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第四膜 ダンジョン雪山ダブルデート編

九十三射目「フィリア先生の魔法授業」

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 ザザ…ザザ…ザザ…と、
 生い茂った草をかき分けて、夕日の下を歩いていく。
 フィリアさんの、魔法の授業がはじまった。

「じゃあまず聞くぜ? お前らは【スキル】と【魔法】の違いを知っているか?」

 そんなフィリアの問いかけに対して、真っ先に口を開いたのは、俺でも直穂なおほでもなく……

「え?? 魔法とスキルって、同じじゃないのか?」

 誠也せいやさんであった。

「まあ、さし示す現象は同じだな。だけど、言葉の意味が違う」

 誠也せいやさんの回答を受けて、フィリアが言葉を繋げていく。

「大昔、1800年前この世界に、はじまりのダンジョンが現れた頃。
 突如として出現した「人知を超えた摩訶不思議なエネルギー」に、人々はこう名付けた。
 【魔法】ってな。
 はじまりのダンジョンは別名。魔法の大ダンジョンと呼ばれている」

 フィリアさんの教科書のような説明に、誠也せいやさんは目を丸くしていた。

「そうだったのか??」

「あぁ、つまり【魔法】ってのは、当時の人々には説明できない。意味不明なエネルギーだったんだ」

 俺には、話の内容がよく分からなかった。
 つまりこの世界には、魔法が無かった時期があるということか?


 そんな中で俺は、
 とんでもない事を思いついていた。

 もしかして……

 【もしかして、この世界は、俺達のいた現実世界の先、未来の世界なんじゃないか?】
 
 なんてブッ飛んだ思いつきを、真剣に考えてしまう。

 だって、日本語が存在していて、文字までまったく同じなのだ。
 それに、決定的な証拠もある。
 「白菊ともか」という、この世界を創造した女神様の名前。
 それは、俺が現実世界で大好きなVtuber「白菊ともか」と、名前が一致しているのだ。
 
 俺達の世界と、この世界の共通点は多い。
 決定的な違いは、魔法があるかないかだが。
 フィリアは、この世界に、昔は魔法がなかったというのだ。
 この世界が、俺達の世界の未来の姿だとしても、辻褄は合う。

 
「だが人々は、未知の魔法を研究して、その正体を解明した。
 ほとんどの魔法は、四つの【基礎スキル】、【火素フレイム】【水素アクア】【土素アース】【風素ウィンド】の四つの組み合わせで出来ていると分かったんだ。
 正体が解明した以上、それはもう、未知な【魔法】ではない。
 理論に従う既知のエネルギー、【スキル】と呼ばれるようになったんだ」
  
「なんだと?? じゃあ現代の正しい呼び方は、【魔法】ではなく【スキル】なのか?」

 誠也せいやさんが、面白いぐらいに突っ込んでくれる。
 二人の会話が気になって、俺も深い思考から現実に引き戻された。

「厳密にはそうだけど、実際には、どっちの呼び方も使われてるよな。
 それで、話の続きだ。
 まずは、魔法の最小単位となる4つの【基礎スキル】。
 そして、それらを組み合わせた多種多様なスキルを【応用スキル】という。
 しかし知っての通り、例外・・も存在する。
 【基礎スキル】の組み合わせでは、再現不可能なスキルも存在するんだ」

 フィリアの話に、俺は思わず口を挟んだ。

「【特殊スキル】だよな?」

「そうだ。俺の父さんの【透視クリアアイ】や、お前たちの【自慰マスター〇ーション】みたいなスキルだ」

「【透視クリアアイ】って、透視のことだっけ?」

「あぁ、オレの父さんは一目見ただけで、患者の体内の状態まで全て見えるんだ」 

 なるほどな、医者にはもってこいのスキルだ。
 確か、竹田慎吾たけだしんごが持っていたスキルも、【透視クリアアイ】だったよな。
 俺の隣の席の優しいイケメン。 ボス戦で俺を蹴りつけて、仲直りをした友達だ。
 彼は、生きているのだろうか??

「そしてお前らには、【基礎スキル】を四種、すべて覚えてもらう
 まずは安全な【水素アクア】から教えるが、いったん足を止めてもいいか?」

「おう」

 俺達は、足を止めてフィリアに注目した。

「そうだな……直穂なおほ、ちょっと手を出してみろ」

「う、うん……」

 直穂なおほが不安そうに差し出した手のひらを、フィリアは手の甲のほうから掴んだ。
 
「いいか? スキルとは、大気中に含まれているダークエネルギーとか魔素って呼ばれる見えない物質を、体内の受容体に取り込んで、
 目に見えるエネルギーに変換して、放出するという現象だ」

 同じ説明を、どこかで聞いた覚えがあった。
 あれはたしか、洞窟のなか。
 リリィさんの口から、魔法の仕組みを教えてもらった時だっけ。

「最初はオレが、直穂なおほの手の中で、魔力の流れを作り出すから、
 直穂なおほは深呼吸して力を抜いて、手の間隔に意識を向けて……」

 フィリアの言葉を受けて、直穂なおほは目を瞑って深く息をする。

「そ、そんな事できるのか? 人の体内で魔力操作なんて、ふつう中で暴発してしまうぞ!?」
 
「オレは医者だからな。患者の体内で魔法を使えないと、やってけねぇよ」 

「す、すげぇな医者って……」

 誠也せいやさんが驚愕の声をあげた。
 フィリアさんがしようとしている事が、どれほど凄いことなのか分からないが。
 誠也せいやさんにとっては、不可能と思うほど難しいらしい。

「じゃあいくぞ……【水素アクア】……」

 フィリアが静かに詠唱をした。
 ザザザザ……と、風が木々を揺らしていた。

 バシャッ!!

 と水音がして、
 直穂なおほの手のひらの先で、水飛沫が生成された。
 直穂なおほの手から出た水は、そのまま空中で弾けて、地面へと自由落下した。
 マジか、できた。

「うわっ!?」

「ふふっ、どうだ直穂なおほ? 感覚が分かったか?」

「うん、なんとなく、もう出来そうな気がする」

 フィリアに対して、直穂なおほは、納得したような笑顔で頷いた。
 俺は思わず突っ込んだ。

「いや、これだけで出来るようになったのか?」

行宗ゆきむねも経験すれば分かるよ。天使になるときと感覚は似てるから」

「そうなのか」

 俺も早く経験したいな。
  
「ねぇフィリアちゃん、次は自分で試してみていいかな?」

「いいぜ、まあ最初は上手くいかねぇと思うけど、オレが教えていけばすぐ出来るようになるさ」

「よしっ! やってみる!」

 直穂なおほは、心底興奮した様子頬っぺたを赤くして、
 手のひらを夕日に向けてかざした。
 そして、大きく息を吸い。
 両足をぐっと踏ん張って、集中するように目を閉じると、
 魔法の言葉を言い放つ。

「【水素アクア】っ!!」



 その叫び声に、誠也せいやさんの

「おいフィリア、これはマズイんじゃないか?」

 という声が重なる。




 ドゴォォォォォォォォ!!!!!

 轟音と共に、俺に水飛沫が降り注いだ。
 目の前が真っ白になるほどの、巨大な水飛沫!!
 オレは一瞬のうちにびしょ濡れになった。

「うわぁぁぁっ!!」
「うえぇぇえっ!!!」

 フィリアと直穂なおほの、絶叫が、とてつもない水の轟音にかき消されていく。

 バギバギギギ………
 と、夕日の先で、木々が折れる音がする。
 
 ドッバァァァ………

 魔法は一瞬で終わった。
 空気をふわふわと漂う霧が、夕日にあたられてオレンジ色に輝いていた。
 あたりはお風呂場のようにびしょびしょで、大きな木が4、5本倒れていた。
 後ろを振り返ると、小さな虹の輪の中で、フィリアと直穂なおほが尻もちをついて倒れていた。

「この威力は、とんでもないな……」

 誠也せいやさんが、愕然として、直穂なおほを見つめていた。
 
直穂なおほお前……   本当に、はじめてなのか?」

 フィリアも、ドン引きという顔で直穂なおほを見ていた。

 直穂なおほの水魔法の威力は凄まじくて、夕日の方向10メートル先まで、草花が吹き飛ばされて木々が倒れていた。




「すっ、すっごっ!! ねぇ行宗ゆきむね見てた!? 私、水魔法が使えたよっ!!」

 当の直穂なおほは、自分の手のひら、そして俺を見つめて、
 子供みたいに無邪気に喜んでいた。
 あぁ、懐かしいな。
 俺は2年前、新崎にいざきさんと学級委員で一緒になって、
 クールな新崎にいざきさんが時折見せる、こういう可愛い顔に惚れたんだ。

「ああ、すげえな。でもこの威力じゃ、お尻はタダじゃ済まないな」

「え……?」

 直穂なおほは、俺の台詞の意味が、すぐには分からなかったようだ。
 キョトンとした顔で、真顔のまま動きを止めた。
 そして、ギョッと目を開くと、拳をわなわなと震わせながら立ち上がり。
 俺の方に歩いてきた。

「さっきのトイレの事は、忘れてって、言ったよね?」

「冗談、冗談ですって……」

 直穂なおほが顔を真っ赤にして、俺をギロリと睨みながら、詰め寄ってきた。
 
「あの倒れた木と、同じ目に合わせてあげようか?」

「し、死んじゃうよぉ……」

 直穂なおほは、水しぶきで濡れた手のひらを、俺の顔の方向へと向けてきた。

「なんてね」

 直穂なおほはふっと笑って、手のひらの向きをずらした。

 ピュルルッ!!

 と音を立てて、
 直穂なおほの手のひらから、ジョウロみたいに弱々しく、水が流れ出た。
  
「よしっ、威力も調整もできたっ!」

 直穂なおほはガッツポーズをして、夕日に笑顔を照らされながら、 得意げに俺の方を見つめてきた。
 
「天才かよ」
「マジか」

 と、フィリアと誠也せいやさんが口を揃える。
 どうやら直穂なおほは、この数分で水魔法を身につけてしまったらしい。
 直穂なおほが何か言って欲しそうに、俺の顔をのぞいてくる。
 俺は、何を言おうかと考えて……

「良かったな直穂なおほ、もうトイレに困る事はない……」

 

 ブシャァ!!

 言い終わる前に、
 直穂なおほは無言で、俺の顔面に、手加減された水魔法をブッ放ってきた。
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