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第12話 寂しがりやにハグ

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 三人で食事している内に内容はメルテンの家族の話にシフトし、レイとエディの結婚に関する話はそれきりだった。
 危うい方向に行きそうだったから助かった。レイは内心安堵しながら図書館への帰り道を進む。
 メルテンはこれから王宮の兵舎へ戻り訓練があるらしく、二人を残して先に帰ってしまった。
 ならば自分も、と思いレイがエディを見上げると、エディは微笑んだままレイを見下ろしていた。

「なんだよ」
「いや、別に。良かったなって思って」
「何が?」

 一体何が良かったのかがわからない。食事中の会話のどこで良かったと思ったのだろう。
 よくわからない奴のことは放っておこう。自分はこれから仕事に戻るのだ。

「じゃあ図書館戻るわ。またな」
「待って、送るよ」
「いや、すぐそこだからいいって」
「いいから、送らせて。もう少しだけ話もしたいんだ」

 話なら食事の席でもできたのに、こうして二人になってからということは何かあるんだろうか。レイは首を傾げながらも了承し、図書館までの道を二人で歩く。
 学生の頃はよくこうして並んで歩いていた。下を見れば、あの時と同じようにエディは長い脚をゆっくりと動かしてレイの歩幅に合わせてくれている。
 卒業したらこの縁は切れてしまうかもしれないと思っていた。事実、エディから手紙が届かなくなった時点で親友から知り合いまで格下げになってしまったのかと思っていたのだ。
 だが、エディは今でもレイの親友として隣を歩いてくれている。
 嬉しいけれど、どこかこそばゆい。

「──だから、来週とかどうかなって」

 過去を思い出し物思いに耽っている間にエディが何事かを聞いてきていたらしい。全く聞いていなかったレイは慌ててエディを見上げる。

「ごめん、なんて?」
「また人の話聞いてなかった? 大司教様直々の命令で、来月からふた月くらい隣国の神殿に行くことになったんだ。だからその前に改めて二人で食事でもしたいなって思ってさ。レイの休みにもよるけど、来週とかはどう?」
「あー、多分空いてる。図書館の閉館日には俺も休みらしいから、その日ならいける」
「じゃあその日は朝に寮まで迎えに行くよ」

 本当は見合いをどうだと打診されていたけれど、望みが薄い未来の花嫁候補よりも二ヶ月会えなくなる親友の方が優先だ。
 後で断りの連絡を入れておこう。レイはそう決め、ふと気付いた。

「え、二ヶ月も隣国に何しに行くんだ?」
「それがさっぱり。着いてから聞かされるらしいけれど、くだらないことなら帰っちゃおうかな」
「こら、大司教様の命令なんて下っ端が無視できるわけないだろ」
「まあそうなんだけど」

 エディはあまり乗り気ではないらしい。それはそうか、異国の地で二ヶ月も暮らすなんて、レイだったら絶対に無理だ。誰から言われても断っていた。……断れるのなら。
 でも、そうか。二ヶ月もエディがいないのか。
 手紙を受け取れず音信不通になっていた期間はそれより長いけれど、一応は近くにいるとわかっていたから特に何かを思うことはなかった。少しだけ寂しいとは思ったけれど、お互いに仕事に忙しいのだから仕方ないと思っていた。
 けれど、今はまたこうして会うことができるからこそ寂しさが募る。

「お前、隣国行って俺のこと忘れんなよ?」
「忘れないよ。毎日でも手紙を送るから」
「それは鬱陶しいからいい、俺も返せないし」

 流石に毎日なんて送られても返す余裕がない。
 だからと拒否すればエディは本当に残念そうだ。まさか本当に毎日書くつもりだったのか。
 レイはその馬鹿正直さに笑ってしまい、エディの腕を叩いた。

「なんだよ、お前本当に寂しがりやだなぁ」
「寂しいから行きたくないし、レイと離れたくない」
「はいはい。俺も寂しいよ親友」

 学生は卒業してもまだまだ子供の時と変わらないエディの様子に、レイはその前に立ち大きく手を広げて見せる。

「ほら、ハグしてやるよ寂しんぼ」
「……そ、それは、遠慮しておこうかな」
「なんだよ、照れんなよ」

 愛しているなんて冗談まで言っておいて、ハグくらいで何を恥ずかしがることがあるのか。
 レイはぎゅうとエディを抱き締め、ぽんぽんと背中を叩いた。

「来週もハグしてやろうか?」
「もう、本当にやめて……」

 また耳まで真っ赤に染まっている。こいつの羞恥のポイントがいまいちよくわからないが、見ていると面白くてしょうがない。
 周囲の通行人達は二人を微笑ましげに眺めている。見られているのが恥ずかしいのか? 寧ろ二人きりの時に改めて抱き合う方が自分は恥ずかしく思ってしまうが。
 レイはけらけらと笑いながらエディを離し、仕事に戻るかと図書館へ足を向けた。

「んじゃ、俺もう戻るわ。また来週な」
「……うん、また」

 ああなると長いというのは以前の謁見の時に学んだ。顔を赤くした色男を放置なんてすればどんな悪女が近付くかわかったもんじゃないが、エディならなんとかするだろう。
 レイは手を振り、エディに背を向けそこで別れた。

「人の気も知らないで……」

 背後でそう呟きながら、真っ直ぐに熱の篭った視線でエディが見つめ続けているとも知らないで。
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