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「明日明後日は来ませんよ」とスタッフさんに告げていたのに、木曜の昼に「電話が欲しい」とメールが来ていた。
「週末に跡が残ると困るので、行きませんよ?」
「跡が残らないならいけるってことですよね」
まあたしかに、と思う。
今週一週間とも思ったけれど、跡が残ると奏輔さんに会えないからやめたのだ。
「でも、上手な人が縛っても二日くらいかかりますよ?」
火曜日に緊縛好きのお客様でついた跡は、ほとんど消えたけれど、ところどころうっすらと残っている。
「拘束も鞭もなければいいってことですよね」
いいけれど、それで何をするのだろうか。ただでさえ奉仕はNGだというのに。
「……そんなの、お客様来なくないですか?」
「いえ、大丈夫です。ご予約なんですけど、この方はアナルフェチでして」
そういうのもいるのか、と思う。
お金持ちには変な人が多い気がするけれど、もしかすると博己が変な人を寄せ付ける体質なのかもしれない。
「アナルNGなキャストさんって意外と多くて……ヒメさんはアナル大丈夫ですよね?」
そうして、予定外の四日目、木曜日にも『お仕事』へと向かった。
断っても良かったのだろうけれど、スタッフさんも困っている様子だったし、頼まれるとどうにも断りづらかった。
そして、これがなかなかに大変だった。
よくよく考えれば当然なのだけれど、奉仕なし✕拘束なし✕鞭なし✕アナルフェチ=二時間ずっとアナル責、なのだ。
最初にイチジク浣腸で掃除しておいて、その後はプレイのための浣腸でたっぷりお湯を注がれ、後半は少しずつ太くなっていく玩具責。
彼に何度か調教してもらうと、腕まで入るようになるらしいが、そこまではいかなかった。
終わってお風呂に行くと、メイさんがいた。
「あれ、ヒメちゃん今日も来てたの?」
「はい。メイさんもおつかれさまです」
「最近頑張るねぇ。何? 借金でも作っちゃったの? それともヒモ男?」
「どっちも作ってないです。今日は頼まれて……」
「そうなの? 昨日も大変だったでしょ? ヒメちゃん気に入られてたもんね」
昨日のメイさんを思い出す。キツい体勢でアナルに蝋燭を耐えるなんてと思う。最後の方は、さらに別の蝋燭であちこちに蝋を垂らされていた。
「昨日はメイさんの方が大変じゃなかったですか?」
「三人同時とか何度もフェラとかよりは楽かも? 羞恥とか放置とかわりと好きだし」
ちょっとわからないでもない。
口でやってあげている女の子は吐きそうなくらい口のずっと奥まで何度も突かれていた。昨日いちばん大変だったのは、椅子役の彼女たちなのだろうと思う。
「ヒメちゃんは、この仕事を続けることにしたの?」
「……それを考えるために、今週月曜日から来てて。彼氏に悪いとも思うけど、なんか物足りなさみたいなのもあるし……だから、自分が何でどう満たされるのか知ろうと思って」
「ヒメちゃん特殊っぽいもんね」
「そうなんですか?」
「うん。奉仕NGのM嬢とか珍しいし、初回があの井上さんでしょ? めっちゃハードじゃない?」
「あはは。ですね」
「私も最初はフェラとか無理って思ってNGにしてたけど、そうするとわりときついプレイが多くて。自分が射精さなくていい人って、責めがハードなのよ」
「ああ、わかります。昨日初めて『普通のお客様』を見た感じです」
SMデリヘルにおける普通とは何なのか難しいところだが、メイさんは「でしょ?」とわかってくれた。
「でもヒメちゃんは、その『奉仕を必要としないハードな責め』だけの体験で迷ってるんだもん。そりゃ並の男じゃヒメちゃんを満足させるのって難しいよね」
金曜日。
久しぶりに『お仕事』なし。
縄や鞭の跡はきれいに消えてくれた。吊られたりもしたし、もっと残るのかと思ったけれど、事後ケアがしっかりしているのと、お客様が縛るのが上手なのとで、案外大丈夫だった。昨日想定外に出勤して、プラス一日ケアできたのもよかったのかもしれない。
実をいうと、跡だけでなく、肌全体の調子がすごく良い。
プレイと事後ケアで代謝が上がり、高い化粧水を贅沢に使って、帰宅すれば疲れてあっという間に深い眠りに落ちる。
今日は朝の二度寝もしなかった。
(クマ無くなったもんね……)
仕事の合間にトイレで鏡を見て、あらためて思う。
そういえば、以前メイさんも「仕事を休むと肌が荒れる」と言っていた気がする。
実は、ウエストもちょっと細くなった気がする。夕食を食べすぎるとプレイがキツくなるので、待機部屋で軽く食べる程度だし、食べる時刻も早い。疲れるので、その後間食をしないまま寝る。もしかすると、プレイそのものにストレッチ効果なんかもあるのかもしれない。
退勤時間にスマホを見ると、奏輔さんから「定時で終われそう」とメッセージがきていた。
「私も今終わりました」と返すと、待っていたのかすぐに既読がついて返信があった。定時だと奏輔さんの方が終わるのが早いので当然かもしれない。
奏輔さんの家に泊まることになったので、一度家に帰ってお泊りの準備をする。
金曜の夜から泊まりに行くのはかなり久しぶりで、夏服をちょっと多めに入れておく。奏輔さんの家に置いてある服は長袖の春物ばかりだから入れ替えてしまおう。
ちょうど乗り換えになる駅で待ち合わせて、お泊り荷物は駅のロッカーに入れてから晩御飯のお店を考えた。
奏輔さんはお酒好きなので、お酒の種類の多そうな串焼のお店を選んだ。
これがけっこう当たりで、目の前で焼いて次々に出される串焼はどれも美味しかった。
たっぷり楽しんで、奏輔さんの家へ帰る。
お風呂に入るのに、服を脱がせてもらうのが何故か通例になってしまった。
「今日はちゃんと着てるんだね」
普通の下着姿だけれど、じっくり見られると急に恥ずかしくなる。
「エッチな瑞姫ちゃんは、毎日あんな下着かと思ってた」
「……先週、すっごく恥ずかしかったのに」
透けて見えるブラウスでのみなとみらいデートを思い出して、さらに赤面する。
わざとゆっくり脱がせてくるので、恥ずかしさを紛らわせるために奏輔さんの服を脱がせることにした。Tシャツは身長差があって難しそうなので、ベルトに手を掛ける。ズボンのファスナーを下ろすと、ちょっとドキドキした。
そういえば、奏輔さんを脱がせるのは初めてかもしれない。
「執事の服を脱がせるなんて、姫様は夜伽の練習ですか?」
奏輔さんは余裕そうで、赤くなる私にふふ、と笑っている。
「スカートと違って、ファスナーを下ろしただけじゃ脱げないよ?」
と、続きを促してきた。
ズボンに手を掛けて下へ下ろそうとすると、自然に姿勢も下がって、頭は股間に、お尻は後ろに突き出す形になった。
「この眺めエロい」
恥ずかしさを紛らわせようとしたのに、余計に恥ずかしくなってしまった。
とはいえ、奏輔さんを脱がせないことにはこの羞恥は終わりそうにない。
「パンツも脱がせてくれる?」
そう問われれば、嫌だなんて言えない。
今度は目の前に奏輔さんのモノがあって、特有のニオイもした。
身長差があるので、「Tシャツは無理だよ?」と言うと、奏輔さんは床に膝立ちになった。これで脱がせるだろうということだろうけれど、そうすると奏輔さんの顔が私の股近くにあって、さらに奏輔さんは、まだ脱がせていないままのショーツに手を掛ける。
もっと凄いことはいろいろしているはずなのに、こういうのはいつまで経っても妙に恥ずかしかった。
お風呂でもお互いがお互いを洗って、部屋に戻るとゆるくかけただけのエアコンでは暑かった。
奏輔さんが、「あちー」とエアコンの設定温度を限界まで下げた。そうすると後から寒くなるのだけれど、自分もするのでつっこまないでおく。
「瑞姫、肌きれいになったよね」
「……そう?」
「うん。やっぱり化粧品が違うと違うんだね」
「え……?」
なぜ奏輔さんが、違う化粧品を使っていることを知っているのだろうかと固まってしまう。
「なんで、化粧品変えたって知って……」
「ん? だって、買ったんでしょ? 新しい化粧品。この前届いてたじゃん」
それで、ようやく合点がいった。
博己が水着と一緒に送りつけてきた、アレだ。たしかに『化粧品』と書いてあったが、中身は三点責めのアダルトグッズ。奏輔さんの前では「まだ使いかけのものがあるから」と開封しなかったから、あのときの化粧品を使い始めたのだと思ったわけだ。
「あ、そっか」
「うん。僕も化粧水とか使ってみようかなぁ」
心臓がバクバクする。一瞬『お仕事』がバレたのかと思った。
奏輔さんは、「男も肌に気を遣う時代だしな」なんて自分の顔を触って鏡を見ていた。
なぜだか一緒に肌の手入れをして、終わる頃には案の定エアコンが効きすぎて寒くなっていた。
「お鍋食べたくなるなぁ」
「?」
「夏の暑い日に涼しい部屋にいると、お鍋食べたくならないですか? チゲとか汗かきそうなやつ」
「あー、冬にこたつでアイス食べるみたいな?」
「そうそう。文明の利器に頼って季節に反することをするのってちょっと楽しいっていうか」
「じゃあ、明日はエアコンガンガンかけてチゲ鍋にしようか」
「あはは、いいですね。そうしましょう」
こういうくだらない話をしているのも、奏輔さんとだと楽しい。
奏輔さんは、「今日はとりあえず焼酎かな……」とまだ飲むつもりでいるようだ。高知の遺伝子はみんなこんなにお酒好きなのだろうか。
「こんなとこで寝たら風邪ひきますよ?」
奏輔さんは、ソファに座ったまま頭を私に預けて寝ている。
「んー……」
一応返事はあるけれど半分以上寝ている感じだ。
エアコンもついているし、肌掛けも遠い。仕方ないのでゆさゆさと揺すると、奏輔さんは渋々ベッドへと向かった。
今日会う話も直前だったし、もしかすると仕事を片付けるためにちょっと無理をしたのかもしれない。今日会うために頑張ってくれていたのかと思うと、ちょっと嬉しい。
ただ、自分自身はまったく眠くなかった。
ここ最近は、毎日このくらいの時間に帰宅してぐっすり眠っていたというのに、今日はまったく眠くない。
仕事もデスクワークで動かないし、それ以上に暇な時期だし、心身共に負荷がなさ過ぎるのだ。
(暗いほうがいいかな……)
奏輔さんのためにエアコンの設定温度を少し上げて、照明を落とす。
そうするとますます暇なので、ベッドに入ってスマホを眺めることにした。
ゲームのイベント通知を見て、そういえば最近はまったくゲームをしていないなと思う。ゲームで出会ったはずなのに不思議だ。
こうしてスマホはよく見るけれど、パソコンは開けてすらいない。最後にパソコンを使ったのは、あの下着の衝動買いが最後だった。
そういえば、今日も特に苛めて欲しい衝動はない。お風呂ではちょっとエッチなこともしたけれど、どちらかといえばイチャイチャしていただけだ。ナチュラルにお尻に指を入れられたりはしたけれど、まあせいぜいその程度。お返しに奏輔さんのにも指を入れたら反応が面白くて、エロというより明るい笑いみたいな空気になって、だから本当にカップルがお風呂でイチャついていただけだ。
それでも全然問題はなくて、特に不満に思うことはなかった。
ただ、こうして一人残されると、急に身体が切なくなる。
(奏輔さんが起きたときに私が全裸なら、朝からしてくれる?)
そう思って、すっかり部屋着と化したぶかぶかのYシャツを脱ぎ、床に落とした。そっと奏輔さんの手をとって、奏輔さんの指で自分の乳首を触った。ちょっとイケナイコトをしている感じがする。
だけど、寝ている人の手じゃ全然足りなくて、結局自分の手を這わせた。
もう片手でスマホを操作して、「エロ 乳首」と検索してみる。乳首を責められているいろんな画像を眺めると、案外自分は普通なのかもしれないと思う。自分以外にも、わりと痛そうなことをしている人がいるからだ。
一方で、先週のような激しい欲求は感じなくて、今はゆるゆると触りながらスマホを見て、時々奏輔さんの顔を見て起きないのを確認するだけだ。例えば、トイレやベランダへたって、激しく責め立てたいような感じはしなかった。
「んうぅ、」と奏輔さんが寝返りを打ったのを合図に、スマホを閉じて寝ることにした。
服は着ずに全裸だ。
「週末に跡が残ると困るので、行きませんよ?」
「跡が残らないならいけるってことですよね」
まあたしかに、と思う。
今週一週間とも思ったけれど、跡が残ると奏輔さんに会えないからやめたのだ。
「でも、上手な人が縛っても二日くらいかかりますよ?」
火曜日に緊縛好きのお客様でついた跡は、ほとんど消えたけれど、ところどころうっすらと残っている。
「拘束も鞭もなければいいってことですよね」
いいけれど、それで何をするのだろうか。ただでさえ奉仕はNGだというのに。
「……そんなの、お客様来なくないですか?」
「いえ、大丈夫です。ご予約なんですけど、この方はアナルフェチでして」
そういうのもいるのか、と思う。
お金持ちには変な人が多い気がするけれど、もしかすると博己が変な人を寄せ付ける体質なのかもしれない。
「アナルNGなキャストさんって意外と多くて……ヒメさんはアナル大丈夫ですよね?」
そうして、予定外の四日目、木曜日にも『お仕事』へと向かった。
断っても良かったのだろうけれど、スタッフさんも困っている様子だったし、頼まれるとどうにも断りづらかった。
そして、これがなかなかに大変だった。
よくよく考えれば当然なのだけれど、奉仕なし✕拘束なし✕鞭なし✕アナルフェチ=二時間ずっとアナル責、なのだ。
最初にイチジク浣腸で掃除しておいて、その後はプレイのための浣腸でたっぷりお湯を注がれ、後半は少しずつ太くなっていく玩具責。
彼に何度か調教してもらうと、腕まで入るようになるらしいが、そこまではいかなかった。
終わってお風呂に行くと、メイさんがいた。
「あれ、ヒメちゃん今日も来てたの?」
「はい。メイさんもおつかれさまです」
「最近頑張るねぇ。何? 借金でも作っちゃったの? それともヒモ男?」
「どっちも作ってないです。今日は頼まれて……」
「そうなの? 昨日も大変だったでしょ? ヒメちゃん気に入られてたもんね」
昨日のメイさんを思い出す。キツい体勢でアナルに蝋燭を耐えるなんてと思う。最後の方は、さらに別の蝋燭であちこちに蝋を垂らされていた。
「昨日はメイさんの方が大変じゃなかったですか?」
「三人同時とか何度もフェラとかよりは楽かも? 羞恥とか放置とかわりと好きだし」
ちょっとわからないでもない。
口でやってあげている女の子は吐きそうなくらい口のずっと奥まで何度も突かれていた。昨日いちばん大変だったのは、椅子役の彼女たちなのだろうと思う。
「ヒメちゃんは、この仕事を続けることにしたの?」
「……それを考えるために、今週月曜日から来てて。彼氏に悪いとも思うけど、なんか物足りなさみたいなのもあるし……だから、自分が何でどう満たされるのか知ろうと思って」
「ヒメちゃん特殊っぽいもんね」
「そうなんですか?」
「うん。奉仕NGのM嬢とか珍しいし、初回があの井上さんでしょ? めっちゃハードじゃない?」
「あはは。ですね」
「私も最初はフェラとか無理って思ってNGにしてたけど、そうするとわりときついプレイが多くて。自分が射精さなくていい人って、責めがハードなのよ」
「ああ、わかります。昨日初めて『普通のお客様』を見た感じです」
SMデリヘルにおける普通とは何なのか難しいところだが、メイさんは「でしょ?」とわかってくれた。
「でもヒメちゃんは、その『奉仕を必要としないハードな責め』だけの体験で迷ってるんだもん。そりゃ並の男じゃヒメちゃんを満足させるのって難しいよね」
金曜日。
久しぶりに『お仕事』なし。
縄や鞭の跡はきれいに消えてくれた。吊られたりもしたし、もっと残るのかと思ったけれど、事後ケアがしっかりしているのと、お客様が縛るのが上手なのとで、案外大丈夫だった。昨日想定外に出勤して、プラス一日ケアできたのもよかったのかもしれない。
実をいうと、跡だけでなく、肌全体の調子がすごく良い。
プレイと事後ケアで代謝が上がり、高い化粧水を贅沢に使って、帰宅すれば疲れてあっという間に深い眠りに落ちる。
今日は朝の二度寝もしなかった。
(クマ無くなったもんね……)
仕事の合間にトイレで鏡を見て、あらためて思う。
そういえば、以前メイさんも「仕事を休むと肌が荒れる」と言っていた気がする。
実は、ウエストもちょっと細くなった気がする。夕食を食べすぎるとプレイがキツくなるので、待機部屋で軽く食べる程度だし、食べる時刻も早い。疲れるので、その後間食をしないまま寝る。もしかすると、プレイそのものにストレッチ効果なんかもあるのかもしれない。
退勤時間にスマホを見ると、奏輔さんから「定時で終われそう」とメッセージがきていた。
「私も今終わりました」と返すと、待っていたのかすぐに既読がついて返信があった。定時だと奏輔さんの方が終わるのが早いので当然かもしれない。
奏輔さんの家に泊まることになったので、一度家に帰ってお泊りの準備をする。
金曜の夜から泊まりに行くのはかなり久しぶりで、夏服をちょっと多めに入れておく。奏輔さんの家に置いてある服は長袖の春物ばかりだから入れ替えてしまおう。
ちょうど乗り換えになる駅で待ち合わせて、お泊り荷物は駅のロッカーに入れてから晩御飯のお店を考えた。
奏輔さんはお酒好きなので、お酒の種類の多そうな串焼のお店を選んだ。
これがけっこう当たりで、目の前で焼いて次々に出される串焼はどれも美味しかった。
たっぷり楽しんで、奏輔さんの家へ帰る。
お風呂に入るのに、服を脱がせてもらうのが何故か通例になってしまった。
「今日はちゃんと着てるんだね」
普通の下着姿だけれど、じっくり見られると急に恥ずかしくなる。
「エッチな瑞姫ちゃんは、毎日あんな下着かと思ってた」
「……先週、すっごく恥ずかしかったのに」
透けて見えるブラウスでのみなとみらいデートを思い出して、さらに赤面する。
わざとゆっくり脱がせてくるので、恥ずかしさを紛らわせるために奏輔さんの服を脱がせることにした。Tシャツは身長差があって難しそうなので、ベルトに手を掛ける。ズボンのファスナーを下ろすと、ちょっとドキドキした。
そういえば、奏輔さんを脱がせるのは初めてかもしれない。
「執事の服を脱がせるなんて、姫様は夜伽の練習ですか?」
奏輔さんは余裕そうで、赤くなる私にふふ、と笑っている。
「スカートと違って、ファスナーを下ろしただけじゃ脱げないよ?」
と、続きを促してきた。
ズボンに手を掛けて下へ下ろそうとすると、自然に姿勢も下がって、頭は股間に、お尻は後ろに突き出す形になった。
「この眺めエロい」
恥ずかしさを紛らわせようとしたのに、余計に恥ずかしくなってしまった。
とはいえ、奏輔さんを脱がせないことにはこの羞恥は終わりそうにない。
「パンツも脱がせてくれる?」
そう問われれば、嫌だなんて言えない。
今度は目の前に奏輔さんのモノがあって、特有のニオイもした。
身長差があるので、「Tシャツは無理だよ?」と言うと、奏輔さんは床に膝立ちになった。これで脱がせるだろうということだろうけれど、そうすると奏輔さんの顔が私の股近くにあって、さらに奏輔さんは、まだ脱がせていないままのショーツに手を掛ける。
もっと凄いことはいろいろしているはずなのに、こういうのはいつまで経っても妙に恥ずかしかった。
お風呂でもお互いがお互いを洗って、部屋に戻るとゆるくかけただけのエアコンでは暑かった。
奏輔さんが、「あちー」とエアコンの設定温度を限界まで下げた。そうすると後から寒くなるのだけれど、自分もするのでつっこまないでおく。
「瑞姫、肌きれいになったよね」
「……そう?」
「うん。やっぱり化粧品が違うと違うんだね」
「え……?」
なぜ奏輔さんが、違う化粧品を使っていることを知っているのだろうかと固まってしまう。
「なんで、化粧品変えたって知って……」
「ん? だって、買ったんでしょ? 新しい化粧品。この前届いてたじゃん」
それで、ようやく合点がいった。
博己が水着と一緒に送りつけてきた、アレだ。たしかに『化粧品』と書いてあったが、中身は三点責めのアダルトグッズ。奏輔さんの前では「まだ使いかけのものがあるから」と開封しなかったから、あのときの化粧品を使い始めたのだと思ったわけだ。
「あ、そっか」
「うん。僕も化粧水とか使ってみようかなぁ」
心臓がバクバクする。一瞬『お仕事』がバレたのかと思った。
奏輔さんは、「男も肌に気を遣う時代だしな」なんて自分の顔を触って鏡を見ていた。
なぜだか一緒に肌の手入れをして、終わる頃には案の定エアコンが効きすぎて寒くなっていた。
「お鍋食べたくなるなぁ」
「?」
「夏の暑い日に涼しい部屋にいると、お鍋食べたくならないですか? チゲとか汗かきそうなやつ」
「あー、冬にこたつでアイス食べるみたいな?」
「そうそう。文明の利器に頼って季節に反することをするのってちょっと楽しいっていうか」
「じゃあ、明日はエアコンガンガンかけてチゲ鍋にしようか」
「あはは、いいですね。そうしましょう」
こういうくだらない話をしているのも、奏輔さんとだと楽しい。
奏輔さんは、「今日はとりあえず焼酎かな……」とまだ飲むつもりでいるようだ。高知の遺伝子はみんなこんなにお酒好きなのだろうか。
「こんなとこで寝たら風邪ひきますよ?」
奏輔さんは、ソファに座ったまま頭を私に預けて寝ている。
「んー……」
一応返事はあるけれど半分以上寝ている感じだ。
エアコンもついているし、肌掛けも遠い。仕方ないのでゆさゆさと揺すると、奏輔さんは渋々ベッドへと向かった。
今日会う話も直前だったし、もしかすると仕事を片付けるためにちょっと無理をしたのかもしれない。今日会うために頑張ってくれていたのかと思うと、ちょっと嬉しい。
ただ、自分自身はまったく眠くなかった。
ここ最近は、毎日このくらいの時間に帰宅してぐっすり眠っていたというのに、今日はまったく眠くない。
仕事もデスクワークで動かないし、それ以上に暇な時期だし、心身共に負荷がなさ過ぎるのだ。
(暗いほうがいいかな……)
奏輔さんのためにエアコンの設定温度を少し上げて、照明を落とす。
そうするとますます暇なので、ベッドに入ってスマホを眺めることにした。
ゲームのイベント通知を見て、そういえば最近はまったくゲームをしていないなと思う。ゲームで出会ったはずなのに不思議だ。
こうしてスマホはよく見るけれど、パソコンは開けてすらいない。最後にパソコンを使ったのは、あの下着の衝動買いが最後だった。
そういえば、今日も特に苛めて欲しい衝動はない。お風呂ではちょっとエッチなこともしたけれど、どちらかといえばイチャイチャしていただけだ。ナチュラルにお尻に指を入れられたりはしたけれど、まあせいぜいその程度。お返しに奏輔さんのにも指を入れたら反応が面白くて、エロというより明るい笑いみたいな空気になって、だから本当にカップルがお風呂でイチャついていただけだ。
それでも全然問題はなくて、特に不満に思うことはなかった。
ただ、こうして一人残されると、急に身体が切なくなる。
(奏輔さんが起きたときに私が全裸なら、朝からしてくれる?)
そう思って、すっかり部屋着と化したぶかぶかのYシャツを脱ぎ、床に落とした。そっと奏輔さんの手をとって、奏輔さんの指で自分の乳首を触った。ちょっとイケナイコトをしている感じがする。
だけど、寝ている人の手じゃ全然足りなくて、結局自分の手を這わせた。
もう片手でスマホを操作して、「エロ 乳首」と検索してみる。乳首を責められているいろんな画像を眺めると、案外自分は普通なのかもしれないと思う。自分以外にも、わりと痛そうなことをしている人がいるからだ。
一方で、先週のような激しい欲求は感じなくて、今はゆるゆると触りながらスマホを見て、時々奏輔さんの顔を見て起きないのを確認するだけだ。例えば、トイレやベランダへたって、激しく責め立てたいような感じはしなかった。
「んうぅ、」と奏輔さんが寝返りを打ったのを合図に、スマホを閉じて寝ることにした。
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