聖女無双。

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
上 下
7 / 8

婚約解消。(公爵令息編)

しおりを挟む
昼の中庭でそれはおこった。

「君との婚約を解消する。」
「そんな…… 」

婚約を解消を聞いたアイシアは、両手を口元にかざした。可愛らしい顔の大きな褐色の瞳が、より大きく開く。

さわさわと、春の風が彩り始めた若葉を揺らす。柔らかいアイシアの茶色の髪をも、揺らした。

昼休みのさなか、中庭には沢山の学生達が遠巻きに彼らを見ている。

「彼女は僕がいないと駄目なんだ。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
男に寄り添う女は、泣きながら男の腕に縋り付いている。

「君は、僕がいなくても1人でも大丈夫だよね。」

心無い言葉。

彼はガリオン。金の髪・青い目の優男、ブックス国の王族の血を引く公爵家の者だ。そして隣に縋り付いている彼女は共に勉学に勤しんできた、侯爵家のアンネ。柔らかい赤毛のか弱い令嬢だ。

アイシアは今、隣の国ペンシルに共々留学に来ている。仲睦まじかった二人は、今別れの時を迎えようとしている。

ゴッ!!


「ぐっバァ!! 」
「大丈夫な、ないわーー!! 」
口から白いものを吐き出しながら、ガリオンが其の場から飛んだ。アイシアの右ストレート『聖女の鉄槌』が、ガリオンの左頬に炸裂したのだ。

「キャあぁああーー!! ガリオン様!! 」
アンネが悲鳴をあげる。

「言うにことかいて、なに抜かしてやがる!! このがっ!! 」
近くの木に打ち付けられたガリオンに向かってずんずんとアイシアは歩く。

「強い? 強がって見せるに決まってるやろ!! それが分からんのかぁ、このがっ!! 」 
アイシアはガリオンの胸ぐらを掴んで引き寄せた。小柄のアイシアの筋力強化で引き上げられたガリオンは地に膝を付くかつかないかの微妙なぶら下がり方をしていた。

既にガリオン怪我は治っている。聖女アイシア回復魔法だ。

「浮気したのはおのれやろ? 何、人様の所為にしてんや。このがっ。」
可愛らしい見た目のアイシアから、どすの利いた声が其の場に木霊する。その大きくて憂いを帯びたアイシアの瞳が、細められている。

「人様のいるところで何言ってんやわれ、脳みそでもわいてんか? ああん? 」
ぶら下がったガリオンに、アイシアの小顔な顔が近づけられる。

「このような場所で、言ってしまってす、すみません!! 」
ガリオンは震えながら謝った。

「『人の心は』其れは分かるわ。婚約者がいても、恋人がいても、他の人を好きになってしまうこともあるやろう。其れは否定せんわ。」
アイシアは少し寂しそうに微笑んだ。

「だがな、そう言う時はな。道理を通して、誠心誠意謝るもんや。」
アイシアはそのままガリオンの頭を地に押さえつけた。

「地べた這いつくばって、誠心誠意コメツキバッタのように下げな!! 」
「すみません!! 」
アイシアに手で押さえつけられ地に顔を埋めながら、ガリオンは謝る。

「うん、うん」と、その場で見守っていた野次馬たちはアイシアの言葉にと頷きながら見ている。

どう考えても、浮気した方が悪い。なのに浮気した者が悪いように言うのはいかがなものか。浮気した者が『誠心誠意謝る』アイシアの言う事はもっともであった。

これが噂に聞いた『聖女の道理』かと、其の場にいる学生達は思った。







しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動

しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。 国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。 「あなた、婚約者がいたの?」 「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」 「最っ低!」

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む

リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。 悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。 そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。 果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか── ※全4話

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

処理中です...