聖女無双。

❄️冬は つとめて

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婚約解消。(第二王子)

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華々しく開催された、第二王子イルーゾォの誕生日の舞踏会。婚約者である令嬢をエスコートして現れた。

「あま、あの方が…… 」
「いやだわ、みっともない。」
第二王子が連れている婚約者は、辺境伯の令嬢ミラージュ・フォン・ペンシル伯爵令嬢。令嬢としては短い赤い髪を肩で揺らし、緑色のドレスを靡かせ颯爽とイルーゾォ王子と歩いている。

「見ろ、令嬢とも思えない体型だ。」
「イルーゾォ王子もお気の毒に。」
赤い軍服を着た黄土色の髪と緑い目の美丈夫の王子の隣に立つミラージュ令嬢は、背も高く体も他の令嬢とは違い逞しくあった。

化粧で隠しているが頬に薄っすらと傷の跡もある。襟元まで長いドレスで見えはしないが、体にも傷跡が残っている。彼女は肩や胸元を開けるドレスは着れなかった。

つい数年前、『聖女』が現れる前に隣の国と小競り合いが発生した。その小競り合いの最前線がペンシル伯爵の辺境であった。敵を退けるため、辺境の兵も民も戦った。ミラージュ令嬢も言わずもがなである。

いつ何時の為、辺境に生まれた令嬢も剣の稽古し戦力とて数えられる。貴族と生まれた、義務でもあった。

戦うすべもない民を護る為にミラージュも子供の頃から剣を振るい、鍛えていた。故に体は他の令嬢とは違い、逞しくあった。

「先の戦いの褒美に王族との婚姻を迫ったようですわ。」
「傷者令嬢ですもの、貰い手がいないからと。」
「お可哀想ですわ、イルーゾォ様。」
ミラージュを見て、他の令嬢達はひそひそと陰口を叩く。

「いくら何でもアレは無いな。」
「王子も気の毒に、王命だろ。」
「もう少し聖女様が早く現れていたら、婚姻を迫られなかっただろうに。」 
王太子と義姉の隣に立っているアイシアと比べて、子息達が話している。

黄緑色のドレスとふわりと柔らかい茶色の髪と庇護欲唆られる可愛らしい顔。体も普通の令嬢より小さいアイシア。青いドレスを着た美しい義姉ミスティア共々男達の目を奪っていた。その二人と比べられる、第二王子の婚約者ミラージュ。

「今、聖女様にはお相手が決まってないんだろ。」
「なら、今からでも聖女様に変えられたら。」
「聖女様が王族へと嫁ぐのは国の定めだ。」
つい最近起こった、舞踏会の事や卒業式の事は噂程度にしか彼等は知らなかった。

お優しい聖女様が、愛する二人を引き裂くのは心が痛いと自ら婚約を辞退したと噂で聞いていた。

まさか庇護欲を唆る聖女が、無双して国の定めを変えさせたとは。


「第二王子イルーゾォ様には、聖女様が相応しくなくって。」
「ええ、王命であんな方と婚姻なんてイルーゾォ王子様がお可哀想ですわ。」
ざわざわとざわめく声は、気にしないつもりでもミラージュの耳に届く。

ミラージュはグッと唇を噛み締めた。弟に祝いの挨拶をしに来たアルフィノ王太子とミスティア。その後に可愛らしく続くアイシア。そのアイシアを見て、ミラージュは目を閉じた。

そして、意思を決して婚約者のイルーゾォに声をかけた。

「イルーゾォ様。やはりこの婚約は解消致しましょう。」
「何を言っているんだ、ミラ。」
寝耳に水のように顔を向けるイルーゾォ。

「私は、あなたに相応しくはない。」
寂しそうな目を婚約者に向けるミラージュ。

「無理をなさらないでください。王命で私のような……傷者…… 」
「ミラ、違 「聞きまして!!」
イルーゾォの声を遮るように何処かの令嬢が声をあげた。

「それでこそ、国を護る辺境のご令嬢。感服する。」
続いて、何処かの貴族が声をあげる。

「国の為を思えば、聖女と王子が婚姻するのが当たり前だ。」
「そうですな。」
目の前に聖女と婚姻しなかった王太子がいる事を忘れて、貴族達がざわめく。上位の貴族達ではなく、下位貴族達であった。

「宜しゅう御座いました、イルーゾォ王子様。」
「ミラージュ様は、身の程をわきまえておられるのね。」
「イルーゾォ王子、おめでとうございます。聖女様とお幸せに!! 」
「お二人はお似合いです!! 」
勝手に盛り上がる貴族達。

ドコッ!!!!
と、地面が揺れた。





    
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