【二章まったり更新中】君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜

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【一章】『運命の番』編

32 ❃❃❃〈 side大和の兄・雄大 〉

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「いけません! 雄大様!」
「!!!」

  叫ぶ様な声で名前を呼ばれて、我に返った。
  目の前を見れば、ソファーに横たわる渚君を介抱する門脇の姿。険しい顔をしながら壁際で控える護衛に指示を飛ばす門脇を、茫然と見ていた。

(…私は一体、何を……)

  戸惑っている私の目の前で、警護の一人が渚君を抱き上げ、呼ばれて駆け付けたらしい男性医師と男性看護師と共に、部屋を出て行った。
  そして私は……。

  茫然とした私に喝を入れる為だろう。

  パンッ…!

  門脇に左頬を張られた。

「…っ…!」
「しっかりなさいませっ!」

  声まで飛んできた。否が応にも覚醒する。 
  傍から見れば、仕えるべき家の子息に手を上げた行為は不敬に当たるのだろう。殆どの家では弁明する暇もなく解雇必至の事案だ。
  だが我が家では、門脇にはそれが許されていた。
    
                   ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻

  門脇は私が八歳の子供の頃から、執事として我が家で働いていた。当時の彼はまだ二十代半ば。それでも、当時当主だった祖父の急死により当主を継いだばかりの父が、彼の優秀さと人柄に魅かれ、我が家に招いたのだ。
  私にとっては、兄であり父の様な存在。主の息子だとて、決して甘やかしたりはしなかった。キツく叱りはしないが、物事の道理や良し悪しを諭す様に教えてくれたのは彼だ。忙しい両親に代わり、私達兄妹を育ててくれたと言っても過言ではない。大和と妹に至っては生まれた時からの付き合いであり、他家の者が聞けば驚く事に、オムツ替えもミルクを飲ませたりもしていた。明らかに執事の仕事を逸脱している行為だが、楽しそうに世話をしていた彼が印象的だった。
  両親も彼を信頼して私達を任せ、間違いを犯した時は遠慮なく叱ってほしい、と常から言っていたくらいだ。

                    ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻

  門脇に叩かれたのは初めてだった。ヤンチャな少年時代でさえ、体罰を与えるのではなく言葉で伝え、諭してくれていた。今、私を叩いたのは、叱る…というよりも、正気に戻す為…の意味合いからなのだろう。

「す…すまない……」
「雄大様、貴方は今、ご自分が何をなさったかご理解していらっしゃいますか?」
「あ…ああ、私は渚君に向けて威圧を…」

  無意識ではあった。大和は私の可愛い弟だ。なのに、目の前の青年が弟のα性を否定した。メモに書かれていた『αでごめん…』という言葉は、つまりはそういう事なのだろう。そう思ったら……。
  けれど、私は『罪』を犯した。

「そうです、雄大様。貴方は無抵抗の御崎様にαの威圧を放った。Ωの御崎様には恐怖でしかない。今日は『真実』を知る為に冷静に話を聞くのではなかったのですか?」
「……………。すまない…」
「謝る相手は私ではありません。
  取り敢えず、参りましょう。すぐに医師を手配して診察をお願いしましたから大事には至っていないとは思いますが、心配です。様子を窺いにいかなければ…。
  いいですか、雄大様。Ω保護法により、無抵抗のΩに威圧を放つのは犯罪です。あくまで相手が訴えれば…の話ですが。まずは彼に大事がない事を祈り、誠意を持って謝りましょう。只でさえ貴方は大和様の事が絡むと感情的になりやすい。お気持ちは解りますが、御崎様にも事情があったのかも知れません。その事をお忘れなきよう」
「解っている。彼には誠心誠意謝罪する」

  門脇がソファーに沈み込んでいた私に、白手袋をはめた手を差し出す。私はその手を取り、立ち上がった。

  二人連れ立って渚君が運び込まれた処置室に行った私達は、彼の診察をしてくれた医師に別室に連れて行かれた。そこで私達が知らされたのはー。

「「妊娠している!?」」

  二人同時に声を上げた。

  今、私達の前に座っているのは、Ω外来の医師だ。
  Ωの渚君は、当然ながらΩ外来に運ばれた。医師は、診察前に渚君の既往歴と、抑制剤の種類、年齢、血液型等を確認する為に、彼の鞄の中を検めたそうだ。そして、保険証やお薬手帳と一緒に見つけたらしい。明らかに胎児らしき陰影が映る『エコー写真』を。
  確証を得る為に、意識のない彼にするのには抵抗がありつつも、内診をした。結果、妊娠を確認。ただ、まだ極めて初期で、心拍は確認出来ないレベル。それでも、エコー写真を持っていた事から、彼は自身の妊娠を知っているのだろう、と医師は言った。
  そして、何があったのかを訊いてきた。私に代わり門脇が説明してくれたが……。
  飛んできたのは、烈火の如く怒りを露わにする医師の叱責。

「何を考えてるんですか! 妊娠しているΩにαの威圧を放つなんて! 流産したらどうするんですか! 知らなかった…なんて言い訳、通じないんですよ! 胎児だって生きてるんです! 胎児の命はお金では買えないんですよ!?  解ってますか!? 」

  医師の怒りは尤もだった。言い訳など出来はしない。
  私は素直に頭を下げた。

「申し訳ないと思っている。弁明のしようもない。犯罪だという事も理解している」
「……………」

  頭上から聞こえるのは大きな溜め息。

「私に謝られてもね…」
「解っている。彼に…渚君に会えるだろうか?」
「まだ意識は戻っていません。呼吸は安定していますし顔色も戻りましたから、すぐに目覚めるとはおもいますが。
  ですが、会えるかどうかは判りませんよ?」
「…え?」

  私が上げた声に、医師が再び溜め息を吐く。

「当然でしょう? いきなりαの威圧を受けて、彼は怖かった筈です。何故、気付かないのですか。
  彼が起きたら訊いてはみますが、すぐに会えるとは限らない、という事です」

  そう言われてしまえば、「どうしても会って謝罪がしたい」などと、言える筈もなかったー。
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