【完結】君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜

Kanade

文字の大きさ
37 / 75
【一章】『運命の番』編

36 迷いはない

しおりを挟む
  お兄様の話は、俺を愕然とさせた。
  俺が消えた後の大和の事は彼自身から聞いたのと同じだったけれど、大和がお兄様に言ったという言葉に、当時の自分の浅はかさを知った。
  大和は俺を信じてくれていた。黙って姿を消した俺を…裏切りにも似た行いをした俺を、それでも信じてくれていた。理由がある筈だって…。
  対して、俺は……。
  確かに『理由』はあった。そして俺は大和に一言も相談する事なく、逃げる事を選んだ。それは彼を信じていなかった事に他ならないのではないか…?  彼の将来を壊したくないから…などともっともらしい理由をつけて、その実、現実と向き合う事から逃げただけだと……。
  時間が経てば、大和も消えた俺の事なんか忘れて、夢を叶えて、可愛い恋人を作って、結婚して…って、自分の人生を歩んでいくんだろうなって思っていた。
  大和との未来は考えていなかった…と言いながら、その実、自分じゃない誰かが大和の隣に居る未来を思うだけで胸が苦しくなった。それでも、大和が幸せになってくれたらいい。俺は俺の居場所を見つけて、生涯大和の幸せを願いながら生きていこう、と自分に言い聞かせて……。
  でも、大和は俺を信じて諦めないでいてくれた。
  それなのに俺は………。

  お兄様から聞いた、俺が大和に『別れ』を告げてから衰弱して発見されるまでの事を聞いて、涙が溢れた。息苦しくて上手く呼吸が出来ない。丹羽先生が声をかけてくれて、背中を擦ってくれながら、ベッドに寝かせてくれた。

「ゆっくり深呼吸しましょうね」

  ゆっくり深呼吸を繰り返す俺。涙は止まらなかったけれど、呼吸は楽になった。先生にお腹は痛くないか訊かれて、頷きながら布団の下でお腹を撫でた。
  
(うん、大丈夫。君達は強い子だね。苦しくしちゃってごめんね)

  と、赤ちゃん達に心の中で謝った。

「お話は明日にしませんか? お母さんの精神状態も胎児に影響を与えます」

  先生がお兄様に言う。

「解りました。渚君、無理をさせてすまない。話は後日改めてしよう。私が言えた義理ではないが、今は身体を最優先に…」
「…あ……」

  お兄様が行ってしまう。後日って、いつ?
  まだ話さなければいけない事があるんだ。
  だから俺は、

「お腹の子は大和の子供なんです」

  お兄様を引き止める様に言った。
  お兄様は一度浮かせた腰を、再び椅子に下ろす。既に立っていた門脇さんも、再び椅子に座った。
  心配そうに俺を見つめる先生に、大丈夫だと伝わる様に頷いて見せると、先生は離れた所に置いていた椅子を持ってきて、ベッド横にピッタリくっつけて座る。

「一ヶ月前、俺から誘ったんです。何故かは自分でも判りません。『渇き』…だったのかも知れません。今でも大和を『愛してる』から。それが『俺の罪』です。俺は大和を求めてはいけなかった。俺に戻って来てほしいと願う大和に、別れを決意していたのなら抱かれてはいけなかったんです。互いに、避妊は頭になかったと思います。
  俺は『最後』のつもりでした。けれど、大和は俺から求められた事で『期待』した。行為の後も彼の求婚を拒否した俺に彼は言いました。「だったらなんで『抱いて』なんて言った? 捨てる俺に最後の情けのつもりか!」と。
『違う』なんて言えなかった。言える筈もない。俺は最後まで大和を拒否したんです。六年前から変わらず一途に愛してくれる大和を、αだから…という理由だけで……。だからお兄様に、大和のα性を否定したのか?と言われれば、そうなんだと思います」

  布団の下でお腹を擦りながら「大丈夫大丈夫」と心の中で自分に言い聞かせるだけで、冷静に話せたと思う。自分の『罪』を。

「ごめんなさい。大和を傷付けて…。赦してもらえるとは思いません。あのメモを見た時、俺は自分が大和を追い詰めた事に気が付きました。だから、本当に今更だし、そんな資格、俺にはない事は解っているけれど…。それでも俺は……」

ー「大和に会いたい」ー。

  言葉にして、ストンと腑に落ちた。
  俺は自分にまで『嘘』をついていたんだなぁ、と。
  大和が幸せになってくれればいい、なんて嘘。遠くから大和の幸せを生涯祈り続ける、なんて嘘。
  本当は俺が大和を幸せにしたい。大和の傍で彼を支え、彼の幸せの一部になりたい。彼と一緒に幸せになりたい。
  それが俺の本音ー。
  俺の本心を聞いたお兄様は…。

「最初は話を聞くだけのつもりだった。とにかく、事情を聞きたかった。大和の身に何があったのかを知りたかった。
  改めて言わせてほしい。事情も聞かずに勝手に君を誤解し、君だけでなく子供にまで危険を与えてしまった事、本当にすまなかった」

  座ったまま、再び頭を下げるお兄様。
  俺、本当にもう…というか、初めから怒ってなんかいないんだけど…。でも、謝罪でお兄様の気が済むというのなら…と、俺は「謝罪を受け入れます」と応えた。

「君は自分が悪いと言うが、事情を聞けばどちらかが悪いという事ではないのだろう。確かに、六年前に君が選んだ結果は悪手だといえるが、君がそうしなければならなかった気持ちも理解出来る。一言で不幸な『すれ違い』…と言ってしまえば身も蓋もないが。
  君は大和の子供を産む事に迷いはないのだな?」

  お兄様が俺に訊く。訊く…というより確認なんだと思う。俺が産む事に確信を持っている様にみえた。
  俺は再び、ゆっくりと上体を起こした。そして、お兄様の顔を正面から見据える。

「はい。最初から俺に迷いはありません」

  お腹に手を当てる。

「この子を…子供達を産む事に」
「! 双子…だったか。なんと、めでたい…。
  おめでとう。そして、ありがとう」
「っ…!」

  いた……。此処にもいたよ。心から「おめでとう」って言ってくれる人…。

「ありがとう…ございます…」

  俺は、零れ落ちそうになる涙を隠す様に頭を下げた。

  それから、再びベッドに寝かされた俺のすぐ傍で、丹羽先生とお兄様の打ち合わせ?的な話がされるのを、俺は無言で見つめていたんだけれど…。その名も『御崎渚、妊娠出産育児サポートプロジェクト』…って、俺が勝手に命名したんだけど…。

  要約すると、さっき俺が先生と話して決めた事を先生がお兄様に話し(俺が此処で出産する事だけど)、そしたらお兄様が、俺の新たに住む所と生活の面倒は自分が見ると言ってくれて…。
  つまり、俺の衣食住などの生活面のサポートはお兄様が、妊娠期から出産のサポートはΩ科と産科の先生達がする、と決まった。俺は黙って甘える事にした。というか、甘えさせてもらうしかない。
  今の仕事は辞めるし、こっちに戻っても家は無いし働けないし。今は甘える事にした。

  その日、俺は病院に入院する事になった。落ち着いたとはいえ、双子妊娠はリスクが高いため、一晩様子をみましょう、という事らしかった。

  俺が、大和の入院している特別個室に案内されたのは、翌日の昼過ぎだったー。

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...