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合コン当日

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翌日。
お昼の13時を過ぎた頃。
あたしは柳瀬さんに言われて、店内で品出しの作業をしていた。
売り場にはレジにアルバイトの吉河さんがいて、柳瀬さんが売り場のチェックをしているらしい。

今日は合コン当日。
シフトは早番だから、夕方の18時までとなっている。
平日のおもちゃ屋さんは店内が凄く静かだ。
たまにお孫さんにおもちゃを買おうとおばあちゃんかおじいちゃんが来たりするけれど、今はそれも無い。
それでも、どこかの大学生が数人くらいでゲームソフトを買いにきて、レジを済ませて店を後にした時。
すれ違うように、今度はまだ20代前半くらいの若い女の人が店内に1人でやって来た。

「いらっしゃいませー」

ちなみに、こういう年代の女の人が1人でおもちゃ屋さんに来ることはなかなかない。
そのお客さんは何かを探しているようで、だけど店の奥で何かを発見すると、嬉しそうな声を出して言った。

「!…修っ、」

シュウ…?
あたしはその聞き慣れない呼び名を耳にすると、つい気になってその声がした方を振り向く。
…わ、すっごい綺麗な人。
モデルでもやってるのかな。
その人は店内の奥に進むと、何故か柳瀬さんに真っ先に駆け寄った。

「修っ…」

その人が、柳瀬さんに駆け寄った瞬間。
あたしは途端に凄く嫌な予感がした。
柳瀬さんの下の名前は確か「修史」。
それを親しげに「修」なんて、呼び捨てにしたこの人…誰なんだろ。
あたしは仕事中にも関わらずえらく気になって、思わず柳瀬さんがいるところを離れた場所からガン見してしまった。
すると、当の呼ばれた本人の「修」こと柳瀬さんが少し驚いたような口調でその人に言う。

「は…お前何しに来たの」
「だってぇ~、ここで店長になったって聞いたから、つい会いたくなって来ちゃった。最近連絡くれないんだもん、」
「や、俺仕事中だから出てって。お前みたいな奴が1人でくる店じゃないだろ」
「…今日何時に終わるの?」
「…」

柳瀬さんの言葉にその女の人はそう問いかけるけれど、柳瀬さんは答えようとしない。
しかしレジに立っている吉河さんの元にいくと、その人は今度は吉河さんに問いかけた。

「すみません、このお店閉店何時ですか?」
「…19時です」
「じゃあ、修…柳瀬くん、何時までかわかりますかぁ?」

女の人がそう問いかけると、吉河さんは奥にいる柳瀬さんを気にしながら、少し言いにくそうに言った。

「…確か閉店までだったと思いますけど」
「そう、ありがと」

女の人はそう言って吉河さんに微笑んで、また柳瀬さんの元に行く。
そして仕事中の柳瀬さんに、甘えたような声で言った。

「今日家行ってもいいでしょ?」

その問いかけに、あたしはバクバクと心臓の音を立てながら、柳瀬さんの返事を待つ。
ちなみに今日は、合コンがあるとは直接は言っていないけれど、あたしは久しぶりに自分のマンションに帰ると事前に柳瀬さんに伝えてある。
だから、柳瀬さんは今日は1人でいる予定のはずで…。
だめ、だめ。いや…。
思わずそう思いながら不安でいたら、やがて柳瀬さんが言った。

「ダメに決まってんだろ」

…よかった…。
しかし、あたしがそう安堵したのも束の間、女の人が特に気にする様子もなく、むしろ柳瀬さんを無視して言った。

「明日定休日なんでしょ?今夜は2人でゆっくりしようね」

女の人は語尾にハートマークをつけるようにそう言うと、柳瀬さんの返事を聞かずにやっと店を後にした。

「…っ、」

なんか、今の時間すっごく嫌だった。
っていうか、あの女の人誰なの?まさか転勤する前の柳瀬さんの彼女、とか?
え、でもでも、今までの柳瀬さんの感じだと、そんな雰囲気なかったけどな。
いや確かに直接的に聞いたりは、しなかったけど。
もしかして、あたしやっぱり遊ばれてた?
…やばい。仕事に集中できない。

『今夜は2人でゆっくりしようね』

ゆっくりって?ゆっくりって何?
ゆっくり2人で何するの?
あたしはまだ柳瀬さんと付き合ってないし、まだキス止まりだし、それ以上はやってない。
…あ、柳瀬さんが「付き合おう」ってなかなか言わなかったのは、あたしの他に付き合っている彼女がいたからなのかな。

「…、」

あたしはそう思うと、凄く大きなショックを感じて、仕事中なのに全てのやる気を失ってしまった。
…やば。もうなんか、全部どうでもいい…。


…………


「夏木さん」
「あ、鏡子ちゃん今日の合コン楽しもうね!」
「そのことなんですけど」
「?」

あれから数時間が経って、夕方の休憩に入った時。
あたしはショックすぎて、夏木さんに言った。

「すみません、あたし体調悪くて、今日合コン出れません」
「え、ほんと!」
「…」
「でも確かに顔色悪いかも。ってか早退しなくて平気?」

夏木さんはそんなあたしにそう言って心配してくれるけど、仕事を抜けたら迷惑をかけちゃうし、早退するわけにはいかない。
早番で終わるまであと2時間ほどだし、あたしは何とか頑張ることを夏木さんに伝えた。
「無理しないでね」と言われたけれど、仕事をしていなきゃまた嫌なことを考えてしまいそうで。

だって、本格的に気づいてしまった。
あたしは柳瀬さんが好き。
柳瀬さんのことが大好きなんだ。
いつの間にか落ちていた。
せっかく気づいたのに、もしかして失恋かな。
気を抜いたらすぐにでも泣き出しちゃいそうだし、どのみちもう合コンに出られるような状態じゃない…。

…しかし、あたしは全く気づかないでいた。

「…」

そんな夏木さんとの会話を、すぐそばで柳瀬さんが聞いていたことに…。






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