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第5.5膜 帰郷──遺された者達の子守唄編
百五十八射目「告げられる真実」
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「最初に伝えておいていいかフィリア、実は俺と和奈と直穂は、10日前にこの世界に召喚された召喚勇者なんだ」
個室で二人きりになった直後、行宗がとんでもないことを口にした。
「は、はぁ? なんだってっ!!?」
「し、しずかにっ……聞かれたら不味い」
オレは慌てて両手で口を塞いだ。
「俺と直穂はずっと、故郷に帰りたいって話してただろ? 俺達の故郷っているのは、この世界とは違う世界のことだ。
元の世界に帰る方法を探して色んな人を頼ったけれど、仲間と逸れて直穂と別れて、仲間の指名手配が出ていたり、散々な結果なんだ」
「……そうか、そういうことだったのか……」
今まで感じてきた違和感の全てに納得が言った。
行宗たちが基礎スキルを知らなかった事も、この世界の地理を知らなかったことも、強力な特殊スキルを持っていたことも、 召喚されたばかりの勇者だとすれば納得がいく。
「俺はクラスメイトみんなで、元の世界に帰ることを目指してる。……まだやれると信じている。だからフィリア、何か知っていることがあれば、俺に教えて欲しいんだ」
行宗は真剣な目つきだった。オレを信用して話してくれているのがよく分かる。
「……昨日。オレの父さんが話してくれたんだが……
オレの父さんも召喚勇者だっと言ってた。行宗たちと同じ、ネラー世界からこの世界に来てる。
……そして父さんは、この村に来るまで、マナ騎士団の一員として働いていたらしい」
「……は? え、今なんて言った……?」
「この世界に召喚されて、マナ騎士団に20年以上在籍していた父さんでさえも、ネラー世界に帰る方法は分からいと言っていた。
オレ自身もネラー世界に行く方法なんて聞いたことがねぇ」
「………な、えっ? 待て待て……頭のなかを整理させてくれ……」
行宗はひどく混乱した様子で頭をかきむしっていた。
「……時間は十分あるんだ。オレの知っていることは全部話すから、行宗の話も聞かせてくれ」
……そうしてオレと行宗は、腹を割って話し合った。
行宗達がこの世界に来てからの物語は、驚くほど濃密であった。
「なぁ、行宗、ネラー世界って一体どんな感じなんだ?」
「……俺達の世界、ネラー世界には、魔法なんて存在しない。
かわりに高度な科学がある。
誰でも空が飛べる乗り物があったり、遠くにいる人と話せたり、動いて見える絵本があったり。……俺達の世界ではそれをアニメっていうんだが、絵が本物みたいに動いて、物語の世界をまるで現実世界みたいに見ることができるんだ」
行宗が、遠くを懐かしむようにそう言った。
「そうか……俺もネラー世界の絵本が大好きだから、いつか読んでみたいな!
だけど、アニメって言葉だけなら聞いたことがあるぜ。
……アキバハラ王国にそういうものがあるって、聞いたことがある気がする……」
「え……? この世界にもアニメがあるのか!」
行宗はぱぁっと目を輝かせて、オレの方に身を乗り出してきた。
「……オレは行ったことはないけど、アキバハラ公国の魔法技術は世界一だ。
この書斎の本もほとんどがアキバハラ公国出版だからな」
そう言って俺は、暗い書斎を見渡した。
「そうだ行宗、この国の歴史を知りたいんだろ? ならおすすめの本があるよ」
オレは立ち上がり、本棚から古いシリーズを探し出した。
「……「漫画でよく分かる五大英雄伝」って、え? この世界には漫画まであるのか!?」
「あぁ。この世界に白菊ともか様が降臨した1700年前、ネラー世界から大量の勇者が召喚されたから、その人達がこの世界に、行宗たち世界の言語や文化を持ち込んだんだと思う」
「……白菊ともかが、この世界に降臨した……!?
まさか、ともかちゃんも昔に……この世界に召喚されていたってことなのかっ!?」
「ともかちゃん!? ななっ、なんて口を聞いてるんだっ!
白菊ともか様は悪神タナトスを打ち倒し、この世界を滅亡の危機から救ってくれた女神様なんだぞ!?
この世界では、どんな人間も獣族も、女神様にだけは最大の敬意を払っているんだ」
白菊ともか様は1700年前、大量の勇者を引き連れてこの世界に降り立った女神様である。森羅万象の創造主であり唯一神。
劣勢に追い込まれていた人間に力を貸して、悪神タナトスを討ち滅ぼした。
ともか様がいなければ、この世界はとっくの昔に滅びてしまっていたはずなのだ。
「この世界の”白菊ともか様”は、俺の知っているVtuber”白菊ともか”と同一人物なのか……?」
行宗がブツブツと呟いた。
「ぶいちゅーばー? さぁ、オレにはよく分からないけど、この世界の白菊ともか様のことは、その本にほとんど載ってるはずだ」
「そうか……ありがとうフィリア、すぐにでも読んでみるよ」
行宗は全五巻のそれを大切に胸に抱え込んだ。
「なぁ行宗、お前はこれからどうするつもりだ?」
「……言ったとおりだ。まずは和奈の回復を待ちながら、この世界について勉強してみることにするよ。
その後は、そうだな……
今のところは、アキバハラ公国に向かってみるつもりだ」
「……そうか、ならあとしばらく、よろしくな」
「あぁ、よろしくフィリア」
オレたちははそう言って、そろそろ頃合いとばかりに互いに立ち上がった。
「……フィリア、今日は疲れただろ? ゆっくり休むんだぞ」
「……行宗こそ、昨日は徹夜したんだってな、隈がすごいことになってるぞ」
「まあ、な」
「おやすみ」
「おやすみ」
オレは書斎の前の廊下で行宗と別れた。
行宗は階段の方へと向かった、浅尾さんの病室へと行くのだろう。
さて、オレも自分の部屋で寝ようかな?
『……フィリア姉、もうお話は終わったの?』
「わっ!」
背後からマナトの声が聞こえて、オレは素っ頓狂な声を上げた。
『う……びっくりさせんなよ……』
『ごめん……驚かするつもりは無かったんだ……』
マナㇳはシュンと声色を落とした。
薄暗い廊下で所なさげに、廊下の壁に背中を預けていた。
ずっとオレが出てくるのを待っていたのだろうか?
『マナト、今日はオレと一緒に寝るか?』
『……うん』
オレが訊くと、マナトはホッとしたような顔で頷いた。
可愛いな、とオレは思う。
男の子に可愛いだなんて感想は、大抵の場合は怒らせちゃうと思うけど。
まぁ逆に女であるはずのこのオレは、可愛いさなんて欠片もないがな。
オレとマナトは手を繋いで寝室へ向かった。
オレにはまだこの村に、お母さんやジルクや近所の方といった友達がいるけれど、マナトには誰も身寄りがいないのだ。
マナトの心の支えになれるのは、今はオレしかいないから、
ニーナやヨウコに怒られないように、お姉ちゃんを引き受けたからには責任を持って、マナトの面倒を見ようと思った。
それにオレ自身、マナトの存在が心の支えだった。
オレよりもずっと悲惨な目に遭った男の子が、まだ生きようと前を向いているのだから、
オレもしっかりしなくちゃいけない。
マナトの姿を見るだけで、オレのなかに生きる気力と責任感が溢れてきていた。
個室で二人きりになった直後、行宗がとんでもないことを口にした。
「は、はぁ? なんだってっ!!?」
「し、しずかにっ……聞かれたら不味い」
オレは慌てて両手で口を塞いだ。
「俺と直穂はずっと、故郷に帰りたいって話してただろ? 俺達の故郷っているのは、この世界とは違う世界のことだ。
元の世界に帰る方法を探して色んな人を頼ったけれど、仲間と逸れて直穂と別れて、仲間の指名手配が出ていたり、散々な結果なんだ」
「……そうか、そういうことだったのか……」
今まで感じてきた違和感の全てに納得が言った。
行宗たちが基礎スキルを知らなかった事も、この世界の地理を知らなかったことも、強力な特殊スキルを持っていたことも、 召喚されたばかりの勇者だとすれば納得がいく。
「俺はクラスメイトみんなで、元の世界に帰ることを目指してる。……まだやれると信じている。だからフィリア、何か知っていることがあれば、俺に教えて欲しいんだ」
行宗は真剣な目つきだった。オレを信用して話してくれているのがよく分かる。
「……昨日。オレの父さんが話してくれたんだが……
オレの父さんも召喚勇者だっと言ってた。行宗たちと同じ、ネラー世界からこの世界に来てる。
……そして父さんは、この村に来るまで、マナ騎士団の一員として働いていたらしい」
「……は? え、今なんて言った……?」
「この世界に召喚されて、マナ騎士団に20年以上在籍していた父さんでさえも、ネラー世界に帰る方法は分からいと言っていた。
オレ自身もネラー世界に行く方法なんて聞いたことがねぇ」
「………な、えっ? 待て待て……頭のなかを整理させてくれ……」
行宗はひどく混乱した様子で頭をかきむしっていた。
「……時間は十分あるんだ。オレの知っていることは全部話すから、行宗の話も聞かせてくれ」
……そうしてオレと行宗は、腹を割って話し合った。
行宗達がこの世界に来てからの物語は、驚くほど濃密であった。
「なぁ、行宗、ネラー世界って一体どんな感じなんだ?」
「……俺達の世界、ネラー世界には、魔法なんて存在しない。
かわりに高度な科学がある。
誰でも空が飛べる乗り物があったり、遠くにいる人と話せたり、動いて見える絵本があったり。……俺達の世界ではそれをアニメっていうんだが、絵が本物みたいに動いて、物語の世界をまるで現実世界みたいに見ることができるんだ」
行宗が、遠くを懐かしむようにそう言った。
「そうか……俺もネラー世界の絵本が大好きだから、いつか読んでみたいな!
だけど、アニメって言葉だけなら聞いたことがあるぜ。
……アキバハラ王国にそういうものがあるって、聞いたことがある気がする……」
「え……? この世界にもアニメがあるのか!」
行宗はぱぁっと目を輝かせて、オレの方に身を乗り出してきた。
「……オレは行ったことはないけど、アキバハラ公国の魔法技術は世界一だ。
この書斎の本もほとんどがアキバハラ公国出版だからな」
そう言って俺は、暗い書斎を見渡した。
「そうだ行宗、この国の歴史を知りたいんだろ? ならおすすめの本があるよ」
オレは立ち上がり、本棚から古いシリーズを探し出した。
「……「漫画でよく分かる五大英雄伝」って、え? この世界には漫画まであるのか!?」
「あぁ。この世界に白菊ともか様が降臨した1700年前、ネラー世界から大量の勇者が召喚されたから、その人達がこの世界に、行宗たち世界の言語や文化を持ち込んだんだと思う」
「……白菊ともかが、この世界に降臨した……!?
まさか、ともかちゃんも昔に……この世界に召喚されていたってことなのかっ!?」
「ともかちゃん!? ななっ、なんて口を聞いてるんだっ!
白菊ともか様は悪神タナトスを打ち倒し、この世界を滅亡の危機から救ってくれた女神様なんだぞ!?
この世界では、どんな人間も獣族も、女神様にだけは最大の敬意を払っているんだ」
白菊ともか様は1700年前、大量の勇者を引き連れてこの世界に降り立った女神様である。森羅万象の創造主であり唯一神。
劣勢に追い込まれていた人間に力を貸して、悪神タナトスを討ち滅ぼした。
ともか様がいなければ、この世界はとっくの昔に滅びてしまっていたはずなのだ。
「この世界の”白菊ともか様”は、俺の知っているVtuber”白菊ともか”と同一人物なのか……?」
行宗がブツブツと呟いた。
「ぶいちゅーばー? さぁ、オレにはよく分からないけど、この世界の白菊ともか様のことは、その本にほとんど載ってるはずだ」
「そうか……ありがとうフィリア、すぐにでも読んでみるよ」
行宗は全五巻のそれを大切に胸に抱え込んだ。
「なぁ行宗、お前はこれからどうするつもりだ?」
「……言ったとおりだ。まずは和奈の回復を待ちながら、この世界について勉強してみることにするよ。
その後は、そうだな……
今のところは、アキバハラ公国に向かってみるつもりだ」
「……そうか、ならあとしばらく、よろしくな」
「あぁ、よろしくフィリア」
オレたちははそう言って、そろそろ頃合いとばかりに互いに立ち上がった。
「……フィリア、今日は疲れただろ? ゆっくり休むんだぞ」
「……行宗こそ、昨日は徹夜したんだってな、隈がすごいことになってるぞ」
「まあ、な」
「おやすみ」
「おやすみ」
オレは書斎の前の廊下で行宗と別れた。
行宗は階段の方へと向かった、浅尾さんの病室へと行くのだろう。
さて、オレも自分の部屋で寝ようかな?
『……フィリア姉、もうお話は終わったの?』
「わっ!」
背後からマナトの声が聞こえて、オレは素っ頓狂な声を上げた。
『う……びっくりさせんなよ……』
『ごめん……驚かするつもりは無かったんだ……』
マナㇳはシュンと声色を落とした。
薄暗い廊下で所なさげに、廊下の壁に背中を預けていた。
ずっとオレが出てくるのを待っていたのだろうか?
『マナト、今日はオレと一緒に寝るか?』
『……うん』
オレが訊くと、マナトはホッとしたような顔で頷いた。
可愛いな、とオレは思う。
男の子に可愛いだなんて感想は、大抵の場合は怒らせちゃうと思うけど。
まぁ逆に女であるはずのこのオレは、可愛いさなんて欠片もないがな。
オレとマナトは手を繋いで寝室へ向かった。
オレにはまだこの村に、お母さんやジルクや近所の方といった友達がいるけれど、マナトには誰も身寄りがいないのだ。
マナトの心の支えになれるのは、今はオレしかいないから、
ニーナやヨウコに怒られないように、お姉ちゃんを引き受けたからには責任を持って、マナトの面倒を見ようと思った。
それにオレ自身、マナトの存在が心の支えだった。
オレよりもずっと悲惨な目に遭った男の子が、まだ生きようと前を向いているのだから、
オレもしっかりしなくちゃいけない。
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