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彼女が出ていくその前は
侯爵は嘘を一つ、つきました
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今日は、明日行われる隣国との戦争に勝利した事を祝う祝勝会に参加するために、久しぶりとなる王都の我が家を訪れている。
私はエルバード侯爵家の当主だ。私には二人の妻と息子が4人と娘が一人いる。
先代当主である父親が亡くなった事をきっかけに嫡男であるディランに王都の屋敷を譲った。私は領地に移り、家督を継いだ。以降、正式な行事でもなければ領地に引っ込んでいたから、私が王都に来たのは、3年前この戦争に息子たちを送り出した出陣式の時以来だ。
心にあるのは安堵だった。やむを得ない事情が無い限り、貴族の子息は戦争に従事するを免れない。やむを得ない事情…病や怪我でも戦役免除となるが、それは騎士の恥だった。正式な手段では、爵位を継いだ者だけが戦役免除を受ける。私は成人して初めて、安全な場で戦争の行方を見守った。そして、息子を一人も欠くことなく、祝勝会を迎えらる。
娘と第2夫人は領地に置いてきた。正妻一人しか公の行事には伴なえないからだ。
私は屋敷に到着すると、義娘であるユカリナに出迎えられた。ディランはどこにいるのかと問うと、別邸にいると寂しげな顔で告げられる。ディランは最近結婚した第2夫人と別邸で多くの時間を過ごしていると言う。手紙はもらったが、結婚式には参加していない。第2夫人以降との結婚式は当事者の二人だけで行うのが一般的だからだ。
「ディラン」
別邸に向かっていると、ちょうどディランが出てくるところに出くわした。
「父上!早いご到着でしたね!お出迎えできずに申し訳ありません」
「いや少し早く着いてしまったんだ。問題ない。して、隣の女性を紹介してくれるんだろう?」
「はい。シェリーこちらへ」
ディランの後ろに隠れるようにしていた女性は、ディランの隣に立つ。
「はじめまして。シェリーです。ロワイル子爵家の三女でした。お会いできて光栄です」
「はじめましてお嬢さん。これから、第2夫人としてディランを支えてやってくれ。早々で悪いがディランと二人で話をしたいんだ。すまないが、少しの間だけ邸の中で待っていてはくれないか」
第2夫人と強調したところ、彼女の表情は一瞬くもった。しかし、すぐに人懐こい笑顔に戻る。
「分かりました。久しぶりの対面でございましょう、ごゆっくりどうぞ。私は、エルバート侯爵夫人にご挨拶してまいります」
妻は、ユカリナと語らっている事だろう。本来同じ屋敷で生活するはずの第2夫人が、別邸で暮らしているなど、仲良くは出来ていない証明だ。
「その必要はないさ。妻は長旅で疲れていてね。休んでいるだろうからそっとしておいてくれ」
呈よく追い払う。
「はい。分かりました。じゃディラン後でね」
シェリーは別邸に戻っていく。余程愛しく思っているのだろう。息子は彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
「ディラン。彼女を大切にしたい気持ちは分からなくはない」
政略結婚だった。
「それは構わないが、お前の正妻はユカリナだ」
お前と同じだ。
「貴族において」
私にだって思い人はいた。
「優先させるべきは正妻だ」
彼女は私の弟と結婚した。
「彼女は第2夫人の心構えが出来ていないようだ」
弟は戦争で亡くなった。
「正妻を立てられない第2夫人はやっかいだ」
第2夫人に迎えようとしたが、弟をまだ愛しているからと断られた。
「お前が教育するしかない」
そして、自ら命を絶った。
「妻の手綱はきちんと握っておけ」
妻は気が付いていたのだろう。
「夫人同士の争いなど」
表面上は仲良くしている第2夫人と
「よくある話だが」
結託して私を責める。
「醜聞でしかない」
私は守りたいんだよ。家を…妻たちを…君たちを…私にはもうそれしかないのだから。
みんなを平等に愛しているなんて、自分をごまかしながら表面を取り繕って。
だから私は君に嘘を付く
「別邸に入り浸るのはやめなさい。貴族の義務を忘れるな。余計な混乱を招かぬよう、最初の子はユカリナとの間に儲けろ。愛など一時の感情だ。変にとらわれるな」
ここまで注意したのだからだ大丈夫だろうと思っていたのに、先に会場入りしていた私たちが目にしたのは戸惑った顔の呼び入れ役の声に導かれたディランとその妻だった。
「エルバート侯爵子息ディラン様。…第2夫人シェリー…様。ご入場」
あのバカが!
そう思う一方で、羨ましくも思う。貴族としてあり得ない行動をとってまで愛を貫く姿勢に…
なぜなら私はまだ、彼女を忘れられないでいる。
****************************
作者は風邪をひきました。あと4話ほどストックがあるのですが、6/5以降の更新は少し遅れるかもしれません。
私はエルバード侯爵家の当主だ。私には二人の妻と息子が4人と娘が一人いる。
先代当主である父親が亡くなった事をきっかけに嫡男であるディランに王都の屋敷を譲った。私は領地に移り、家督を継いだ。以降、正式な行事でもなければ領地に引っ込んでいたから、私が王都に来たのは、3年前この戦争に息子たちを送り出した出陣式の時以来だ。
心にあるのは安堵だった。やむを得ない事情が無い限り、貴族の子息は戦争に従事するを免れない。やむを得ない事情…病や怪我でも戦役免除となるが、それは騎士の恥だった。正式な手段では、爵位を継いだ者だけが戦役免除を受ける。私は成人して初めて、安全な場で戦争の行方を見守った。そして、息子を一人も欠くことなく、祝勝会を迎えらる。
娘と第2夫人は領地に置いてきた。正妻一人しか公の行事には伴なえないからだ。
私は屋敷に到着すると、義娘であるユカリナに出迎えられた。ディランはどこにいるのかと問うと、別邸にいると寂しげな顔で告げられる。ディランは最近結婚した第2夫人と別邸で多くの時間を過ごしていると言う。手紙はもらったが、結婚式には参加していない。第2夫人以降との結婚式は当事者の二人だけで行うのが一般的だからだ。
「ディラン」
別邸に向かっていると、ちょうどディランが出てくるところに出くわした。
「父上!早いご到着でしたね!お出迎えできずに申し訳ありません」
「いや少し早く着いてしまったんだ。問題ない。して、隣の女性を紹介してくれるんだろう?」
「はい。シェリーこちらへ」
ディランの後ろに隠れるようにしていた女性は、ディランの隣に立つ。
「はじめまして。シェリーです。ロワイル子爵家の三女でした。お会いできて光栄です」
「はじめましてお嬢さん。これから、第2夫人としてディランを支えてやってくれ。早々で悪いがディランと二人で話をしたいんだ。すまないが、少しの間だけ邸の中で待っていてはくれないか」
第2夫人と強調したところ、彼女の表情は一瞬くもった。しかし、すぐに人懐こい笑顔に戻る。
「分かりました。久しぶりの対面でございましょう、ごゆっくりどうぞ。私は、エルバート侯爵夫人にご挨拶してまいります」
妻は、ユカリナと語らっている事だろう。本来同じ屋敷で生活するはずの第2夫人が、別邸で暮らしているなど、仲良くは出来ていない証明だ。
「その必要はないさ。妻は長旅で疲れていてね。休んでいるだろうからそっとしておいてくれ」
呈よく追い払う。
「はい。分かりました。じゃディラン後でね」
シェリーは別邸に戻っていく。余程愛しく思っているのだろう。息子は彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
「ディラン。彼女を大切にしたい気持ちは分からなくはない」
政略結婚だった。
「それは構わないが、お前の正妻はユカリナだ」
お前と同じだ。
「貴族において」
私にだって思い人はいた。
「優先させるべきは正妻だ」
彼女は私の弟と結婚した。
「彼女は第2夫人の心構えが出来ていないようだ」
弟は戦争で亡くなった。
「正妻を立てられない第2夫人はやっかいだ」
第2夫人に迎えようとしたが、弟をまだ愛しているからと断られた。
「お前が教育するしかない」
そして、自ら命を絶った。
「妻の手綱はきちんと握っておけ」
妻は気が付いていたのだろう。
「夫人同士の争いなど」
表面上は仲良くしている第2夫人と
「よくある話だが」
結託して私を責める。
「醜聞でしかない」
私は守りたいんだよ。家を…妻たちを…君たちを…私にはもうそれしかないのだから。
みんなを平等に愛しているなんて、自分をごまかしながら表面を取り繕って。
だから私は君に嘘を付く
「別邸に入り浸るのはやめなさい。貴族の義務を忘れるな。余計な混乱を招かぬよう、最初の子はユカリナとの間に儲けろ。愛など一時の感情だ。変にとらわれるな」
ここまで注意したのだからだ大丈夫だろうと思っていたのに、先に会場入りしていた私たちが目にしたのは戸惑った顔の呼び入れ役の声に導かれたディランとその妻だった。
「エルバート侯爵子息ディラン様。…第2夫人シェリー…様。ご入場」
あのバカが!
そう思う一方で、羨ましくも思う。貴族としてあり得ない行動をとってまで愛を貫く姿勢に…
なぜなら私はまだ、彼女を忘れられないでいる。
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作者は風邪をひきました。あと4話ほどストックがあるのですが、6/5以降の更新は少し遅れるかもしれません。
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