死に戻った逆行皇女は中継ぎ皇帝を目指します!~四度目の人生、今度こそ生き延びてみせます~

Na20

文字の大きさ
上 下
29 / 30

29

しおりを挟む

 それからあっという間に時は流れ、気づけば私は二十九歳となっていた。
 皇帝に即位した日に国民に誓ったとおり、私は国のために尽力した。結果ラスティア帝国はどこの国よりも平和で豊かな国となったのである。

 私はいまだに結婚はしておらず独身を貫いている。あくまでも私は中継ぎだ。中継ぎの皇帝に子ができてしまえば新たな争いの火種となる可能性がある。私はそんなことは望んでいない。だから結婚するのであれば退位してからと決めており相手もそれを了承してくれている。
 …そう、相手はいるのだ。父と母からも許可をもらい、退位後に結婚する予定だ。相手はクリスだ。クリスのことは昔から大好きであったがそれは友情や親愛よるものだった。それが変わったのは私が皇帝になってからだ。私が十八歳の誕生日を迎えた頃からクリスの様子がおかしくなったのだが、即位したばかりで公開処刑もあり忙しく気にかける暇がなかった。しかし即位して数ヶ月も経つと忙しい日々もある程度落ち着いてきたが、すでにその時には私を見るクリスの瞳に熱が籠っていた。


 (どうしてそんな目で私を見ているの?)


 そんな疑問を抱いていたある日、クリスから話があると言われた。どのような話なのか内心ドキドキしながらその日の執務を終え、クリスを執務室へと呼んだ。


「クリスから話があるなんてめずらしいわね。一体どんな話なの?最近様子がいつもと違っていたけれどそれと関係あるのかしら?」

「……」

「クリス?」

「…思い出したんです」

「思い出す?クリス、一体何を…」

「最初は国境を越えてすぐの森の中でした。アンゼリーヌ様が胸から血を流し倒れていました」

「っ!ど、とうして…」


 クリスが言う最初というのは一度目の人生のことだろうか。十二歳の頃にこのやり直しの人生について話しはしたが、自分がどこでどうやって死んだかは詳しく言わなかった、いや言えなかったのだ。それなのになぜかクリスは知っている。


「二度目は元第一皇女の宮の床の上で血を流して倒れており、三度目は地下牢で毒によってアンゼリーヌ様は…。だから私は魔法を使ったのです」

「…もしかして記憶が?」

「はい」

「嘘…」

「アンゼリーヌ様が即位され国民に挨拶されている時に突然思い出しました」

「…魔法を使ったのはクリス、なの?」

「…はい」


 クリスの言うことが本当なら彼は私のために三度自分の命を犠牲にしたということだ。なぜ記憶が戻ったのかは分からない。ただ思い出すのは死ぬ直前に聞こえたクリスの声。幻聴だと思っていたがどうやら幻聴ではなかったようだ。


「…どうして?」

「アンゼリーヌ様?」

「っ、どうして時間を戻す魔法を使ったの!?私もあれからその魔法について調べたわ。確かに時間を戻すことができると書かれていた。けど!代償は術者の命!どうしてクリスは私のために自分の命を犠牲にしたの!私は一度目も二度目もそれに前回だって死ぬ直前にあなたのことを思い出していたわ!どうか無事に生きてほしいって願っていたの!それなのにどうして…!」

「私がアンゼリーヌ様を愛してしまったからです」

「えっ?」

「どうかお許しください。…私はあなたを愛してしまったのです」

「わ、私を…?」


 突然の告白に私は戸惑った。だって男の人に愛してるだなんて初めて言われたから。


「はい。アンゼリーヌ様の死を目の当たりにし、私はアンゼリーヌ様がいない世界で生きていくなんて考えられませんでした。そして毎回その時に時間回帰の魔法を思い出すのです。成功すればそれでいいし、もし失敗してもアンゼリーヌ様の後を追える。だからなんの躊躇いもありませんでした。今だって同じです。もしもアンゼリーヌ様の身に何かあれば私は喜んでこの命を差し出すでしょう。私は自分の命よりアンゼリーヌ様の幸せの方が大切なのです」

「クリス…」

「しかし私はアンゼリーヌ様の従者です。主にそのような感情を持つことなどあってはなりません。隠そうとも考えましたが、邪な気持ちを抱えたまま仕えることはできそうにありませんでした。それだけ私はあなたを愛してしまっているのです。…だから従者を辞めさせてください」

「え…」


 (クリスが私の側からいなくなる…?)


 そんなこと考えたこともなかった。今までは自分が先に死んでしまい離ればなれになってしまったが今回は違う。クリスから離れていってしまうのだ。そう思うと胸が苦しくなる。


 (この胸の苦しさは何?)


 疑問に思うも答えはでない。


「…少し時間をちょうだい」

「分かりました。…それでは失礼いたします」


 そう言ってクリスは部屋から出ていった。
 私は一人になった部屋で考える。クリスの願い通り彼を解放してあげるべきなのだろうか。しかしそれを嫌だと思っている自分がいる。私はこの日眠れない夜を過ごしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

(完結)見捨てられた令嬢は王子と出会う。[アルファ、scraiv専用]

書くこと大好きな水銀党員
恋愛
 地方領主ヴィス家に生まれた彼女はアメリア。黒髪の長髪が特徴の学園に通っているただ普通の貴族令嬢の女の子。  彼女には婚約者が居た。上級貴族の人だったが趣味じゃないと言い渡される。そして、目上だった事もあり婚約破棄された。   破棄程度、気にしてはないように思えたら母親の罵声。好きだった祖父の訃報から母親の残酷な言葉。そして学園での陰口で心が壊れてしまう。  眠れない夜を薬で頼る程に弱る彼女。そして小説の世界に逃げ込みながら、日々を過ごしていた彼女。しかし……………ある日を境に変わっていく…………一人の男性との出会いで。彼の優しさに好きになるのは時間を要しなかった。そして彼もまた。同情からの始まりが愛しい人へと変貌する。  婚約破棄から逆転。心が壊れたが王子によって取り戻す姫とその姫に興味を持ち誰よりも愛する王子さまの出逢いから結婚までの激しい愛のシンデレラの物語  ※ザマァ要素が他より薄いです。  ※イチャラブします。  ※連載のスピンオフ作品で世界観は一緒です。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...