【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

3 (改訂)

「発言を許した覚えはありませんが、どうして話されているのですか？　エミリア嬢は平民だと伺いましたが違うのですか？　それに、愛しているならば、殿下の健康状態の確認をしても問題ないですよね？　殿下の口にする物に毒見を立て、食事を管理するのは殿下の健康と安全のためでございます。殿下のことを愛していらっしゃるのでしたら、殿下のお命を最優先に考えて下さい」

「私を疑うなんて酷い！　しかも、平民だといって見下して！」

　エミリアは、その豊満な胸をヴィルヘルムの腕に押し付けて、ヨヨヨと泣き出した。

「エミリア！　大丈夫だ！　泣かないで！　私が守る！」

「ヴィル...有難う」

　クリスチナは自身の耳たぶを揉んだり、耳元で指を弾いたりして、音の聞こえを確かめた。

　耳は問題なさそうだ。

「先程、殿下に対しての乱雑な言葉がエミリア嬢から聞こえたような気がするのですが、気のせいでしょうか？」

「タメ口は私が許可しているのだ」

「それは駄目です」

「平民だからといって差別するのか！？」

「区別と分別は必要です。君主たるもの人前で臣下にタメ口を許してはなりません。敬語というのは、堅苦しいだけの不必要な言葉ではありません。敬意を示す言葉であり、本当に尊敬する相手には当然、使うべき言葉であります。一方、タメ口は、親しい相手にも使いますが、敬意を抱かない相手に使う言葉でもあります」

「私はエミリアとは対等な関係でいたいのだ！」

「なりません！　高位の貴族にもタメ口を許していないのに、王子である殿下が平民であるエミリア嬢にタメ口を許したとなれば、大問題です！　他の貴族の方々は『王子から平民以下の扱いを受けた』と受け取るはずです」

「そんなことを言って、私とタメ口で話せるエミリアが羨ましいだけだろう？　お前や他の貴族にもタメ口を許せばいいのか！？」

「羨ましくはありますが、そういう問題ではありません。誰にでもタメ口を許したら、封建制度が崩壊してしまいます。殿下は改革を望まれるのですか？」

「誰もが差別されない平等な世界を望んでいるのだ」

「それではやはり、改革を望んでおられるのですね？　すべての貴族の権利を剥奪し、王権と財産を放棄し、民のために尽くすと？　自らも平民に帰(き)すと！？」

「そうじゃないが、そうなっても構わない」

「殿下、平民同士であっても、大会社の社長にタメ口で話すヒラ社員はおりません。仮に、すべての社員にタメ口を許可したとして、皆が対等な立場になれば、皆が自分に都合の良い意見を提案するようになり、結果的に統率が取れなくなります。そうして秩序は失われ、破綻します。

会社ならば、一つの会社が潰れて終わるだけかもしれませんが、国が滅べば数千万の民の幸福と命が失われます」