私は毒なんて盛っていません! 私は殿下を愛しているのですから!」

 エミリアの突然の発言に、クリスチナは目を丸くした。
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

変人令息は悪女を憎む

くきの助
恋愛
「ブリジット=バールトン。あなたを愛する事はない。」 ああ、ようやく言えた。 目の前の彼女は14歳にしてこれが二度目の結婚。 こんなあどけない顔をしてとんでもない悪女なのだ。 私もそのことを知った時には腹も立ったものだが、こちらにも利がある結婚だと割り切ることにした。 「当初話した通り2年間の契約婚だ。離婚後は十分な慰謝料も払おう。ただ、白い結婚などと主張されてはこちらも面倒だ。一晩だけ付き合ってもらうよ。」 初夜だというのに腹立たしい気持ちだ。 私だって悪女と知る前は契約なんて結ぶ気はなかった。 政略といえど大事にしようと思っていたんだ。 なのになぜこんな事になったのか。 それは半年ほど前に遡る。

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

処理中です...