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 それから数日経っても答えが出ない。クリスはいつもと変わらず私の従者として側にいてくれている。しかしそろそろ答えを出さないといけない。そんな時母からお茶に誘われた。


「調子はどうかしら?」

「…大丈夫です」

「ふふふ、そんな分かりやすい嘘をつくなんてアンゼリーヌらしくないわね」

「えっ!?」

「いつものあなたならもっと上手に隠しているはずよ。一体何があったのかしら?ケイトも心配しているわよ?」

「!」


 どうやらケイトが母に私の様子がおかしいと報告したようだ。私はそんなにいつもと違っただろうか。


「部屋では上の空になることが多かったそうだけど何があったの?よかったら話してみない?」

「……実は――」


 私は母にクリスとのことを相談することにした。このままでは埒が明かないと思ったからだ。何か答えが出ればいいのだが…


「そう…。クリスがあなたを救ってくれたのね。そしてあなたを愛しているから側から離れたいと」

「…はい。でも私はクリスが側にいないということが想像できないんです。それにクリスが離れていくと思うとどうしてか胸が苦しくなって…」

「うふふ」

「お母様…?」

「ふふ、あなたもクリスのことが好きなのね」

「好き…っ!そ、それはクリスは大切な友達で…」

「それじゃあ大切な友達の気持ちを尊重してあげればいいだけではなくて?」

「…」

「私はねあなたにも幸せになってほしいの」

「幸せ…?」


 私は今十分幸せだ。なんてったって今まで生きられなかった人生の続きを生きることができているのだから。それなのに母には私は幸せに見えないのだろうか。


「国のためではなく自分のために幸せになってほしいのよ。あなたがこの国のために独身を貫いてまで中継ぎの役目を果たそうとしていることは分かっているし感謝しているわ。でもねレイモンドかカトリーナがあなたの後を継いだその後も一人で生きていくつもりなの?」

「っ!…そこまでは考えていませんでした」

「忙しかったのだから仕方ないわよ。でもいつか必ずその日は来るわ。その時にあなたを側で支えてくれる人がいてくれたらと思うのよ。そしてその相手がクリスならいいなと私は思うわ。だって彼なら間違いなくあなたを大切にしてくれるもの」

「私は…」

「あなたの中でクリスを想う気持ちがハッキリすればすぐに答えは出るわ。だからもう一度よく考えてごらんなさい」

「…はい」


 その日の夜、私は母に言われたことを考えてみる。確かに即位してからは忙しく退位した後のことは全く考えていなかった。


 (おそらく私が退位するのは二人が十八歳を迎えてから…。その頃には私は三十歳手前、か)


 退位後は皇城から出ていくつもりだ。その時にも私の側にクリスがいるのが当たり前だと思っていたのに、それがもう当たり前ではなくなろうとしている。


 (クリスは私のことを愛しているって言ってくれた…。私はクリスのことをどう思っているの?従者?友達?)


 ふともしもクリスが他の女性と、という考えが頭を過った。


 ――ズキッ


「それは嫌……、っ!」


 自分のことのはずなのにこんな気持ちがあるなんて今まで知らなかった。


 (…私もクリスのことを愛しているってこと?)



「…好き」


 ――ドクン


「…クリスのことが好き」


 ――ドクンドクン


「ずっと一緒にいたい」


 ――ドクンドクンドクン…


 次第に心臓の音が激しくなっていくのが分かる。だが不快ではない。なんだかくすぐったい気分である。


 (いつの間にか従者や友達よりも大切な存在になっていたなんて、ね)


 今回のことがなければ気づかなかっただろう。だけど気づいてしまった。私はもうクリスの手を離すことができそうにない。ようやく答えが出た。いや、きっと前から答えは出ていたが気づかない振りをしていたのだろう。
 でもそれはもうおしまい。せっかくの生き延びた人生、後悔しないように生きなければ。


 次の日私はクリスに告げたのだ。

「私もあなたを愛している」と。




 その後私はレイモンドとカトリーナが十八歳となり皇帝の座を退いた。新しい皇帝にはレイモンドが即位し、カトリーナは臣籍降下の道を選んだ。そして退位した私はクリスと結婚した。私が二十九歳でクリスが三十一歳。長く待たせてしまい呆れているか心配であったが、そんな不安を掻き消すほどクリスは私を深く愛してくれている。いつか私も我が子をこの腕に抱く日がくるのだろうか。

 そんな日が来ることを強く願いながら、私は愛する人とこの四度目の人生を生きていく。
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