5 / 8
婚約解消。(第二王子)
しおりを挟む
華々しく開催された、第二王子イルーゾォの誕生日の舞踏会。婚約者である令嬢をエスコートして現れた。
「あま、あの方が…… 」
「いやだわ、みっともない。」
第二王子が連れている婚約者は、辺境伯の令嬢ミラージュ・フォン・ペンシル伯爵令嬢。令嬢としては短い赤い髪を肩で揺らし、緑色のドレスを靡かせ颯爽とイルーゾォ王子と歩いている。
「見ろ、令嬢とも思えない体型だ。」
「イルーゾォ王子もお気の毒に。」
赤い軍服を着た黄土色の髪と緑い目の美丈夫の王子の隣に立つミラージュ令嬢は、背も高く体も他の令嬢とは違い逞しくあった。
化粧で隠しているが頬に薄っすらと傷の跡もある。襟元まで長いドレスで見えはしないが、体にも傷跡が残っている。彼女は肩や胸元を開けるドレスは着れなかった。
つい数年前、『聖女』が現れる前に隣の国と小競り合いが発生した。その小競り合いの最前線がペンシル伯爵の辺境であった。敵を退けるため、辺境の兵も民も戦った。ミラージュ令嬢も言わずもがなである。
いつ何時の為、辺境に生まれた令嬢も剣の稽古し戦力とて数えられる。貴族と生まれた、義務でもあった。
戦うすべもない民を護る為にミラージュも子供の頃から剣を振るい、鍛えていた。故に体は他の令嬢とは違い、逞しくあった。
「先の戦いの褒美に王族との婚姻を迫ったようですわ。」
「傷者令嬢ですもの、貰い手がいないからと。」
「お可哀想ですわ、イルーゾォ様。」
ミラージュを見て、他の令嬢達はひそひそと陰口を叩く。
「いくら何でもアレは無いな。」
「王子も気の毒に、王命だろ。」
「もう少し聖女様が早く現れていたら、婚姻を迫られなかっただろうに。」
王太子と義姉の隣に立っているアイシアと比べて、子息達が話している。
黄緑色のドレスとふわりと柔らかい茶色の髪と庇護欲唆られる可愛らしい顔。体も普通の令嬢より小さいアイシア。青いドレスを着た美しい義姉ミスティア共々男達の目を奪っていた。その二人と比べられる、第二王子の婚約者ミラージュ。
「今、聖女様にはお相手が決まってないんだろ。」
「なら、今からでも聖女様に変えられたら。」
「聖女様が王族へと嫁ぐのは国の定めだ。」
つい最近起こった、舞踏会の事や卒業式の事は噂程度にしか彼等は知らなかった。
お優しい聖女様が、愛する二人を引き裂くのは心が痛いと自ら婚約を辞退したと噂で聞いていた。
まさか庇護欲を唆る聖女が、無双して国の定めを変えさせたとは。
「第二王子イルーゾォ様には、聖女様が相応しくなくって。」
「ええ、王命であんな方と婚姻なんてイルーゾォ王子様がお可哀想ですわ。」
ざわざわとざわめく声は、気にしないつもりでもミラージュの耳に届く。
ミラージュはグッと唇を噛み締めた。弟に祝いの挨拶をしに来たアルフィノ王太子とミスティア。その後に可愛らしく続くアイシア。そのアイシアを見て、ミラージュは目を閉じた。
そして、意思を決して婚約者のイルーゾォに声をかけた。
「イルーゾォ様。やはりこの婚約は解消致しましょう。」
「何を言っているんだ、ミラ。」
寝耳に水のように顔を向けるイルーゾォ。
「私は、あなたに相応しくはない。」
寂しそうな目を婚約者に向けるミラージュ。
「無理をなさらないでください。王命で私のような……傷者…… 」
「ミラ、違 「聞きまして!!」
イルーゾォの声を遮るように何処かの令嬢が声をあげた。
「それでこそ、国を護る辺境のご令嬢。感服する。」
続いて、何処かの貴族が声をあげる。
「国の為を思えば、聖女と王子が婚姻するのが当たり前だ。」
「そうですな。」
目の前に聖女と婚姻しなかった王太子がいる事を忘れて、貴族達がざわめく。上位の貴族達ではなく、下位貴族達であった。
「宜しゅう御座いました、イルーゾォ王子様。」
「ミラージュ様は、身の程をわきまえておられるのね。」
「イルーゾォ王子、おめでとうございます。聖女様とお幸せに!! 」
「お二人はお似合いです!! 」
勝手に盛り上がる貴族達。
ドコッ!!!!
と、地面が揺れた。
「あま、あの方が…… 」
「いやだわ、みっともない。」
第二王子が連れている婚約者は、辺境伯の令嬢ミラージュ・フォン・ペンシル伯爵令嬢。令嬢としては短い赤い髪を肩で揺らし、緑色のドレスを靡かせ颯爽とイルーゾォ王子と歩いている。
「見ろ、令嬢とも思えない体型だ。」
「イルーゾォ王子もお気の毒に。」
赤い軍服を着た黄土色の髪と緑い目の美丈夫の王子の隣に立つミラージュ令嬢は、背も高く体も他の令嬢とは違い逞しくあった。
化粧で隠しているが頬に薄っすらと傷の跡もある。襟元まで長いドレスで見えはしないが、体にも傷跡が残っている。彼女は肩や胸元を開けるドレスは着れなかった。
つい数年前、『聖女』が現れる前に隣の国と小競り合いが発生した。その小競り合いの最前線がペンシル伯爵の辺境であった。敵を退けるため、辺境の兵も民も戦った。ミラージュ令嬢も言わずもがなである。
いつ何時の為、辺境に生まれた令嬢も剣の稽古し戦力とて数えられる。貴族と生まれた、義務でもあった。
戦うすべもない民を護る為にミラージュも子供の頃から剣を振るい、鍛えていた。故に体は他の令嬢とは違い、逞しくあった。
「先の戦いの褒美に王族との婚姻を迫ったようですわ。」
「傷者令嬢ですもの、貰い手がいないからと。」
「お可哀想ですわ、イルーゾォ様。」
ミラージュを見て、他の令嬢達はひそひそと陰口を叩く。
「いくら何でもアレは無いな。」
「王子も気の毒に、王命だろ。」
「もう少し聖女様が早く現れていたら、婚姻を迫られなかっただろうに。」
王太子と義姉の隣に立っているアイシアと比べて、子息達が話している。
黄緑色のドレスとふわりと柔らかい茶色の髪と庇護欲唆られる可愛らしい顔。体も普通の令嬢より小さいアイシア。青いドレスを着た美しい義姉ミスティア共々男達の目を奪っていた。その二人と比べられる、第二王子の婚約者ミラージュ。
「今、聖女様にはお相手が決まってないんだろ。」
「なら、今からでも聖女様に変えられたら。」
「聖女様が王族へと嫁ぐのは国の定めだ。」
つい最近起こった、舞踏会の事や卒業式の事は噂程度にしか彼等は知らなかった。
お優しい聖女様が、愛する二人を引き裂くのは心が痛いと自ら婚約を辞退したと噂で聞いていた。
まさか庇護欲を唆る聖女が、無双して国の定めを変えさせたとは。
「第二王子イルーゾォ様には、聖女様が相応しくなくって。」
「ええ、王命であんな方と婚姻なんてイルーゾォ王子様がお可哀想ですわ。」
ざわざわとざわめく声は、気にしないつもりでもミラージュの耳に届く。
ミラージュはグッと唇を噛み締めた。弟に祝いの挨拶をしに来たアルフィノ王太子とミスティア。その後に可愛らしく続くアイシア。そのアイシアを見て、ミラージュは目を閉じた。
そして、意思を決して婚約者のイルーゾォに声をかけた。
「イルーゾォ様。やはりこの婚約は解消致しましょう。」
「何を言っているんだ、ミラ。」
寝耳に水のように顔を向けるイルーゾォ。
「私は、あなたに相応しくはない。」
寂しそうな目を婚約者に向けるミラージュ。
「無理をなさらないでください。王命で私のような……傷者…… 」
「ミラ、違 「聞きまして!!」
イルーゾォの声を遮るように何処かの令嬢が声をあげた。
「それでこそ、国を護る辺境のご令嬢。感服する。」
続いて、何処かの貴族が声をあげる。
「国の為を思えば、聖女と王子が婚姻するのが当たり前だ。」
「そうですな。」
目の前に聖女と婚姻しなかった王太子がいる事を忘れて、貴族達がざわめく。上位の貴族達ではなく、下位貴族達であった。
「宜しゅう御座いました、イルーゾォ王子様。」
「ミラージュ様は、身の程をわきまえておられるのね。」
「イルーゾォ王子、おめでとうございます。聖女様とお幸せに!! 」
「お二人はお似合いです!! 」
勝手に盛り上がる貴族達。
ドコッ!!!!
と、地面が揺れた。
53
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します
青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。
キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。
結界が消えた王国はいかに?

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。


聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。

聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!
naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。
サラッと読める短編小説です。
人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。
しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。
それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。
故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる