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不③
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朝倉が開いたファイルには、これまで判明した事柄が事細かく記載されていた。
その中に、識の知らない情報も含まれていた。
「洋壱の首にうっすら紐のような物の痕跡……?」
「ええそうです、進藤さん。ご遺体を死亡解剖している最中に判明した事の一つです」
「一つ? という事は他にもあるという事ですね?」
「はい。お伝えしなかった理由は……判明したのが今日の午後だったのもありますが、我々は襲撃されてもいましたので隙がなかったというのが事実です」
(本当か?)
疑いながらも、識は表には出さずに話を続ける事にした。深く追求した所で先に進めないと判断したからだ。
その意図を汲んでか、朝倉は話の続きを始めた。相変わらず真意を掴めない人物だが、情報入手が先決だと識は自分に言い聞かせる。
「では、次に判明した事ですが。進藤さんが午前、気になされていた対人トラブルについて。不審な人物の目撃情報がありました」
「それは洋壱の部屋の周囲で? それともマンション全体でですか?」
「もっとも多かったのは、久川さんの部屋近辺です」
「その不審人物についての詳細は掴んでいるんですか?」
「いえ。ですが……目撃情報から推測するに、おそらく女性かと思われます」
「おそらく?」
「はい。背格好等からしてですが……こちらが目撃証言から作成した大まかな不審者と思しき人物画です」
そう告げて朝倉がファイルから複数枚の紙を取り出した。そこには多少の差異こそあれど長い黒髪を二つに束ねた白いワンピース、そして大きな麦藁帽子を被った女性が描かれている。
「この女性に進藤さんは心当たり等ございませんか?」
「いえ……ないですね。ですが、調べる価値が更に上がりました」
「ほう? では進藤さんもこの女性が怪しいと?」
「はい。この女性に心当たりはないですが……雰囲気的に洋壱のストーカーになりやすい特徴を持っています」
「そう言いますと?」
識は自分の黒い肩掛け鞄からタブレットを取り出し、画像を何枚か朝倉に見せる。そこには、長い黒髪の女性が何人か映っており全員顔色が悪く目つきの怖いものばかりだった。
「もしや……?」
「はい、朝倉刑事。ご推察の通り、これまで洋壱にストーカー行為をした女性達です。ここにあるのは俺が探偵になってから解決した物ばかりですが」
「つまり……久川さんはとてもストーカー被害に逢いやすかったという事ですね?」
「はい……寄せ付けやすいみたいで……だから対策をしろと口酸っぱく言っていたのに……」
「心中お察し致します。捜査本部でも、この女性が関わっているとの見方なのですが……」
「問題は、俺達を襲ってきた男についてですね?」
朝倉は深く頷くと、ファイルから今度は資料を取り出した。そこには、襲ってきた男性について記載されており特徴等事細かく書かれている。
(流石は刑事って所か……素人の仕事と違うぜ……)
「進藤さん、改めてお尋ねします。この襲撃者に思い当たる節はありますか?」
「ないですね……ただ……」
「ただ?」
「この不審者である女性と関係がある気がします。半ば勘ですが」
識の回答に、朝倉は口角をあげる。その表情は相変わらず穏やかで感情を読み取るのは難しい。だが、どこか識に期待をしている……そんな感覚を与える目をしていた。識は少し警戒しながら朝倉に尋ね返す。その声色はどこか震えていた。
「朝倉刑事……貴方は俺に何を期待しているんです?」
「そうですねぇ……あらゆる面で、ですかね?」
「含んだ言い方ですね」
「不快にさせたのなら謝ります。ですが……進藤さんの着眼点は素晴らしい。そう思いますよ?」
どこまでも真意の読めない朝倉だが、この言葉に嘘はないと思わせる重さがあった。識は改めて資料を見つめ、自分の中で思考を整理する事にした。
その中に、識の知らない情報も含まれていた。
「洋壱の首にうっすら紐のような物の痕跡……?」
「ええそうです、進藤さん。ご遺体を死亡解剖している最中に判明した事の一つです」
「一つ? という事は他にもあるという事ですね?」
「はい。お伝えしなかった理由は……判明したのが今日の午後だったのもありますが、我々は襲撃されてもいましたので隙がなかったというのが事実です」
(本当か?)
疑いながらも、識は表には出さずに話を続ける事にした。深く追求した所で先に進めないと判断したからだ。
その意図を汲んでか、朝倉は話の続きを始めた。相変わらず真意を掴めない人物だが、情報入手が先決だと識は自分に言い聞かせる。
「では、次に判明した事ですが。進藤さんが午前、気になされていた対人トラブルについて。不審な人物の目撃情報がありました」
「それは洋壱の部屋の周囲で? それともマンション全体でですか?」
「もっとも多かったのは、久川さんの部屋近辺です」
「その不審人物についての詳細は掴んでいるんですか?」
「いえ。ですが……目撃情報から推測するに、おそらく女性かと思われます」
「おそらく?」
「はい。背格好等からしてですが……こちらが目撃証言から作成した大まかな不審者と思しき人物画です」
そう告げて朝倉がファイルから複数枚の紙を取り出した。そこには多少の差異こそあれど長い黒髪を二つに束ねた白いワンピース、そして大きな麦藁帽子を被った女性が描かれている。
「この女性に進藤さんは心当たり等ございませんか?」
「いえ……ないですね。ですが、調べる価値が更に上がりました」
「ほう? では進藤さんもこの女性が怪しいと?」
「はい。この女性に心当たりはないですが……雰囲気的に洋壱のストーカーになりやすい特徴を持っています」
「そう言いますと?」
識は自分の黒い肩掛け鞄からタブレットを取り出し、画像を何枚か朝倉に見せる。そこには、長い黒髪の女性が何人か映っており全員顔色が悪く目つきの怖いものばかりだった。
「もしや……?」
「はい、朝倉刑事。ご推察の通り、これまで洋壱にストーカー行為をした女性達です。ここにあるのは俺が探偵になってから解決した物ばかりですが」
「つまり……久川さんはとてもストーカー被害に逢いやすかったという事ですね?」
「はい……寄せ付けやすいみたいで……だから対策をしろと口酸っぱく言っていたのに……」
「心中お察し致します。捜査本部でも、この女性が関わっているとの見方なのですが……」
「問題は、俺達を襲ってきた男についてですね?」
朝倉は深く頷くと、ファイルから今度は資料を取り出した。そこには、襲ってきた男性について記載されており特徴等事細かく書かれている。
(流石は刑事って所か……素人の仕事と違うぜ……)
「進藤さん、改めてお尋ねします。この襲撃者に思い当たる節はありますか?」
「ないですね……ただ……」
「ただ?」
「この不審者である女性と関係がある気がします。半ば勘ですが」
識の回答に、朝倉は口角をあげる。その表情は相変わらず穏やかで感情を読み取るのは難しい。だが、どこか識に期待をしている……そんな感覚を与える目をしていた。識は少し警戒しながら朝倉に尋ね返す。その声色はどこか震えていた。
「朝倉刑事……貴方は俺に何を期待しているんです?」
「そうですねぇ……あらゆる面で、ですかね?」
「含んだ言い方ですね」
「不快にさせたのなら謝ります。ですが……進藤さんの着眼点は素晴らしい。そう思いますよ?」
どこまでも真意の読めない朝倉だが、この言葉に嘘はないと思わせる重さがあった。識は改めて資料を見つめ、自分の中で思考を整理する事にした。
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