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彼女が出ていくその前は
友人騎士は嘘を一つ、つきました
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私の友人のディランは最近二度目の結婚をした。
相手はシェリーだ。戦場となった土地の近くに領地を持つ、しがない子爵家の三女だった。
私とディランは同じ騎士学校で切磋琢磨してきた仲だ。同じ侯爵位の君と、私はいつも比べられていた。君はすべてにおいて私よりもはるかに優秀だったね。家に帰ると、私だって決して成績は悪い方ではなかったが、父上になぜディランに勝てぬのだと、侯爵家の恥だと叱りを受けた。
卒業後もそれは変わらず、君はすぐに戦場において一つの部隊を任される上級騎士となったね。私の矜持は見事に砕かれたよ。ただの騎士である私はこの戦争で、同級生である君の部隊に入れられたんだからね。恨んだよ。羨んだよ。
だから私は君に嘘をつく。
戦争はよやく終結した。今日は仲間内でのささやかな祝勝会。国あげての祝勝会は、すべての騎士が戦場より帰還する1か月後となっている。私達は勝利が確実の元になった時期に、一足先に王都に帰還していたからね。
本当の意味で命をかけて戦っていたのは兵士だけど…私たちだって命の危機を感じたのは一度や二度じゃない。不思議な高揚感も相まって、互いの無事を喜びつつ久しぶりの酒をみんなで浴びるほど飲んだ。
酔ったディランはこんな話を始めた。
「シェリーが祝勝会に参加したがって困っているんだ」
戦場で、積極的に炊き出しに参加していたシェリー
「国の行事に参加できるのは正妻だけだって」
貴族の娘であるにも関わらず
「何度説明しても」
健気に働いていた。
「理解してくれなくて」
確かに戦場でのシェリーは輝いて見えたね。『私たちの為に戦ってくれている、みなさんのお役に立ちたいんです』なんて言って。血にまみれた、埃臭い場で咲く、一輪の可憐な花のように
「それは困ったな」
でも君は知ってるか?
「彼女は辺境の子爵家の人間だから」
彼女は私にも近づいていたことを。
「貴族のルールをあまり知らないのかもしれない」
他の騎士にも、愛想を振りまいていたことを
「確かに正妻以外を公の行事に伴うなんて」
途中で私は気が付いたよ。
「普通はないだろうけど」
あぁ、それが狙いかって。
「一度くらい、いいんじゃないか?」
上位の貴族に嫁ぐ事を望んでいた彼女に、
「君が愛しているのは」
あざとく目を付けられて
「シェリーだろ?」
君はまんまと落とされた。
「正妻を優先しなければいけないのは仕方がないが」
ユカリナ夫人には悪いとは思うけど…
「あまり差をつけると、愛想を尽かされるぞ」
こんな事は滅多にある事じゃないからさ。私の八つ当たりに付き合ってよ。
「愛する妻のささやかな願いを叶えてやれよ。それに祝勝会は私たちが参加した戦争の勝利を祝う場だ。共に戦ってくれていたシェリーを伴ってもおかしくはない。私も久しぶりにシェリーに会いたいしな」
嫡男だった私は卒業後、幼い頃から婚約していた幼馴染とすぐに結婚した。思い合っていたから、何も不満はない。まだ第2夫人は娶っていない。子供を多く残すのは貴族の義務だから、いつかはとは思うけれど、戦争中に生まれた第1子は女児だったから。彼女が男児を産むまでは、他の妻はいらない。女同士の熾烈な争いに彼女を巻き込みたくはないからね。
相手はシェリーだ。戦場となった土地の近くに領地を持つ、しがない子爵家の三女だった。
私とディランは同じ騎士学校で切磋琢磨してきた仲だ。同じ侯爵位の君と、私はいつも比べられていた。君はすべてにおいて私よりもはるかに優秀だったね。家に帰ると、私だって決して成績は悪い方ではなかったが、父上になぜディランに勝てぬのだと、侯爵家の恥だと叱りを受けた。
卒業後もそれは変わらず、君はすぐに戦場において一つの部隊を任される上級騎士となったね。私の矜持は見事に砕かれたよ。ただの騎士である私はこの戦争で、同級生である君の部隊に入れられたんだからね。恨んだよ。羨んだよ。
だから私は君に嘘をつく。
戦争はよやく終結した。今日は仲間内でのささやかな祝勝会。国あげての祝勝会は、すべての騎士が戦場より帰還する1か月後となっている。私達は勝利が確実の元になった時期に、一足先に王都に帰還していたからね。
本当の意味で命をかけて戦っていたのは兵士だけど…私たちだって命の危機を感じたのは一度や二度じゃない。不思議な高揚感も相まって、互いの無事を喜びつつ久しぶりの酒をみんなで浴びるほど飲んだ。
酔ったディランはこんな話を始めた。
「シェリーが祝勝会に参加したがって困っているんだ」
戦場で、積極的に炊き出しに参加していたシェリー
「国の行事に参加できるのは正妻だけだって」
貴族の娘であるにも関わらず
「何度説明しても」
健気に働いていた。
「理解してくれなくて」
確かに戦場でのシェリーは輝いて見えたね。『私たちの為に戦ってくれている、みなさんのお役に立ちたいんです』なんて言って。血にまみれた、埃臭い場で咲く、一輪の可憐な花のように
「それは困ったな」
でも君は知ってるか?
「彼女は辺境の子爵家の人間だから」
彼女は私にも近づいていたことを。
「貴族のルールをあまり知らないのかもしれない」
他の騎士にも、愛想を振りまいていたことを
「確かに正妻以外を公の行事に伴うなんて」
途中で私は気が付いたよ。
「普通はないだろうけど」
あぁ、それが狙いかって。
「一度くらい、いいんじゃないか?」
上位の貴族に嫁ぐ事を望んでいた彼女に、
「君が愛しているのは」
あざとく目を付けられて
「シェリーだろ?」
君はまんまと落とされた。
「正妻を優先しなければいけないのは仕方がないが」
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「あまり差をつけると、愛想を尽かされるぞ」
こんな事は滅多にある事じゃないからさ。私の八つ当たりに付き合ってよ。
「愛する妻のささやかな願いを叶えてやれよ。それに祝勝会は私たちが参加した戦争の勝利を祝う場だ。共に戦ってくれていたシェリーを伴ってもおかしくはない。私も久しぶりにシェリーに会いたいしな」
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